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ケイコとマチコ、ときどきエリコ  作者: Tro
#11 世界に吹く風(出会い編)
9/37

#11.2 ノリコの風

ゆらゆらと揺れる田園の風、空には小さな雲がポツリポツリあって、散歩するには丁度良い感じです。そんな『のほほん』とした風に揺られながら、頭がボーとしてくるケイコです。そして、そう、すぐにコックリを始め、そのまま風に運ばれていきます。


そうして気が付いた時には、風は田園を通り過ぎ、家が点在する村のようなところで目を覚ましたケイコです。それでも暫く、ゆらゆら・のほほんと風に揺られて行きました。


「ふあ〜い、退屈じゃのおおお」


大きな欠伸をしたあと周囲を見渡すと、まるで時が止まってるんじゃないか、と思えるぐらい、動くものが全然ないところです。


「早く都会に行かねばならんのじゃがー、都会はどっちじゃ」


山を越えれば、その先が都会だと聞いていたケイコです。でも都会はまだまだ道の途中、ずっと遠くにあるのでしょう。それで困った、ということはなく、風に乗っていることに飽きてしまったケイコは、ふっと風を降りてしまいます。


そうして降りた先の道をトボトボと腕を組みながら歩き始めました。


「たまには歩かんとのー」とブツブツ呟きながら、舗装されていない道の端をトボトボと歩いていきます。そして、右を見たり左を見たりキョロキョロしながら、都会を探していました。


(その都会とやらは、どこにあるんじゃー)と心の中で叫ぶケイコ、ふと気がつくと歩いても歩いても前に進めなくなりました。それもその筈、ケイコの前に猫さんが陣取っていたのです。


「おや、猫さんではないか。私は先を急ぐ身、そこを退()いてはくれんかの〜」


ケイコの頼みを聞き届け、耳をクリクリと動かしましたが、動じない猫さんです。


「なあ、猫さんや。私の頼みが聞けぬというのじゃな。では仕方ない、こうしてくれよう、と言いたいところじゃが、私は、お姉さんじゃからな。だからここは、私の方が避けて通ることにする。それで良いな」


こうして猫さんを避けて先を急ぐケイコ……のはずが、その行くてを手で塞ぐ猫さんです。


「おいおい、猫さんや。私は忙しいと言っておるじゃろうが。すまないが、お主と遊んでいる暇はないのじゃ。さあ、その手を退けてはくれんかの〜」


待てど暮らせど、一向に動じない猫さんです。これでは流石のケイコも堪忍袋の緒がプチーンと切れたような。


「おい! 猫さんや。いい加減に怒るぞ! 良いのじゃな。では、私を怒らせた罰じゃ、これでも喰らえ」


ビューン。


怒りの一撃としてケイコが羽を一振りしました。これに『たじろぐ』猫さん……ではありません。髭の辺りが多少ゆれただけで、相変わらず不動の猫さん……でもなかったようで、ようやく起き上がりました。


これで、やれやれと思ったケイコの前に、新たに別の猫さん、白猫さんの登場です。


「ニャーゴ、どうしたの?」


突然聞こえた声にビックラコンのケイコ、思わず「おわー」と腰を抜かしそうになる程、驚いたようです。でもその声は、白猫さんの上に乗る田舎の子(シルフィード)が、もう一匹の猫さんに掛けた声のようです。因みに『ニャーゴ』と呼ばれた猫さんは茶トラ模様です。


一度は怯んだケイコ、再起動して復活しました。そして、「お前さんがこの猫さんの保護者かな」と田舎の子に向かって問い質しました。しかし白猫さんは、ニャーゴより大きく、左右の目の色が違うオッドアイです。それで睨まれているような気になったケイコは、体が少し、本当に少しだけプルっとしたそうです。


「あれ? あんたは流れ風(シルフィード)かい? 私は、この辺のシマを預かるノリコです。以後、お見知り置きを」


白猫さんの上から名乗るノリコに威圧されるケイコです。でもでも、


「拙者はケイコと申す。こちらこそ、おみおみを」と胸を張って答えるケイコです。すると、白猫からピョンと飛び降りたノリコです。そしてケイコの前に立ちましたが、(なんじゃ、私の方がお姉さんではないか)と見た目で判断するケイコです。


