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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第六章
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再訪

一部、加筆修正しました。

 

 ミアとティナには留守番を言い渡して手早く準備を済ませると、母親同伴でさっそく迷子の救出へと乗り出した。



 虚ろの穴はアンビルの街から南東にあるエストの森の中に位置している。


 そこまで続く街道は魔物の増加によって危険であるといわれていたが、道行きですれ違うのは野生の動物しかいない。

 おそらく、魔物の増加や襲撃には一定の周期があるのだろう。それもそのはずで無尽蔵にあの大穴から魔物が這い出してくるのならば、今頃あの街は廃墟と化しているはずだ。


 これならば子供一人が追いかけて虚ろの穴へと向かうことも可能である。




 目的地に着いたのは、そこから二十分後であった。


「あのばしょと、いっしょだね」

「……そうだな」


 エストの森にある虚ろの穴は、スタール雨林で見たものと同様の作りをしていた。

 唯一違うところと言えば、祠の劣化具合か。スタール雨林と比べてここの祠は管理されているのだろう。あそこまで寂れてはいないようだ。


 固く閉じられた石扉。不自然に空いた天井。いつ見ても不可解である。初めから閉じ込めるつもりがなかったのか。それとも閉じ込められなかったのか。

 疑問は残るがこの祠の中に、あの大穴があることは確実なはずだ。


「それで、そのガキはどこにいるんだ」


 祠の周囲を見回してもそれらしい姿はどこにもない。


 目の前の石扉はどうやっても子供一人の力じゃ開けられない。となるとこの中への侵入経路は大口を開けている天井しかないわけだ。


「あの子ではないでしょうか?」


 アリアンネの言葉に視線を上に向けると、祠の近くに生えている樹木にしがみついてノロノロと登っている子供の姿が見えた。


「――ギィル! そんなところで何やって……降りてきなさい!」

「あそこにとーちゃんがいるんだもん!」

「お父さんはもういないのよ!」

「う、うそだ! そんなのしんじないからな!」


 涙と鼻水で顔面をぐちゃぐちゃにしながら木を登っていったギィルは、太い枝へ足を掛けて立ち上がった。

 その先は丁度、祠の天井の穴へと伸びている。ジャンプして行けば中へと侵入できてしまう。


 ユルグの予想通り母親の制止も聞かず、ギィルは助走を付けて枝先から跳躍した。


「――うびゃあ!」


 直後に、落下音となんとも間抜けな叫び声が聞こえてくる。


「おお、お見事」

「感心している場合ではありません!」


 事の成り行きを静観していたところに、アリアンネの叱責が飛んできた。


「そうは言っても、こいつを開けるとなると一筋縄ではいかないぞ」


 石扉にはご丁寧に南京錠で施錠がしてあった。おそらく部外者が無闇に立ち入らないように管理されているのだろう。

 鍵を壊すにしてもすぐにとはいかない。


「よし。ここはお前の出番だな」

「ん、フィノ?」

「木の上から飛び乗って先にあのガキを保護しておいてくれ。そういうの得意だろ」

「……はあい」


 ユルグの作戦にフィノはなぜか不満顔だった。けれどそれに異を唱えることはなく、渋々木に登っていく。


「――ギャッ!」


 しばらくして先ほどと同様に間抜けな声を上げて、フィノは祠の内部へと侵入を果たした。それを見留めてから、ユルグは目の前の石扉へと向き直る。


 ――さて、どうやってこじあけるか。


 悠長に悩んでいる後ろ姿に痺れを切らしたのか。


「そこを退いてください!」


 聞こえた声に振り返る前に、石扉の前に突っ立っていたユルグのすぐ傍を、轟音をたてて火球が通り過ぎていった。

 彼女の狙い通りにそれは、後付けされた南京錠へとぶち当たって一瞬の間にドロドロに溶かしてしまう。


 しかし、石扉自体には損壊はなく焼け焦げた跡さえも付いていない。おそらく魔法の影響を受けない特別な作りなのだろう。


「あぶな――っ、いきなりすぎるだろ!」

「火急を要するものだったので。ですが、これで鍵は開きましたね」


 悪びれもなく言い放ったアリアンネは、石扉へと手を掛けた。

 少しだけ開いた隙間からは、薄暗い内部はよく見えない。


「お母様はここで待っていてください。あの子はわたくしが責任を持って連れ戻しますから」

「……分かりました。ギィルをよろしくお願いします」


 そんな会話を聞きながら、石扉を押し開けて中に足を踏み入れたユルグの眼前。


 そこには抜き身の剣を構えて背後にギィルを庇いながら後退る、フィノの姿があった。




「――フィノ!」


 即座に異変に気づいたユルグは、背負った剣へと手を掛けながら何者かと対峙しているフィノの間へと割って入る。


 直後、その正体を目にして息を呑むと同時にユルグは顔を顰めた。


「おししょう」

「……あれは何だ?」

「んぅ、わかんない」


 ユルグが対峙しているのは、以前スタール雨林の虚ろの穴で目撃した魔物なんかではなかった。

 それよりも恐ろしくおぞましいものだ。



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