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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第六章
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千年前の出来事

誤字報告、ありがとうございます。

一部、修正しました。

 

「……千年前」


 その年数に、ユルグはあることを思い出す。


「確か、ラガレットがこの地に建国されたのも千年前だと聞いた」

『ふむ、良い所に気づく』


 ユルグの指摘に、マモンは深く頷いた。

 彼の言動を推察するに、少なくともラガレットという国が何らかの形で関わっているとみて間違いないだろう。


『この仕組みが作られたのは、アルディアとラガレット。この二国が深く関わっているのだ。しかし、この話をする前に一つ知っておかなければならないことがある。それ以前……つまり己が創られた二千年前からの、空白の千年間のことだ』


 彼の言う通り、そこが一番の鬼門になる。


 勇者と魔王、その仕組みが出来る前でもマモンは存在していたのだ。だったらその器となっていた人物もいたはずである。

 どういう方法を取っていたかは知れないが、彼が生み出されてからの千年の間も今日までと変わらず瘴気の浄化を続けていたのだろう。

 しかし、何か問題があって千年前にそれが破棄されて、現在の胸クソ悪い仕組みが取って代わってしまった。


 ユルグの一番知りたいところはそこである。

 何があって今の状況になってしまったのか。それを知れたら、もしかしたら何か現状を打破する手立てが見つかるかもしれない。


『己の器になり得る者は誰でも良いが、ログワイドはそれを良しとしなかった。自らの一族がその業を背負うべきだと考えたのだ』


 マモン曰く――彼が創られた後の千年間は、その一族間で継承が行われていたのだという。

 それが本来のあるべき姿だと彼は語った。


「それじゃあ、その一族に還せれば勇者だの魔王だのは必要ないってことだ」

『うむ、そうなるのだが……難しいだろうな』


 ユルグの提案にマモンは渋い顔をした。


『それを成すには大きな問題が二つある。一つは、アルディアの皇帝がそれを許さぬということ。これこそが今の仕組みが出来上がった根本の原因なのだ』

「……どういうことだ?」


 なぜ皇帝が邪魔をするのか。

 彼にしてみても不都合はないはずだ。誰がマモンを継いでもすべきことは同じである。だったらわざわざ邪魔立てする必要も感じない。


『ログワイドの一族が力を付けることを恐れたのだよ。瘴気を浄化出来るなど、犠牲はあれど英雄と祭り上げられても不思議はない。そうして自らよりも地位も名誉も膨れあがることをアルディアの皇帝は恐れたのだ』


 語られた真実に、ユルグは絶句した。

 たったそれだけの理由で、こんな地獄を作りだしたっていうのか。


 拳を固く握りしめて沈黙するユルグを一瞥し、マモンは続ける。


『だから、国内から奴の一族とそれに追従する者を追放したのだ。それらが今のラガレットという国を建国した。今では謀反を起こしたと言われているが……勝てば官軍、負ければ賊軍というだろう。歴史など勝者の言い分で容易く歪められるものだ』

「その過程で、今の仕組みが出来上がったってことか」

『まあ、大凡はその通りだな』


 マモンはそこで話を区切った。

 けれど、そうなると新たな疑問が湧き出てくる。


「でも、それだとなぜ勇者なんてものが必要になるんだ? 瘴気を浄化するのならお前だけで十分だろ」


 ユルグの質問に、マモンはこう答えた。


 一つは、無作為に器となる人物を選ぶため。

 これについては、以前と同じ轍を踏まないように取り決めたことで、仮に誰かに押しつけたとしてもいずれ彼の一族と同じような事が起こりかねないと危惧したためである。


 そうして二つ目。

 勇者という役割がこの仕組みの一番の肝なのだとマモンは語った。


 無理矢理に押しつけられても反発して思い通りに動かない事も考えられる。最悪の場合、謀反を起こされたらたまったものじゃない。

 それを見越して、勇者という世界のためにその身を犠牲に出来る者を作り上げることにしたのだ。


 それに加えて、瘴気の浄化には魔物と相対しなければならない。それ故にある程度戦闘技術がある者でなければ務まらない。


 それらの理由から、勇者という存在が望まれて生まれたのだと、彼は語った。


『そして、この仕組みを撤廃するに当たっての問題の二つ目なのだが……ログワイドの一族がどこで何をしているのか。行方が分からぬのだ』


 そう言ってマモンは項垂れた。


『奴はエルフの中でも特殊でな。本来エルフというのは五百年もの寿命を持つ。しかし、ログワイドだけは寿命が人間ほどしかなかったのだ。いや、もしかしたらもっと短命だったかも知れぬ』

「エルフであって、そんなことがあり得るのか?」


 ハーフエルフでも人間よりは遙かに寿命があるのだ。それなのに、人間よりも生きられないとはにわかには信じられない。


『本人も奇妙に思っていたよ。だが悲観してはいなかった。多少生き急いでいた所はあるが、あれはあれで満足して逝ったのだろうなあ』


 マモンの口振りはどこか懐かしさを(たた)えていた。よほど、その生みの親とは親しかったのだろう。


『千年前までは存続していたのだが、今はどうなっているか分からぬ。しかし、アリアンネとの約束もある。己も諦めたくはないのだ』

「……約束?」


 思ってもみないことを言い出したマモンに、ユルグは眉根を寄せた。


『そうさな……アリアンネが己の器となった時に、ある約束事をしたのだ』

「それって、あの皇女様を生かして解放するってやつか?」

『うむ。それともう一つ、この地獄から解き放ってやるとも』


 彼の言葉を耳にしたとき、ユルグはある予感を覚えた。


「お前は死にたいのか?」

『二千年も生きていればそう思っても不思議はないだろう?』


 彼の声音にはやるせなさが滲んでいた。

 気の遠くなるような年月を生き続けていれば、そんなふうに思ってしまうのも分からなくもない。


 けれど現状、それは不可能である。

 瘴気を浄化しなければ、たちまち大地には魔物がはびこり瘴気の毒が蔓延する。

 勇者であるユルグ以上に、マモンには逃げ場などどこにもないのだ。


 それを知ってしまったのなら、あの心優しいアリアンネがどう思うかなど想像に難くない。

 おそらく、本人だって不可能であると知っていた。けれど、それでも諦めたくはなかったのだろう。


「……そうか」

『そんな辛気くさい顔をするな。先ほどは行方知れずと言ったが、それはお主と会う前の話だ』

「……どういうことだ?」


 突拍子もないマモンの言動に、ユルグは理解が追いつかないまま尋ねた。

 すると彼は、長話について行けずユルグに寄りかかって眠っているフィノに眼を向ける。


 そうして、思ってもみないことを言い出した。


『ログワイドは、白髪のエルフだったのだよ』




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