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ケイコとマチコ、ときどきエリコ  作者: Tro
#10 世界に吹く風(追跡編)
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#10.3 追いかける風

ここで少々、マチコの様子を覗いてみましょう。


ケイコを迎えに出かけたマチコは、超特急『追い風』に乗ってケイコの足跡を追っています。しかし、ずっと風に乗っていると刺激に乏しく飽きてくるものです。それに、遊び第一の風の子(シルフィード)にとっては、じっとしたまま何もしないなんて、苦痛そのものなのです。


「ふあぁぁぁあぁ、退屈よねぇ」


欠伸ついでに気持ちが声になって出てきたマチコです。その時、海に浮かぶ大きな島が見えてきました。そこはケイコが最初に立ち寄った、正しくは吹き飛ばされた島です。


「ちょっとぉ、あそこで休憩していこうかしら」


そう思ったマチコは『追い風』を降り、島に向かうローカルな風に乗り換えました。そして、一番近い砂浜に降り立つと、「うーん」と背中を反らして体を(ほぐ)していきます。


久しぶりの土の感触に、どこか安堵するマチコです。そして普段見慣れない光景に、どことなくワクワクしていると、長い紐のようなものが砂浜に有ることに気がつきました。


「なにかしら、これ」


何気なくその紐を持ち上げてみたマチコです。すると、急にその紐が引っ張られ、それを掴んだまま倒れてしまいました、ズルズル。


「流れの風が釣れたぞ。勝負だ、お前!」


紐の端を持って勢いよく引っ張っているのは、ケイコを凧にして遊んでいたシマコです。ということは、そう、紐に見えてものはケイコをグルグル巻きにしていた、あの(つた)のようです。


「ちょっとぉ、いきなり、なにすんのよぉ」とお怒りのマチコ、それを無視して、どんどん蔦を引っ張るシマコです。


「どうだー、流れ風めー、参ったかー」と勝ち誇るシマコに、

「さっきからぁ、うっさいわねぇ」と引っ張り返すマチコ、反撃です。それに、

「うぬー、負けんぞー」と力を込め込めするシマコ、

「もう、面倒な子ねぇ」と、羽を一振りしたマチコに吹き飛ばされるシマコ、

「あっれー」です。おまけに蔦を持ったままだったので、それにグルグルと絡まり、身動きが取れなくなった様子、完敗です。


グルグル巻きのシマコを呆れた顔で見下ろすマチコです。そんなシマコに、「あんたぁ、誰よぉ」と尋ねると、

「シマコじゃー」と悔しがります。

「あの子みたいな言い方ね。ということは、シマコもアホなのぉ?」

「違うぞー。それと、あの子とはケイコのことかー」

「あれ、知ってるんだ。そうねぇ、似た者同士、引き合う、のかもねぇ」

「すると、お前がケイコの言っていた、アホのマチコだなー」

「なっ、なんですってぇぇぇ」

「迷子になったって、聞いたぞー。アホだな」

「ちょっとねぇ、迷子はあの子の方よぉ、全くぅ」

「そんなことより、いいことを思いついたんだ。その紐を引っ張ってくれよー」

「はあ? なんでぇ?」

「いいからー、早くー」

「もうぉ、あの子も、この子もアレなのねぇ」


仕方なくズルズルと蔦を引っ張るマチコです。ですが、そうじゃないとシマコが不平を言っているようです。なになに、もっと素早く勢いよく引けと、わかったわよぉ、全くぅ、のマチコとシマコです。


「どうなっても知らないからねぇぇぇ」と念押しするマチコに、

「ガッテンだい」と何かの意気込みを見せるシマコです。


シマコから少し離れ、今度はグイッと蔦を引っ張るマチコです。その蔦がピーンと張った瞬間、「とうぉぉぉ」の掛け声で飛び上がるシマコ、凧になって空に舞い上がります。そして、「ひゃー、ひゃー」と楽しそうに叫ぶのでした。


思いかけず『シマコ凧』を揚げることになったマチコです。手に持つ蔦の先で、勝手に飛び回るシマコを見ながら、「はあ、そんなに楽しいものかしら。まあ、喜んでるから、そうなんでしょうねぇ」と複雑な思いでシマコを見上げていました。


ところがです。あまりにもシマコが動き回ってはしゃぐものですから、その動きに蔦が耐えきれず、とうとう、プツーンと切れてしまいました。その反動で、「わおぉ」と後ろに倒れるマチコ、風に流され、どこかに吹き飛ばされていくシマコ、「うおおおお」と叫んでいます。それでも至って楽しそう、に見えたマチコです。


「行っちゃったしぃ、私もぉ行こうかしら」


こうして島を後にしたマチコです。そしてまた『追い風』に乗り換えて進んで参ります。片や、どこかの空を漂うシマコは、暫くグルグル巻きのまま楽しそうに空の散歩を満喫しているようです。それは、滅多に見ることのない島の全景に、心を躍らせているからでしょう。因みにグルグル巻きは何時でも擦り抜けることが出来るのですが、案外それが気に入ったようなシマコです。



マチコを乗せた『追い風』が砂漠の上空に到達しました。そしてここが終点となるため、ゆっくりと降下し始める『追い風』とマチコです。


その途中、砂漠を進む奇妙な集団を発見、興味をそそられたマチコがそっと近づいていきます。それは、サチコを先頭に魔法の絨毯で疾走する不良の子たちです。サチコが先頭なのは勝負に勝ったサチコが、どうやら不良集団のリーダーになったからのようです。


