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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第二章
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夜のお誘い

加筆しました。

 

 どれだけ眠っていたのだろう。窓の外を見遣ると既にどっぷりと日が暮れている。

 あれから風呂に入って少し横になろうとベッドに寝転んだら、いつの間にか寝入っていたようだ。


 薄暗い室内に魔鉱石が内蔵されているランタンを灯して灯りを付けると、フィノの姿がどこにも見当たらない。


 確かベッドに横になる前に、暇だったら外をぶらついてきても良い、と言っておいた。

 彼女がいつ出て行ったのか知らないが、こんなに遅くまで帰ってこないのはおかしい。


 仕方ないと嘆息して、ユルグは仮面を嵌めると外へ出た。


 宿屋の主人に聞いたところ、フィノが出て行ったのは十分ほど前だと言う。

 であればそう遠くには行っていないはずだ。


 宿を出て一軒先の居酒屋を通り越したその時。

 路地からひそひそと話し声が聞こえてきた。


「こんな所で何してるんだ?」


 背後から声を掛けると男はびくりと肩を揺らした。

 彼が振り返るよりも早く、奥の方に目を向けるとそこにはユルグが探している人物がいた。


「あっ、ユルグ」


 いつもと変わらぬ様子で話しかけてきたフィノに一先ず安堵する。

 こんな人気のない路地裏で男女揃って、なんてする事は限られているからだ。


「お前はここで何をしているんだ」

「んぅ……イイコト?」


 フィノが言うには、ユルグがいつまで経っても起きず暇だから外を歩いていると、男が言い寄ってきた、とのことだった。


「この奴隷、あんたのだったのか?」

「まあ、当たらずとも遠からずってところか」

「いや、その……一人で歩いてたもんだから、なあ」


 男はわかりやすいまでに挙動不審だ。


 手を出していたなら、女とではなく地面と接吻でもさせてやろうかと思っていたが、この様子だと未遂に見える。


 ――と、思っていたのだが。


 薄暗いせいで気づかなかったが、よく見るとフィノの着ている服が破れている。

 どこかに引っ掛けたとか、そういうレベルじゃない。


 豊潤とは言い難い胸のふくらみ。

 それが夜の灯りに照らされているのがありありと見えてしまった。


「……それはどうしたんだ」


 聞かなくても分かっているが一応尋ねると、フィノは対面している男を指差した。


「いや、これはその……っ、まだ何もやってねえよ!? そりゃあこんなにしちまったけど」

「あんた、趣味が悪いな」

「――っ、え?」


 ユルグの言に一瞬男は頬を張られたように固まる。

 その隙を突いて手刀で首を打つと、男は膝から崩れ落ちた。


 ユルグが腹を立てているのは、この男のクズさに半分、新品の服を台無しにされたことに半分。


「買ったばかりだったのに」

「……ごめん、さい」


 しょんぼりと肩を落としたフィノに、取りあえず外套を着せる。


「手を出してきたこいつが悪いんだ」

「でも、おかね、くれるって」


 フィノの発言に、瞬時に脳裏に過ぎったのは自らの言動。


「まさかとは思うけど、身売りしていたわけではないよな」

「……みうり?」

「あー……知らないなら良い。いや、良くはないか」


 ――何でも良いから働いて稼いでこい。


 確かにそう言ったが、売淫(ばいいん)は論外だ。

 もしそうだったらきっちりと言い聞かせなければと思っていたのだが、良い言葉が浮かばない。


「つまり……身体を売って金を稼ぐってことなんだが」

「んぅ、しってる」

「なら話は早い。そういうのは無しで、真っ当な仕事で金を稼ぐことだ」

「……なんで?」


 フィノの問いに、ユルグは固まった。


 なぜ、と問われると言葉に詰まる。


 ユルグの説明にフィノは知っていると答えた。

 それだけでどういった経験をしてきたのかは大体察せられる。

 頭ごなしにやるなと言っても納得させるのは難しい。


 しばらく頭を悩ませた後、かつてユルグの師であったカルラに言われた言葉を思い出した。


「……そういうのは、好きな相手とやるもんだ」


 それを聞いたフィノは、きょとんとした顔をして瞠目している。


 我ながらものすごく恥ずかしいことを口走ってしまった。

 無言なところがなおさら辛い。


 夜空を見上げて頭を冷ました後、フィノに目を向けるとなぜか彼女は笑んでいた。


「んぅ、わかった」


 何がそんなに嬉しいのか。

 笑みを崩さないまま、地面に寝転んだ男を飛び越えてユルグの腕に抱きついてくる。


「本当に分かってるのか?」

「んぅ、もうしない」

「……だったら良いか」


 抱きついてくるフィノをやんわりと解いて路地から出ると、それを待っていたかのように目の前に恰幅の良い女が立っていた。


 仁王立ちで、なぜか酷く怒っているように見える。


「ちょっとあんたたち。こっち来なさい」


 唐突なご指名に、二人揃って顔を見合わせるのだった。




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