「では、ケイコとやら。うちのニャーゴが何か粗相をしてしまいましたか? それであればニャーゴに代わって謝罪しましょう。

強面(こわおもて)のニャーゴは見た目と違い気が弱いのです。それで何かと誤解されることが多くてな。それでも身内の不始末は私の責任。許されよ、ケイコ殿」とペコリのノリコです。


「いやいや、大した事は御座らんよ。気にせんでください」とケイコもペコリです。

「ところで、ケイコ。この辺では見ぬ顔のようですが、何用でこの地に参られたか?」

「よくぞ聞いてくだされた。『かくかくしかじか』でな、お迎えの途中なのじゃ。そこでじゃ、肝心の都会が隠れんぼしておる。どこに隠れておるか、知っておったら、しゃべってくれんかの〜、ですだ」


「かーくかくかくしかっと、ですか。よかろう、私に出来ることがあれば、ぶん殴ってやるです」

「それはそれはカタジケナイ。では、案内を頼む、とな」

「案内とは?」

「都会のことじゃもん」

「おお、そうであったなー。こっちじゃ、ついて参られよ」


背一杯、背伸びして話すノリコ、それに合わせ、更に上を行こうとするケイコたちの会話は、チグハグでも意味は通じたようです。要約すると、都会に行きたいケイコをノリコが案内してくれるそうです。


白猫さんに飛び乗るノリコです。そしてニャーゴに「その御仁を乗せるのよ」と指示し、ケイコに乗るように催促しています。そのニャーゴの前で「世話になるのじゃ」と言い、ニャーゴに飛び乗るケイコです。


「では、参ろうぞ。行くのじゃ、ニャージロウ」ノリコ合図で駈け出すニャージロウとニャーゴです。ニャージロウとは白猫さんの名前のようです、はい。


パカッパカッ、いえ、スタスタでしょうか。ノリコを乗せたニャージロウとケイコを乗せたニャーゴが揃って道無き道を疾走して参ります、スタッスタッ。


ところで、ケイコたちは猫さんに乗ったまま都会を目指す訳ではありません。ノリコ曰く、都会行きのバスがあるので、それに乗れば都会に行けるそうです。ということで、向かっているのはバス停ということになります。



猫さんたちは、ノリコたちを乗せていることを全く考慮せず、自由気ままに駆け抜けていきます。一応、道の端をスタコラサッサと走って行きますが、途中、興味を引くようなものを見つけると、すぐそれに気を取られてしまい、遊び始めてしまいます。ほら、小さな虫を見つけた途端、それを追いかけ始めましたよ。


でも、そんな猫さんたちを知り尽くしているノリコは、猫さんたちの行いを咎めることはありません。しかしケイコは違います。しっかりと猫さんに注意するケイコです。


「ニャーゴとやら。まさかその虫さんを食べるのではなかろうな」とニャーゴの背中から注意喚起しますが、聞く耳を持たないニャーゴです。ん? これは誰さんと似ているではありませんか、気のせいでしょうか。


適当に虫さんと戯れ合った後、すぐに興味を失くしてしまうニャーゴです。これまた誰かさんの習性と似ているような、です。


次に、綺麗な花を見つけてクンクンする猫さんたちです。その猫さんたちと一緒になってクンカクンカするケイコ、「良い香りじゃ」です。そして日当たりの良いところでゴロンと横になる猫さんたち、そのお腹に寄り掛かり、「良い天気じゃなー」とヌクヌク顔になるケイコです。その隣でノリコもヌクヌクを満喫しているようです。


こうして寄り道ばかりしているノリコとケイコたちです。それでも着実に目的の地へと進んでいる、はずのようです。


河原を進んでいると木が生えていました。そう、ノリコとケイコたちにとっては『ただの木』ですが、猫さんたちには『その木』のようです。言葉の通り、その気になったニャーゴが挑みます。えっ? なにに挑むのかって? 『その木』ですよ、木登りに決まっているじゃありませんか、ニャー。


スタスタ・ボリボリ。爪を引っ掛けて器用に登っていくニャーゴです。その雄姿を下から感染しているニャージロウ、大人です。


しかーし、結構、高い位置まで登り、世界を展望したニャーゴは降りられなくなってしまい、困ったことになりました。しかし、そんな後先のことを考えては猫はやっていられません、その時に考えれば良いのです、にゃ。


