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ケイコとマチコ、ときどきエリコ  作者: Tro
#11 世界に吹く風(出会い編)
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#11.1 リンコの風

えー、こちらは大空を舞うケイコです。(いかだ)で『どんぶらこ』と優雅な川下りから一転、これから山越えに挑みます。それも頂上が見えないくらい高い山です。とても風に乗ったままでは越すに越せない難所であります。


そこで鳥さんの力を借りて、ちゃっかり山を越えてしまおう作戦です。ケイコの目的は、山を越えたその向こうに在ると言われる都会、そしてそこに居るはずのマチコを、迷子という迷宮から救い出すこと! です。本当でしょうか?


風に乗って舞い上がるケイコの眼下に、都合よくV字編隊の鳥さんたちを発見。一生懸命に羽ばたいている勇姿が見えて参りました。早速、そこ目掛けて急降下、ビューンです。


上手い具合に、鳥さんに飛び移ることに成功したケイコ、お世話になります、です。その鳥さんはケイコの存在を気にすることなく、黙々と飛び続けています。


「鳥さんや、世話になります」と挨拶するケイコです。ですが、

「ガーガーガー」と不満なのか、それとも何なのか、です。

「私は、ケイコ。よろしくです」

「ガーガーガー」


どうも言葉の通じない鳥さんのようです。でもそれも無理からぬこと。遥か彼方より大空を飛んで来た鳥さんたちです。要は見知らぬところから来ている訳ですから外国語で話し掛けないければなりません。もちろん異国の言葉を話せるケイコではありません、精進が足りないのです。


でも、このくらいのことで『へこたれる』ケイコでもありません。ミツコから貰った紹介状をバッグから取り出し、


「ほーれほれ、鳥さんや。紹介状を見てはくれんかのう」と鳥さんの目の前に、ほれほれと紹介状を翳すケイコです。しかしそれは、鳥さんにとっては大迷惑、前が見えません! ほら、早速、


「ガーガガーガッガー」と間違いなく抗議しているはずです。


その猛抗議に半泣きのケイコ、おろおろ・ぐっすんです。するとその時、


「ちょっとー、あんたー、アホなのー」と聞こえてきた謎の声、です。その声に、

「ふえ〜」と、反応するケイコです。


その声のする方を見ると、隣を飛ぶ鳥さんに怪しい子(シルフィード)が乗っていました。一体、何時からそこに居たのでしょうか? はい、最初から居ました。


「そんなことしたらー、鳥さんの邪魔になるかでしょうー。なにやってるのよー」と続ける怪しい子に、

「だってー」と答えるケイコです。

「とにかくー、早いとこ、それを仕舞いなさいよー」

「だってー」と紹介状を怪しい子に突きつけるケイコです。


「はあ? なにそれー」と言いつつも、ケイコからの紹介状を受け取る怪しい子です。そして、「紹介状? なにこれ」と、それをヒラヒラさせていると、


「うんうん」と頷くケイコ。その様子で、


「これを読めってこと?」と、面倒な風で仕方なく紹介状をヨミヨミする怪しい子です。そして読み終わると、「わかったわ。ミツコの頼みじゃあねー。よし、私に任せなさい。私は、リンコ。あなたは?」


やっと話が通じで安心したのか、「私、ケイコ〜」と半分、涙声で答えたました。


「じゃあ、ケイコ、私に付いて来て」と大きな声で言うリンコに、声の出ないケイコです。そこで、「大丈夫、私が居れば安心よ。だけどね、この子たちは遊びで飛んでる訳じゃないの。いい? しっかり付いて来るのよ」という声に、


「うん」と答えるケイコです。

「じゃあ、行くわよー、それー」


◇◇


鳥さんたちはグングンと風を受けて上昇していきます。そして上昇速度が鈍ってくると、今度は一気に降下していきます。その勢いで更に上昇していきます。また、編隊の先頭を次々に入れ替えていきます。こうすることで先頭の疲労を回復しながら山を越えていくのです。しかも途中で休むことなく、山越えは一発勝負、真剣な鳥さんたちです。


そんな鳥さんたちに、ケイコたちはしがみ付いているだけです。それでも運命を共にしながら山越えに挑みます。そこで、へこたれそうになる鳥さんたちの気持ちを鼓舞する、それがケイコたちの役割です。


「がんばってー、負けるなー」


時折、鳥さんたちを励ますケイコの声が、押し戻されそうになる鳥さんたちの心と体を支えています。そしてリンコも鳥さんたちを手助けするために、吹き下ろす風を蹴散らしていきます。


