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【マルチエンド】追放勇者は孤独の道を征く  作者: 空夜キイチ
第一部:黎元の英雄 第六章
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腹の探り合い

一部、加筆修正しました。

 

 魔物の剥ぎ取りを終えると、ユルグはようやっと足を進めることにした。


「荷物持ちは任せた」

『うぐぅ……お主、魔王使いが荒くはないか? アリアンネでももう少し遠慮するものだぞ』

「別にこれは個人的な私利私欲に使うわけじゃない。旅費の足しにしようと思ってのことだ。巡り巡って皆の為ってやつだな」

『白々しいにも程があるが……了解した』


 大雑把にまとめあげた荷物をマモンは渋々背負って歩き出す。


「ところで、皆は無事なのか?」

『うむ、それならば問題はない。あの魔物一体だけならばアリアンネがいれば問題にはならんよ』

「……そうか」


 ならば安心だと、魔鉱石を補充したカンテラに光を灯す。

 眩い光に照らされた草の生い茂る街道を、奇妙な取り合わせだと感じながらもユルグは進んでいく。


 周囲に魔物の気配がないか、気を配りながら傍を行く鎧姿に目を向けた。


 先日の説明である程度、この魔王様とやらの正体は掴めたが未だ謎が多い存在である。信用もしていないし、出来ない。

 しかし、ここには他人の目が存在しないぶん、何を聞いてもお咎めは無しだ。


「お前の目的は何だ」

『……お主を助けてやれと、アリアンネに言われてな』

「俺が聞きたいのはそれじゃない。見え見えのしらを切るな」


 ユルグの追求にマモンは口を閉ざした。


「お前の使命は瘴気の浄化なんだろ。だがそれには依代にしている器がもたない。だから俺に乗り換えようって話だ」

『そうだ』


 マモンはアリアンネを犠牲にしたくはない。その事は、彼らの様子を見ていれば容易に想像できる。

 だから、本来ならば勇者に倒されるように仕向けるはずのシナリオを無視して、こうしてユルグの前に姿を現わして説得しようとしているのだ。


 だが、そこまでする割には彼らの行動は詰めが甘すぎる。


「だったらなぜ今すぐそれをやらない。そんな悠長に構えている余裕はないんだろ。それなのに何の手出しもしてこない。俺を思い通りに動かしたいのならやりようは幾らでもあるはずだ」


 ミアを人質に取る事だって出来るはずだ。

 説得をしてそれにユルグがうんと言わないことなど、予め分かっていたはずなのにわざわざその工程を挟んだ。


「俺がお前なら、ミアを人質に取ってでも従わせる。殺されたくなきゃ言うことを聞けってな」

『……』

「だが、お前らはそれをしない」


 なぜだと問うと、そこでマモンは開口した。


『確かにお主の言う通り、そうするのが最善なのだろう。しかし、アリアンネはそれを望んではいない』


 だからしないのだ、とマモンは答えた。

 しかし、理由付けとしてはそれでは弱すぎる。


「なぜそこまであいつに肩入れをする? 立場で言うならお前の方が上だろう」

『……そうさな』

「なんだ、弱みでも握られているのか?」

『いいや。アリアンネは己にとって特別なのだ。お主が幼馴染みを大切に想っているようにな』


 ――だから、なるべく望みは叶えてやりたい。


 なんとも魔王らしからぬ考えである。

 しかし、そうであるのならばここまでの問答の答えにはなりえるものだ。


『それに、いつまでもこのような関係は続けられない』


 声音を落として告げたマモンの言葉にユルグは顔を上げた。

 疑問に思っているユルグの心中を察したのか。マモンは続ける。


『器を維持したまま、他者へと譲渡するにはそれ相応のリスク……デメリットが存在するのだ』

「……それはなんだ?」

『端的に言ってしまえば、記憶の忘却だ。この五年分の記憶はすっかりなくなってしまうだろう』


 淡々とした口調でマモンは告げた。しかし、その様子はどこか寂しげに見える。


「アリアンネはそれを知っているのか?」

『いいや。もし知っていたのならば、お主に対してこのような交渉など行わないだろうな』


 おそらく、マモンはこの事実を意図的に隠していたのだ。

 アリアンネの性格を知るのならば、そうせざるを得ない。彼女を特別と言ったマモンの想いは本物のようだ。


『だがな、これに関してはお主も無関係とはいえないのだ』

「……どういうことだ?」

『五年前、己はアリアンネの目の前で無惨に仲間を殺したのだ。本来ならば恨まれる立場にあるところを、記憶を改竄(かいざん)して今の関係を保っているに過ぎぬ。それが解けた暁には、こちらを全力で殺しに来るだろう』


 ――つまり、魔王のみならずその器となるユルグの命も脅かされるということである。


「例えそうだとしても、魔王は殺せないだろう。そんなことをしたらここまでの苦労が水の泡になるじゃないか」


 ユルグの反論に、マモンはかぶりを振った。


『言ったろう、己は呪詛のようなものであると。ログワイドはわざとそのように創ったのだ。生物のように柔な作りにはせず、かといって不死身の化物にはしなかった。呪いならば祓う方法が存在するのだよ』

「……なぜそんなややこしい事をしたんだ。お前はこの世界に必要だから創られたんだろ」


 マモンは瘴気の浄化をするという目的のために創られた。しかし、未だこの世から瘴気は消えていない。おそらく完全に無くすことは不可能なのだろう。

 ならば不死身の化物でも問題はないように思える。


『それは……いずれ己が不要になった時のことを考えてだろうな』

「瘴気を無くすことが出来るって言うのか」

『あやつは不可能だとは言わなかった。しかし、可能だとも明言はしなかった』


 マモンは妙な物言いをした。

 おそらく、彼も真意を掴みかねているのだろう。


「だが、方法はあるんだろ」

『……変革者、あるいは特異点ならば可能であると、ログワイドは言っていた』


 ――〈変革者〉

 ――〈特異点〉


 聞き慣れない単語に、ユルグは眉を潜めた。

 その心中を察したのだろう。マモンへと問う前に彼は話し始める。


『己も詳しくは知らぬ。だが、この世界を根本的に作り替えてしまう力がある者をそう呼ぶのだと奴は言っていた。自分はそれの二番手だとも』


 まるで古代のおとぎ話か、神話をつなぎ合わせたような話である。


『あまりにも荒唐無稽の夢物語だと己も話半分だったが、確かに奴は普通とは違っていた。己を創り出すくらいなのだ。妄想を撒き散らしていたわけでもあるまい』


 うんざりとした様子でマモンは首を振る。

 彼の様子から、そのログワイドというエルフは相当な曲者(くせもの)だったことが伺えた。


「そのログワイドってやつは、自分を二番手だと言っていたんだろ。だったら最初の変革者っていうのは誰なんだ?」

『それは誰もが知っている、あれだ』


 言って、マモンは空を見上げた。

 そうして続く言葉を唱える。


『お主らが、女神と呼ぶ者だ』



 直後に聞こえた言葉に、ユルグは目を見開いて固まった。


「な、なにを」

『己もそれを聞いた時はお主と同じことを思ったものだ。しかし、あやつがあまりにも真剣に語るものだから嘘と断ずるには憚られた。まあ、信じるか信じないかはお主の判断に任せよう』


 悠然と語って、マモンは顔を戻した。

 次いで、かつて自身を創り出した変わり者のエルフから聞いた与太話を話し出す。



 ――曰く、女神様はものすごく定命の者が嫌いなのだ、と。




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