そのニャーゴと一緒に木に登ったケイコです。一緒といっても、ただ背中に乗っていただけですが、もはや同じ運命を共にする同志でもあります。


しかーし、困ったにゃんのニャーゴと違い、余裕全開のケイコが、余裕を見せ付け、いえ、見せびらかすため、ニャーゴの目の前をウロチョロしています。


「ほっほー、ニャーゴとやら、お困りのようじゃな。全く、まだまだ『お子ちゃま』じゃのお、ほっほー」


そんなケイコの態度に怒ったのか、困り顔だったニャーゴの顔付きがキッリとしました。そして、「助けなんて、いらないよ」と言ったよう表情で、ずるずると木を降りていきます。


しかーし、そこは『お子ちゃま』のニャーゴ、怖くて途中で止まってしまいました。それを心配そうに見つめるニャージロウ……ではなく、ノリコと一緒に川の流れを見ていました、万事休す、ニャーゴ、です。


そんなニャーゴの背中にしがみ付き、耳元で囁くケイコです。


「ニャーゴや。私が助けてやろうかいのう。私は、親切なのじゃ」と背中の羽をパタパタ。それを、体を振って拒否るすニャーゴです。


「放っておいてくれ! 自分で降りられるんだから」と更に体をブルブルさせるニャーゴ。そのブルブルが、思わずブルンブルンと勢いが付き過ぎる『お子ちゃま』ニャーゴです。おっと、木の幹から手足が離れ離れに!


しかしそこは猫さんです。体を捻って着地の体勢を整えます。でも、結構な高さがあります。そのまま落ちては痛いかもにゃ!


その時です、ケイコがニャーゴの首元を掴んでパタパタ……では持ち上がらないので、もう片方の手で風を掴みニャーゴと共に上昇、のはずでしたが、なにぶん、その風は弱く、スルスルと落ちて行くケイコとニャーゴ、そして着陸です。


ニャーゴは足のクッションを活かし、やんわり・ふんわり。ケイコはニャーゴの体をクッションにして無事でした。


おお、同じ苦難を共有した者同士、ガッツリと抱き合った両者です。なんという微笑ましい光景なのでしょうか。既にケイコの顔は赤く染め上がり、ニャーゴは……猫さんなのでお目目がクリクリとしています、むむっ?


「なんじゃこら! 私が、助けてやったというのに、礼を言わんかい」

「誰が助けてくれって頼んだよ」


どうやらケイコとニャーゴは相撲をしているようです。なるほど、更に親睦を深めようという訳ですね、分かります。


ケイコは羽をバタバタとさせて前進、ニャーゴを押し退けていきます。対するニャーゴは尻尾をフリフリ、降参でしょうか。そこにニャージロウとノリコの登場です。


「もう、仲良しさんなんだな。ごほん、そろそろ、参るで御座るよ、ケイコにゃん」


ノリコの声に反応しないケイコとニャーゴ、『のこったーのこったー』です。そういえば、聞く耳を持たない両者、ごもっともな反応です。そこにニャージロウが睨みを効かせました、ピカっです。


それで力を弱めたニャーゴ、その場でゴロン、ケイコの勝利です。「ふー」と一息するケイコに、「勝負はお預けだー」と言ったようなニャーゴです。


こうしてニャージロウを先頭にスタスタとバス停に向かう猫さんたち、そのニャーゴの背中で腕を組みながらフンフン言っているケイコ、快適な旅をどうぞ、です。



遠くにバス停が見えた時、そこで立ち止まったニャージロウとノリコ。そしてその脇にニャーゴとケイコが並ぶと、バス停を指差したノリコです。


「あそこがバス停で御座る。ケイコ殿、ニャーゴがあそこまで案内します故、お行きになってください。私は、ここまでで御座る。ご武運を」と神妙な顔付きで語るノリコです。


「そうか。では参ろうかのお、ニャーゴよ」と言いつつも動かないケイコです。そして、「ノリコや。何か訳ありのようじゃが、どうであろうか」とケイコが尋ねると、ピクッとしたようなノリコです。