そんなことを繰り返しながら、もう数時間が経ちました。それでも山を越えるには、まだまだ挑み続けなくてはなりません。


◇◇


「ガーガガ?(鳥さんや、まだまだ掛かるのかい?)」

「ガガーガ(まだまだ序の口だわい)」


鳥さんたちと苦労を共に過ごしたことで、言葉を覚えたケイコです。流暢に話し掛けるケイコに、気さくに答えてくれる鳥さんたちです。


「ガーガガ、ガガ(鳥さんや、山から離れて行くようだが)」

「ガガーガ、ガンガー(一旦、離れてから一気に攻めるのさ)」


鳥さんの言う通り凄い勢いで空を駆け上がる、鳥さん編隊です。


「ガー、ガー(すごい、すごいよー)」と感動しているケイコに、

「もう言葉を覚えたのかい、飲み込みの早い子だね」と感心するリンコ、

「ガンガン(エヘン)」のケイコです。そこで、

「ガガー、ガガー、ガンガ」とリンコ、

「ガー、なんだってー?」のケイコです。


「上り詰めたところで、鳥さんたちとお別れするよ」と下を指差すリンコ、それに首を傾げ、言っている意味が分からないケイコです。


それでも、鳥さんたちがこれ以上、上がるのは無理〜というところで、


「行くよー、付いて来てー」と叫びながら鳥さんから飛び降りるリンコ、それに「およよ」のケイコ、「大丈夫だからー、私を、信じてー」の声に、「えいっ」とリンコに続くケイコ、ヒューン・怖いよ〜、です。


◇◇


頭上には、編隊を組んで飛び去って行く鳥さんたちの雄姿が、下にはヒラヒラと落ちていくリンコの姿を追うケイコです。何でこんなところで降りるんだろう、と考えても分からないケイコ、その体が横風を受けて軽くスピン、ヒラピン状態になってしまいました。それはケイコの目を回すには十分な回転です。その結果、自分がどこに居るのか分からなくなったケイコです。


「おんよ〜、わーん」


パニックに陥るケイコは、叫びながらクルクル、目を回してグルグルです。その手をガッツリと掴むリンコ、


「慌てないで、大丈夫!」と体勢を整え、ヒラヒラと舞い降りるリンコとケイコです。そうして、雪の積もる山の斜面に降り立ちました。「ほら、大丈夫だったでしょう」と言いながら、表情が凍りついているケイコの肩をポンポンと叩いて解凍していきます。


◇◇


山の天気は快晴、風は少々で雲はありません、というより、ずっと下の方にあります。そしてリンコとケイコが立つ場所は、うっかり足を滑られせたら、どこまで落ちていくか分からない、怖〜い雪の斜面です。


「さあ、ここから少し登って行くわよ」と笑顔の絶えないリンコが張り切っています。そして何やら風をケイコに送り、「それをしっかり握って、手を離さないでね」と付け加えました。


それは透明な風のロープのようです。でもちゃんと握った感触のあるもので、しっかりとロープの役目は果たしています。それを言われた通り掴んだケイコです。


「じゃあ、行くよー」とリンコの合図に、

「うん」の解凍され元気が戻ったケイコです。


◇◇


トコトコ・ズボズボと山を登って行くリンコとケイコです。ケイコの前を軽々と歩くリンコに対して何度も足を滑らせるケイコですが、その都度ロープに掴まり、なんとかリンコに付いていきます。


そうして慣れてくると、羽目を外したくなるのがケイコです。ヒョイヒョイと足取りも軽くなり始めた頃でしょうか。大きく一歩を踏み出したところ、ツルンッと足を滑らせ、バランスを取ろうと手を振り回します。そうすると握っているロープが邪魔になるので、自然と手を離してしまいました。


「およっ、およよおおお」


斜面なので、そのまま落ちるように、いえ、落ちたケイコです。その行く先は深い谷です。そこに吸い込まれるように滑落していきます。


そんなケイコの悲鳴で振り返ったリンコは、即座に風のロープを伸ばし、ケイコをグルグル巻きにして引き上げます。そしてその勢いで宙に浮いたケイコを降ろさず歩き続けるリンコです。


「あんたって子は〜、……大変だね〜」と呟くリンコに、

「ごめんなさい」と空中でまた凧になったケイコです。


◇◇


暫く順調に進む登山です。もうケイコは凧ではありませんでしたが、グルグル巻きは変わりませんでした。これなら落ちても心配はないでしょうが、囚人のようでもあります、うむ。


そうして、ある地点で立ち止まったリンコとケイコです。そこは、とても見晴らしの良いところでしたが、特に他と変わったところではありません。では一体、そこで立ち止まった訳とはなんでしょうか、終点なのでしょうか。


「ほら、ケイコ。あそこを見てみなよ」


リンコが指差したのは、下の方で飛び続ける鳥さん編隊です。それに、「ほっほー」と声を上げるケイコ、歩いて登った方が早かったのかと不思議で一杯です。


「あのまま、鳥さんたちに乗ってても良かったんだけどね。ケイコは急ぐんだろう?」

「う、うん」

「だから、あれが来るのを待っていたんだよ」


リンコが言う『あれ』とは、鳥さん編隊とは別の、小さな群れで飛んでくる集団です。小さい、ということで、鳥さん編隊とは一回り以上、小さい鳥さんたちのようです。リンコが続けます。