そのサチコの絨毯に狙いを定め、一気に降下、そして何時ものように絨毯に正座しているサチコの後ろに舞い降りたマチコ、お邪魔します、です。もちろん掟に従いマチコも正座しています。


「ちょっとぉ、聞きたいことがあるんだけどぉ」


一心不乱に前だけを見ているサチコに声を掛けたマチコです。もちろん、後ろに誰かが居るとは想定外のサチコ、「あんぎゃー」と歓喜の声を上げたようです。


「誰ですかいどん、あんたーはさー」と声を詰まらせながら応えるサチコです。

「私はねぇ、そうねぇ、迷子捜査官のサチコ、かなぁ。うん、それでいいや」


迷子捜査官とはなんだろう、ということと、マチコという名前を、どこかで聞いたことがあるような、無いような。そこで記憶の糸を辿って手繰り寄せ、それが絡まって分からなくなったサチコです。取り敢えず、


「私は、サチコです」と答えておきました。

「ふ〜ん、サチコかぁ。似たような名前、よねぇ」とマチコが反応すると、


「大変よー、サチコが増えているわー、分身の術なのー」と隣を並走する不良の子も反応してきました。その不良の子こそ、この集団の元・リーダーだったミチコです。サチコとの勝負に負けたため、今は一介の仲間に過ぎません。


「本当だわー、サチコが増えてるー」と、以前ミチコとコンビを組んでいたフチコが騒いでいます。


そう云えば、ケイコがサチコをマチコと見間違えたように、マチコとサチコは似ている、と云えば云えるかもしれません。それは、それぞれの受け止め方でしょう。


ということで、途中で邪魔が入りましたが質問を続けるマチコです。


「ねえぇサチコぉ、ケイコを知らないかしらぁ」

「ケイコ!」


ケイコの名前を聞いた途端、ビックらこいたサチコです。その驚きっぷりに、逆に驚くマチコです。


「なんだぁ、知ってるのねぇ。ねえぇ、あの子、今どこに居るか知ってるぅ?」


マチコの問いに、ケイコとの哀しい別れが蘇り、涙が溢れそうになるサチコです。あと少しで届かなかった手が、今でも悔やまれるのでしょう、きっと。


「ケイコは、ケイコは、ケイコは、どこか遠くに吹き飛んで行きました」


サチコの悲痛な声に、「あっそぅ。それは困ったわねぇ、せっかくここまで来たのにねぇ」と普通に答えるマチコです。そうしてバッグから地図を取りだし、ケイコの現在地を確認します。因みに、地図は携帯用に小さくなっています。


そうして地図を広げて見ているマチコに、

「サチコー、サチコー、返事をしてよー」とミチコがマチコに声を掛けています。


当然、サチコではないマチコは返事をしませんが、どうやら自分を呼んでいるらしいと分かると、


「ちょっとぉ、静かにしてくれない? 今、地図を見るのに忙しいのよぉ。それに私、マチコだから」と地図から目を離さないマチコに、


「怖ーい! 怖いよー」と離れていくミチコです。


広げた地図でケイコを探すマチコです。しかしそこに目印である赤い点がありません。そこで仕方なく、更に地図を広げていくと、う〜ん、う〜ん、う〜ん、ありました。でもそこは、かなり遠くのようです。


「マチコー、ほら、あれを見てよ」


マチコの記憶から消えかかっていたサチコが、遠くを指先ながらマチコに催促しています。その先にあるものとは、


「なにぃ、あれぇ」とマチコも初めて見る、白く輝くピラミッドです。

「あれはねー、最近、観光用に建てられたピラミッドなのよー」

「ふ〜ん、随分と大きいのねぇ」

「それでねー、あの上から飛んで行ったのよー、ケイコがー」

「そう」


マチコの素っ気ない反応に、少しムッとしたサチコです。そのせいか小刻みにプルプルと揺れる絨毯です。それはサチコの、心の有り様に影響されるシャイな絨毯のようです。


「大丈夫よ。ケイコはねぇ、何時もそんな調子だから。それにぃ、今は遠くに居ることが確認できたのよぉ」


「それは本当?」マチコの言葉に笑顔が戻りつつあるサチコです。

「本当よ。だって、私たち風の子(シルフィード)は嘘は吐かないでしょう?」

「そうね」


サチコの笑顔が戻ったところで、悩むマチコです。それは、このままケイコを追うよりも、一旦戻って逆方向、つまり西に向かった方が早いかもと思えたからです。それをザックリと言えば、マチコの現在位置から見てケイコは地球の裏側に居るようなものです。ですから、追い続けるよりも逆に進んだ方が早そう、ということです、はい。


「サチコぉ、私、帰るわぁ」

「そうなの?」少し寂しそうなサチコです。

「うん、その方が良さそうだから、ねえぇ。じゃあねぇ」


そう言うとマチコは絨毯の上に立つと、一歩踏み出して、スーッと消えてしまいます。すると、並走していたフチコが「急に居なくなったよー、怖いよー」とプルプルと震え、サチコはマチコの居たところを何となく見ていたのでした。



こうして自分の部屋に戻ってきたマチコです。そして直ぐに部屋を出ると、故郷である都会に向かうのでした。そこはマチコたちが普段いるところから西の方角になります。


結局、マチコは都会から戻って、また都会に行く、ということになってしまいました、とさ。

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