「別に、なにもないにゃ」と狼狽えるノリコ、それに、「ほっほー」と言いながらノリコの顔を覗き込むケイコです。


「私で良ければ相談に乗ろうではないか。これでも、お姉さんだからのう〜」とお姉さんぶるケイコ、その言葉に一瞬、心がゴロッとなったノリコです。つい、


「なんでもないですにゃ。ただ……」と口にしてしまいました。その心の隙を見逃さないケイコです。

「ただ? ほれ、言うてみなさい、お姉さんに」

「ただ、人と会うのが、その、苦手にゃんです」と告白するノリコです。


「ほう、人とな。そうか〜、人とな。では、お姉さんが、ちと見本を見せるでな〜。そこで見ておくのじゃ。人の扱いなど、猫さんたちに比べれが容易(たやす)いものじゃて、ほっほー」


そう言うと、ほれほれとニャーゴをけしかけ、スタッスタッとバス停に真っしぐらのケイコ、その雄姿を見送るノリコです。


◇◇


(なんで俺がコイツの指示に従わなくちゃいけないんだー)と不満一杯のニャーゴがケイコを乗せてバス停に到着です。そこのベンチに、ちょうど良い具合に、女性が一人で座っていました。


これでノリコに手本が見せられると思ったケイコですが、急に走り出したニャーゴです。そしてベンチに飛び乗り、座っている女性の膝に「にゃー」をしました。


一方、ケイコはニャーゴがベンチに飛び乗る際に振り落とされ、床に「にゃー」しました。


「あら、子猫だ、可愛いね」


女性の膝の上に乗ってきたニャーゴを撫でながら、女性の視線が床に「にゃー」しているケイコに移ると、


「あれ、妖精だ、どうしよう」と困惑の表情です。


その表情の理由、それは大人になったら妖精は見えなくなるものだと思っていたからです。それが今、現実に見えているということは、錯覚でなければ本当に見えている、まだまだ子供の純真さを保っているすごい私、子供と同じ視線で見ている私、ファンタージーに生きている私、大人に成りきれていない私、ということで困ってしまったようです、はい。


一方、床に「にゃー」していたケイコは、起き上がると「なにすんじゃあああ、こらあああ」とニャーゴに抗議を始めました。しかし、我関せずのニャーゴです。そこで、ニャーゴの尻尾を引っ張り、掴み、叩くケイコです。


それに、「やれやれ」といった感じのニャーゴ、女性の膝から降り、ケイコと対峙しました。


「なんじゃー、俺の役目は終わったぞ。なんか文句があるのかー」とニャーゴが言ったような。それに、

「黙れい! お仕置きじゃあああ」と、ニャーゴと取っ組み合うケイコです。それを、

「あらあら、どうしよう」と心配しながら見ている女性です。


「俺の方が大きんだぞー」と吠えるニャーゴ、

小童(こわっぱ)がー、こうしてくれよう」と必殺技を唱えるケイコ、背中の、片方の羽だけをバタバタさせ、傾いていきます。そしてそして、そのままニャーゴごと回転、ひっくり返ったところで手を離し、そのまま回転して元の位置に戻りました。ということは? はい、ニャーゴだけひっくり返った、ということです。


突然の出来事に唖然とするニャーゴ、しかしすぐさま起き上がると、あれ、尻尾を巻いて逃げてしまいました。あれ?


