#16.1 昼間の風
心地よい秋の風が吹く頃。ええ、卒業旅行に出掛けたのは春でしたが、目覚めてみたら夏を飛ばして秋になっていました、あれれ、です。
そうして迎えた朝、普段着姿のノリコが起きたばかりのエリコを遊びに誘っていました。すると、それを聞きつけたケイコが布団からガバッと起き上がり、
「ノリコや、私たちはどうすれば良いのじゃ」と遠回しに、遊びに混ぜるようにと催促しますが、
「オバさんたちは、ご自由にどうぞ」と素っ気ない対応のノリコです。それに少しムッとしたのでしょうか。そこで、「お姉さんたち、という意味です」と言い換えると、ニンマリとするケイコです。そして、
「お姉さんだからのう、お姉さんだから」とブツブツ言いながら、また布団にくるまるケイコ、二度寝のようです。
そんな様子を横になりながらチラッと見ていただげのマチコです。そして、開けかけた瞼を閉じながら、(さて、今日は何をしようかな)と考えているうちに二度寝してしまうマチコ、ケイコとお揃いです。
最初はノリコの誘いに乗る気ではなかったエリコですが、「ニャーゴに乗せてあげる」というノリコの誘惑に興味が湧いたのでしょう。そこで、グースカピーのケイコたちを置いて、ノリコと遊びに出掛けるエリコです。
◇
母屋を出て長い廊下を歩いて行き玄関に到着です。そこで靴を履いて外に出たところでニャージロウが待機していました。それに疑問を抱いたノリコは、
「ねえ、ニャージロウ、ニャーゴはどこ?」と尋ねましたが、俺はニャーゴの子守じゃないぞ、と言わんばかりに、フンッと澄ましているニャージロウです。
せっかくエリコをニャーゴに乗せて出掛けようと思ったノリコですが、肝心のニャーゴが居ません。一方、自分よりも大きなニャージロウを目の前にして恐れ戦くエリコ、プルプルです。そんなエリコに気づかず、
「おかしいですね、ニャーゴが居ないとなると、どうしましょう」と考え込むノリコです。
そこに、物陰からコッソリと現れたニャーゴです。でも、まだ半分だけ体を隠していて、出て行こうか、どうしようかと迷っている様子に、
「ニャーゴ! 出てきなさいよ」と呼びつけるノリコ、そのニャーゴの姿に、
「ヒクッ」と驚くエリコ、(あれに乗ろうなんて、なんでそんなことを思ったんだろう)と後悔しているようです。出来れば今すぐにでも走って逃げたい気持ちで一杯です。
呼ばれて仕方なくという感じでノロノロと物陰から出て来たニャーゴ、何故かエリコをチラッと睨み付けたような。それで、「ヒクッ」から「ビクッ」になったエリコです。そんなエリコにお構いなく、
「ニャーゴは照れ屋さんだね、もう大きくなったのにね」とニャーゴを迎えるノリコです。そのニャーゴは、ニャージロウと変わらないくらい大きく成長していましたが、中身はまだまだ、お子ちゃまのようです。
そうして、漸くエリコの傍に座ったニャーゴですが、そこでやっとエリコが怖がってプルプルしていることに気が付いたノリコです。
「エリコ、大丈夫だから。ニャーゴは、こう見えても……見えても……優しいから」と自分で言いながら不安になってきたノリコです。それで、ニャーゴではなくニャージロウにしようかと考えた時、その気配を読み取ったのか、前足をお腹の下に入れて香箱座りするニャーゴです。それに、「あれれっ(こんなニャーゴ、見たことない)」と驚くノリコです。
以前、ケイコが乗った時も、多少は暴れていましたが、最終的には仲良くしていたように見えたニャーゴです。ですが初見のエリコに、ここまで無防備に待ち構えるニャーゴ、そして最初は隠れていたことなどなど、変てこりんなニャーゴは初めてのようです。でもそれはニャーゴが大人になった証拠、と思うノリコです。そこで、
「エリコ、ニャーゴが乗ってくださいって言ってるよ」と誘うノリコです。そして、お手本としてニャージロウに飛び乗ったノリコ、後はエリコを待つばかりとなりました。
◇
