お節介焼き
女は宿屋の隣にある居酒屋の店主だという。
「店の裏がなにやら騒がしいと思って見に来てみれば……ウチの傍では逢い引きは禁止だよ!」
「いや、俺は何も」
「この子をこんな格好にさせておいて言い訳が通じると思ってるのかい。まったく……男ってのは本当、どうしようもないね」
やれやれと肩を竦めて、彼女はユルグからフィノを引き離す。
いきなりの展開にフィノも右往左往している。
彼女が一言、違うと言ってくれれば丸く収まるのだが、驚いてそれすらも頭にないようだ。
「とにかくウチにおいで。話くらいは聞いてあげるよ。この子にもちゃんとしたの着せてあげないとね」
そう言って女店主はフィノを連れて店へと入っていった。
面倒そうなのに絡まれたと息を吐いて、ユルグも後に続く。
彼女の名は、ラーセと言うらしい。
店内はこじんまりとした内装だ。客も数人。
どうやら一人で切り盛りしているらしく身の丈に合った商売をしているようだ。
空いていたカウンター席に座ると、奥で着替えを終えたフィノが隣に座る。
「娘のお古だけど似合ってるじゃないか」
「んぅ、ありあと」
「馬子にも衣装って奴だな」
「……まご?」
ユルグの冷やかしにフィノは首を傾げた。
派手さはないエプロンスカート姿は、やはり年頃の少女ということもあって、それらしい格好である。
ユルグが見繕ってきた服は、可愛らしさやおしゃれとは無縁の物だった。
この方がよっぽど街娘らしく見える。
「あんた、女の子によくそんな酷いことが言えるね」
「こいつはずっと奴隷として生きてきたんだ。何も間違いは言っていない」
ラーセはそれを聞いて、フィノに目を向けた。
「やっぱり、さっきのはあんたの仕業じゃないんだね」
「知ってたのか」
「あんたも十分怪しい成りしてるけど、素面で店の裏でおっぱじめる奴なんていないよ」
うんざりとした様子でラーセは言う。
おそらく、こういったことは良くあるのだろう。
奴隷売買が成りたっているんだ。治安はお世辞にも良いとは言えない。
「ここは国境が近いからね。人が集まってくる。噂の勇者様のせいで、ガラの悪い賞金稼ぎも目に付くようになってきたから、これから荒れるだろうね」
溜息を吐いて彼女は皿に盛られたシチューとパンを二人分、カウンターに置いた。
「頼んでない」
「この子にサービスしたんだよ。あんたはおまけ。良いから食べな」
ユルグを適当にあしらって、ラーセは客の注文に向かった。
随分と親切にしてくれることに驚きながらも、ちょうど腹も空いていたし無碍にするのも悪い。
良く煮込まれたシチューは絶品だった。
隣のフィノに至っては皿まで食わんとする勢いで貪っている。
それにしても、懸賞金まで掛けるとは思っていなかった。
おそらく、国外へ逃亡することを見越しての策だろう。
人を動かすには金で釣るのが一番だ。
店内を見回すと、手配書が張ってあった。
金額は十万ガルド。一攫千金の夢を見るには十分な額だ。
「俺、こんな厳つい顔してるか?」
手にとってまじまじと見ていると、シチューを食べ終えたフィノが横から顔を出してくる。
「んぅ……なに?」
「勇者の手配書だよ」
「……ゆうしゃ?」
ユルグの予想に反して、フィノはそれが何か分からないとでも言うように眉を寄せた。
今まで外の世界を知らなかったのだ。
ユルグもそこまで思い至らなかったが、知らなくても不思議はない。




