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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第九章
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変わらないもの

一部修正しました。

 ティナと連れ立って街まで降りてきたミアは、予想以上の人の多さに驚いた。


 ユルグは麓のメイユの街のことを辺境の田舎町であると言っていたのだ。それを聞いて想像するのは、ミアが生まれ育った故郷の村。それと同じくらいの規模なのだろうと、そう思っていた。


 それなのに、この人と物の多さはどういうことか!


「こんなの聞いてない!」


 人波の中で立ち止まったかと思うといきなり叫び声を上げた友人に、ティナは驚いて瞠目する。


「ど、どうしたのですか?」

「あの嘘つきに憤ってたところ! どうしてこんなこと、秘密にしてたのよ!」


 大通りを見渡しても、沢山の屋台が並んでいる。

 この数ならば一日中、見て回っても飽きないくらいだ。


「きっとミアと一緒に来たかったのでしょうね」

「そっ、……そうかなあ?」


 唐突なティナの発言に、ミアは大仰なほどに肩を揺らして振り向いた。

 そこには楽しそうに笑みを浮かべる友人の姿。


「あの方はミアのことを好いていますからね。隠せていると思っているようですが、丸わかりです」

「それ、ユルグに言わないでね? たぶん、とっても恥ずかしいと思うから」

「それは……遅すぎる忠告ですね」


 苦笑して吐き出した言葉は、ミアの耳には届かなかった。

 聞き返そうと近寄ったところを狙って、ティナがミアの手を取って歩き出す。


「せっかく来たのですから、話してばかりではもったいないですよ」

「う、うん。そうだね」


 人混みを掻き分けて、大通りの屋台を覗いていく。

 そういえば今は昼時だ。ユルグが薪割りから戻ってから食事を摂ろうと思っていたから、まだ空きっ腹である。


「ねえ、ティナはお昼ご飯、何か食べた?」

「いいえ、まだですね」

「だったら何か食べていこうよ。ほら、ここの串焼き美味しそう」

「……馴鹿の肉ですか。私も食べたことはありませんね」


 馴鹿はどうにも寒い地域にしか生息していないらしい。だったらご当地グルメということだ!


 興味津々なティナを見遣って、ミアは財布を取り出そうと懐をまさぐる。

 その瞬間、あることに気づいて一気に背筋が冷えた。


「……お財布、忘れてきちゃった」


 そういえば、いきなり席を外せと言われて外套を羽織っただけの着の身着のまま。こうして街まで来たのだった。

 その事を思い出して頭を抱えていると、それを見たティナから笑みがこぼれる。


「あんなに張り切って出てきたのに、ミアらしいですね」

「わ、笑い事じゃないよ」


 穴があったら入りたいとはまさにこの事だ。

 しょんぼりと肩を落として項垂れていると、そんなミアを気遣ってか。ティナがある提案をする。


「私が出しますよ」

「うっ、……いや、それはダメ! 私が奢らなきゃ意味ないじゃない!」

「そうは言っても、手持ちがないならどうにもならないですよ?」

「ううう……」


 正論に返す言葉もない。

 うろうろと視線を彷徨わせていると、あるものが目に入った。冒険者ギルドの看板だ。


「そうだ、フィノに借りよう」


 彼女は朝から街で依頼を受けているはず。いつもなら帰ってくるには早い時間帯だ。丁度昼時だし、もしかしたらギルド内にいるかもしれない。


 一縷の望みを掛けて、ティナの手を引いて冒険者ギルドの扉を叩く。


「別にそこまでしなくても、私が」

「あの子、いま小金持ちなのよ。少しくらいなら快く貸してくれるはず!」

「だから私が」

「うーん……あ、いた!」


 中に入って、室内を見渡すとすぐにその姿を見つけた。

 人混みの中では彼女のまっしろな髪は目に付くのだ。


「んぅ、どうしたの?」


 荷物がパンパンに詰まった背嚢をよいしょと持ち上げたところで、フィノはミアに気づいて近寄ってきた。

 その足元には黒犬のマモンも着いている。


「いやあ、少しお金借りたくて」

「ん、いいよ」

「――ですから私が」


 二の句もなく承諾してくれたフィノに、ミアの背後に隠れていたティナが口を挟んでくる。

 それを目にしたフィノとマモンは、一月ぶりに見る彼女に目を見開いて、揃って口を合わせた。


「なんでいるの!?」

『どうしてここにいるのだ!?』


 同じ反応をする一人と一匹に、ギルドの隅に移動して事の経緯を説明すると――


「ユーリンデ、いるの!?」

『アリアンネが来ているのか!?』


 興奮した様子でミアに詰め寄ってきた。


「う、うん。小屋にいるよ。アリアはユルグと何か話してる」


 だからこうして街で暇つぶしをしているんだ、と話す。

 けれど、そのことは彼女らにはそれほど重要ではないらしい。


「はやくもどらなきゃ!」

『こんな所で油を売っている場合ではないな』


 勇み足のフィノに、フリフリと尻尾を振るマモン。どちらも目を離した隙に全速力で駆けて行きそうである。


「戻るなら私たちが街に来てること、伝えておいてね。何も言わないで勝手に出てきちゃったから」

「わかった! エルはアルのところにいるから!」

「うん、用事が済んだら一緒に帰るね」


 ぽい、とミアの手に財布を持たせると我先にとフィノはギルドの外へと飛び出していった。それを追うようにマモンも掛けだしていく。


「何も変わっていませんね」

「ふふっ、でしょ?」


 慌ただしい一人と一匹の後ろ姿を眺めて、二人は苦笑を浮かべるのだった。


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