「あれが近くに来たら飛び乗るから準備しといてね」

「うん」


返事をしたケイコですが、何を準備するか分からないケイコです。心の準備でしょうか。それなら何時でも大丈夫です、のケイコです。


「ほら、来たよ。あれは速いからね、しっかりと掴まるんだよ」

「はい」

「いい返事だね。じゃあ、行くよー」


風を捕まえたリンコとケイコは、一旦降下してから急上昇、小さい鳥さん集団を飛び越えて行きます。そうしてゆっくりと降下しながら、小さな鳥さんの上に乗りました。そして、「ガーガンガンガー」とリンコが小さな鳥さんに事情を説明、搭乗許可を得ることが出来ました。その脇でケイコも「ガンガー」と礼を言ったようです、はい。


「ケイコー、振り落とされないようにねー」

「はい」


小さな鳥さんは見かけによらず、ガンガン飛ばしていきます。その背中に乗るリンコとケイコ、振り落とされないようにと必死にしがみ付きます。


ところで、一羽にリンコとケイコが乗っていたら、重くて飛行の支障になるのではないでしょうか? いいえ、リンコとケイコには『重さ』というものが無いのです。そいう訳で、鳥さんにとっては居ても居なくても変わらないのです。


ビュビュビューン。


小さい鳥さんたちは、一度も下がることなく、どんどん上昇していきます。羽ばたきも『パタパタ』ではなく、『バタバタバター』です。疲労が溜まる前に、全力で山越えを目指します。


必死の鳥さんの背中で、こちらも必死で耐えるリンコとケイコです。それも、邪魔にならないようにと、ケイコを下にして折り重なるように、リンコが上で頑張っています。それはまた、ケイコが鳥さんから落ちないようにとの配慮からでしょう。


激しく動きまわる鳥さんの背中で、殆ど周囲の状況が分からないケイコは動揺していきます。どこをどう飛んでいるのか、急に落ちてしまわないかと不安が募り、それで無意識に体をプルプルとさせているようです。そんなケイコに、


「良い子だ、ケイコ。もう少しで山を越えるから、頑張れ」と声をかけるリンコです。


『良い子』と言われたケイコは、記憶のページをどんどん(めく)っていきます。それは、今まで褒められたことが有ったかどうかを確認するためでしたが、そのページがなかなか出てきません。


流石に、一度も無かった、ということはありませんが、それが思い出せないケイコです。そこで最近ではどうだろうかと記憶を辿っていくと、真っ先にマチコのことが思い浮かんできました。


そういえば、マチコは私を褒めてくれたことが有っただろうかと思いを巡らします。そうしてそれは、出かけたまま迷子になってしまったマチコになり、それを自分が迎えに行っているのだと記憶のページには書いてあるようです。


「全く〜、仕方のない子だね〜、マチコは〜」と思いながら、「今、行くからね」と最後のページに書き足したようです。


「ん? 何か言ったかい? ケイコ」


ブツブツと呟いていたケイコにリンコが尋ねると、「ううん、何でもない」と答えたケイコです。その時、僅かな時間ですが、鳥さんが羽ばたくの止めたのです。


「ほら、ケイコ。山を越えるよ」とリンコが右の方を指差しています。それを垣間見たケイコは、山の頂上を越えて飛んで行くのがチラリと見えました。それに、


「ほー」と何とも言えない声を上げるケイコです。



パタパタ・パターン。


リンコとケイコを乗せた鳥さんたちは無事に山を越え、今は長閑(のどか)な田園風景の上をを飛んでいます、パタパタ。


「ケイコはこの辺で降りた方がいいよ」とリンコが言うと、

「なんで?」と、すっかりリンコとの旅に慣れてしまったケイコです。

「ケイコは都会に行くんだよね。鳥さんたちとは向かう方向が違うんだよ」

「そっかー」と、ちょっぴり寂しいケイコです。

「私は、このまま鳥さんたちと行くから、ここでお別れだね」

「うん」


一応、返事はしたものの、なかなか決心がつかないケイコです。それを察したリンコは、


「大丈夫、また会えるよ。風が吹いている限り、ね」とケイコの頭を撫でるのでした。

「そう、だね」

「さあ、もう行きなさい。お友達が待ってるよ」

「うん」


こうして鳥さんから立ち上がったケイコは右手で風を掴み、それに乗ってスーッと鳥さんから離れていきます。


「ありがとうー、リンコー、バイバーイ」と手を振るケイコ、それに手を振り返すリンコです。そして、飛び去って行く鳥さんたちとリンコの姿を、見えなくなるまで見送るケイコです。


そして、田園に吹く風がケイコを誘って行くのでした。


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