野原を駆け巡る二匹の怪獣、ニャーゴとニャージロウ。そしてその背中に、それぞれエリコとノリコを乗せて、風よりも速く走り抜けて参ります。最初は怖々と乗っていたエリコはニャーゴに縋り付いていましたが、今では堂々たるはしゃぎっぷりです。その様子に安堵したノリコはニャージロウに行き先を指示しましたが聞いてくれません。風の吹くまま気の向くまま、ハイヤー・スタッスタッ、です。
◇
その頃、漸く布団から起き上がったケイコとマチコです。そんな寝ぼけた顔に、鹿威しが良い音を響かせ、ケイコとマチコに喝を入れました、カコーン、です。
それで心を入れ替えたケイコとマチコは、布団の上ですが座禅を組み、精神の統一を図って参ります。求めるものは『ただ一つ』、これから何をするか、です。そして暗闇の中から微かな手掛かりとなる光を探して探して……おっと、また襲ってきた睡魔を払い除け、求めに求めると、あった、ありました。それを最初に見つけたケイコが、
「行こう!」と大声を出すと、
「行きますかぁ」と目を見開いて答えるマチコです。
そうして、思い立ったらすぐに、と玄関に向かって走るケイコたち、ドカドカです。そして、玄関で靴も履かずに通り過ぎ、その代わりマチコの「ふー」で風に乗ってビューンと桟橋の小舟を目指すケイコたちです。
到着後、プカプカのんびりしている小舟に話し掛けるケイコです。そこですぐに話はまとまったようで、ロープのようなものが二本、ピューンと小舟から出てきりました。それをそれぞれで握り締めるケイコとマチコです。そうして、ブーンと波飛沫を蹴散らして動き出した小舟です。そう、これから始まるのは水上スキーのようです。
ですが裸足のままのケイコたちです、どうするのでしょうか。それは素足のままで水面を滑る、のではなく、水面と足の裏の間に風を送るという風の子ならではの方法で滑って行きます。ちょうど波乗りと同じ要領ということでしょう。
小舟の速度が遅いうちはキャッキャ出来たケイコですが、速度が増すにつれ、ただ引きずられていくだけのケイコ、華麗に滑るマチコ、と運命が別れてしまったようです。そこで仕方なく、滑ることは諦め、羽を広げて宙に浮き上がった『凧さんケイコ』です。それでも互いに楽しそうなので良しとしましょう。
こうして水上スキーを楽しむケイコとマチコです。それもこれもアイのおっちゃんの協力があってこそでしょう。それにヨシコからは、なるべく協力するようにと言われていた、とかなんとかです。
◇
世界を駆け巡る、ではなく野原を疾走する、でもなく町内の隙間という隙間に挑むニャーゴとニャージロウ、そしてその背中にしがみ付くエリコとノリコ、大冒険中です。足の裏がやっと置けるくらいの細い塀の上や、壁に突進してジャンプして、そこで急旋回してみたり、そんな狭いところを通るのは無理、その無理を押し通す猫ズです。とても周りの風景を見物している暇はありません、風の吹くまま気の向くままです。
そうして走り疲れたのでしょう、低い木の根元でゴロニャンと横になったニャーゴ、それに続いて一休みするニャージロウです。そこで、これまでずっと猫ズに振り回せられたエリコたちは、横になった猫ズのお腹に体を預け、心地よい風を感じながら空を見上げるように横になったのでした。
そういえば、この木に登って降りられなくなったニャーゴを思い出したノリコです。それを助ようと奮闘したケイコと、まだ子猫だったニャーゴが喧嘩しながら、結局、落ちるように木から降りたことを懐かしく思うノリコです。
そのニャーゴが喉をゴロゴロと鳴らし始め、その音に引きずられるように瞼を閉じていくエリコです。そしてそれに釣られるようにニャージロウもゴロゴロを始めると、ノリコもウトウト・スースー、したかと思うとグーグーと寝てしまったようです。
風で揺らめく葉っぱの隙間から溢れる陽の光、お昼寝にはもってこいの心地よい風、殆ど動かない白い雲のせいなのか、時もゆっくりと流れていくような感じがしてきます。そんな世界のある場所で、スヤスヤのエリコたちです。
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