「覚えていろよー」と負け猫の遠吠えだけを残しての逃亡です。余程ケイコにゴロニャンされたことが悔しかったのでしょう、まだまだ、お子ちゃまです。


「おととい来やがれ、ニャーゴ。愚か者め」


こうして去って行くニャーゴを見送るケイコ、その後ろから、「あの〜」と女性が声を掛けていました。それに、


「なんじゃい!」と興奮冷めやらずのケイコが振り返ると、

「妖精さん、ですよね」と探る女性、

「はっ、これはちと、騒ぎすぎたようじゃ。許されよ」のケイコ、ペコリです。


「はあ」


どんな反応をして良いのやらと思案する女性です。そこで、ケイコがここに現れた理由を聞いてみることに。


「あの〜、ここには何か用があって来たんですか? まあ、バスに乗るため、ではないですよね。なんでしょうか」


「お迎えに行くのじゃ」と、エヘンのケイコです。

「どちらまで?(誰を? どこに?)」

「都会じゃ。バスで行こうと思うとるのじゃ」

「はあ、バスですか(今時の妖精は現実的なのね〜)」

「おばさんも都会に行くのかいな」

「(おばさん? 誰それ)まあ、そんなところでしょうか」

「そうであったか。では、私が連れて行ってやろうではないか」


おばさんに対してもお姉さん振るケイコです。ということは、お婆さんなのでしょうか、疑惑は深まるばかりです。


「(そうなるの?)いえ、大丈夫、一人で行けますから」

「そうか。では気をつけてな」

「はい、ありがとうございます(なに礼を言ってるのかしら、の私)」


これでケイコとの会話が区切れたことで、なんとなく安堵するおばさんです。そうして、クルッと背中を向けたケイコですが、そこで何やらブツブツと云っているのが聞こえてきます。しかしそれを聞こえなかったことにしようと決めた女性です。


ノリコと会話するケイコです。それぞれの声は風に乗って行き来するため、離れていても大丈夫なのです。差し詰め、風通信といったところでしょうか。早速、ノリコに人の扱い方を伝授するようです、もしもし。


「ノリコや、これで分かったであろう」と、どこぞの監督が選手に申している風です。

「なんとなく、です」と答えたノリコですが、何が何だかさっぱりのノリコです。


「そうであろう。適当に『あやして』おけば良いのじゃ。そうすれば、こちらのもの。どうじゃ、安心したじゃろう」


ゴロゴロコローン・プシュー、プシュー、ドカーン。


風通信の途中ですが、都会行き直通バスの到着です。既に扉を開いて乗客を待っている様子。ご用の方はお急ぎください。


バスを待っていた女性が前方の扉よりバスに乗り込んでいます。それを見たケイコが話を切り上げるべく、「ノリコや、達者で暮すのじゃ、さらばじゃ」と告げると、


「待ってにゃ。ニャーゴが最後に言いたいことがあるそうにゃ」と早口のノリコです。そして、

「次は、俺が勝つ!」とニャーゴが言ったような、です。それに、

「ふっ、それまでに腕を上げておくにゃ」と返したケイコ、これで風通信の終了です、プツ。


そしてブーンと飛び立つと、女性の後からバスに乗り込むケイコ、これで都会まで一直線です。


◇◇


「おっと、お嬢さん」


バスの運転手が呼び止めたようです。


「(えっ? 私? まあ、そうよね。私、お嬢さんだわ)はいぃ?」と女性が返事をすると、


「いや、お嬢ちゃんの方」と言い換える運転手のおっちゃんです。


「(ええぇぇぇ、私じゃないのおおお)うそっ」と言いながら振り向く女性です。そして背後のケイコに気づくと、そのままスタスタ(勘違いしたじゃないのよおおお、恥ずかしいいい)とバスの中へと進んで行きました。


運転手のおっちゃんに呼ばれても自分ではないと思っているケイコです。そのままフラフラと進んでいくと、


「ほれ、あんたのことだよ、ほれ」と指差すおっちゃんです。

「ん? 私に、何か用があるのかい?」と答えるケイコ。

「そうそう、お客さん。まさか無賃乗車するつもりじゃあないよね」

「そのつもりじゃが、何か問題でもあるのかい?」

「問題も何も、タダで乗せる訳にはいかん」

「ほー、それは困ったの〜。私は何時も好きなように乗っておるがの〜」

「他所ではどうか知らんが、俺にはそれは通用せんぞ」

「仕方ないの〜。では駄賃代わりに歌でも歌ってしんぜよう。それでどうじゃ」

「いいだろう。但し、下手だったら途中でも降りてもらう。それでどうだ」

「良かろう。その勝負、受けて立とう」


こうしてバッタンと扉を閉じ、ゴゴゴーと発車したバス、快適です。そのバスを見送るノリコと猫さんたち、夕陽が目に染みるのかウルっとなったようです。



ゴロゴロゴローン。


都会に向かって突き進むバスです。これまで様々な人生を送ってきた人たちを乗せ、都会という目的地に、それぞれの何かを運んで参ります。そして、同じバスに乗り合わせたのが運命なら、ケイコの歌を聴かされるのも、これまた運命。それに聴き惚れるか、耳を閉ざすかは人それぞれです。


こうして夕陽を背中にブオーンとひた走るバスは、途中で休むことなく突き進むのです。


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