#15.3 見つける風
音楽室に乗り込んだサチコたち、その教室を外から覗き込むミツコ、これからの出来事を観察するようです。
早速、歌を披露するサチコ、ですが、余りの音痴に耳を塞ぐシマコとケイコです。それでも気持ちよさそうに歌い上げました。そして試練を乗り越えた、または嵐が去ったので、次はシマコが歌うようです。
「あ〜、あ〜」と発声準備をした後、チラッとサチコを見ました。そうしてもう一度、「あ〜、あ〜」とした後、またサチコを見ています。それに、「あっ」と何かに気が付いたのでしょう、ピアノの前に座り、ポロリンとピアノを弾き始めるサチコ。う〜ん、これはなかなか上手い弾き手のようです。
そうしてピアノの伴奏に合わせてシマコが歌います。するとどうでしょう、シマコとは思えない美声、心を揺さぶって参ります。これに、教室の外に居るにも拘わらず、漏れ聞こえてくる歌声に涙するミツコ、「あんたって人は、ウルウル」です。
そしてケイコも、フムフムと聴き入っているようです。そっと目を閉じながら耳を澄ましていると、ある情景が浮かんできます。それは、小さな川にそよぐ水辺の草たち、優雅に泳ぐ『ちぎれ雲』に紅の夕焼け。そのどれもが心に染み入り、どこか懐かしさを覚えるのでした。
シマコの歌声は勇気も与えてくれるようです。ごく普通の、ありふれた歌詞を情緒豊かに紡いでく歌い方は心を震わせるものがあります。特に「あなたの、本当の姿を知る時なのです」のところでは、思わず体をプルプルとさせたケイコは感動の風に、どこまでも吹き飛ばされて行くのでした。
歌い終わったシマコの次は、いよいよケイコの番となりました。皆さんの注目が集まる中、否応無く期待が膨らみ、顔を真っ赤にするケイコです。そこで大きく深呼吸をすると、静かに歌い始め……終わりました。
どうやらケイコが歌っている場面は、夢の製作者によってカットされたようです。その歌いっぷりが気になるところですが、歌い終わったところでパチパチと拍手を送られたケイコです。そのケイコは、
「(ふう〜、爽快じゃ)では、もう一曲行きましょうか」と提案すると、鳴り止んだパチパチです。
トゥルルルル、トゥルルルル。
音楽室の外からコッソリと覗いていたミツコは感動のあまり、生徒会長であるリンコに感動をお裾分けしようと電話を掛けているところです。そして会長が電話に出るやいなや、
「感動しました、涙が止まりません」と言うと、携帯をギュッと握り締めるのでした。その電話を受け取ったリンコは、
「夜明けは近そうだ。だが、まだ卵と言ったところだろう」と返事をしましたが、その時にはもう通話は切れていたようです。
◇
歌って踊る。この言葉の通り、歌った後は体を動かしたくなるもの。そこで音楽室を後にしたケイコたちは体育館に向かいました。もちろん、その後をコッソリと尾行するミツコ、新しい発見を求めて付いて参ります。
体育館に到着したケイコたちです。そこで何をするのかと思えば、バトミントンのようです。流石は夢の世界、既にやることが決まっています。
早速、「そーれっ」とサチコがバトミントンの羽根を打ち上げると、それを力一杯、打ち返すシマコ、そのおかげで高く舞い上がった羽根です。それを、
「任せてー」と言いながら高く、高く舞い上がるケイコです。それはもう見上げるくらい、いいえ、それどころか空の雲を見ているくらいの高さです。しかし、ここは体育館なので、普通であれば天井に頭を打ってしまうのではないでしょうか。はい、これは夢なので多少の矛盾は付き物です。取り敢えず、天井のことは忘れておきましょう。
パコーン。
ラケットで思いっきり羽根をひっぱ叩いたケイコです。羽根は超高速でサチコの元に返され、咄嗟に避けたサチコの横に大きな穴が開いたほど、すごい威力でした。もちろん、
「オキャあああぁぁぁあああ」とサチコが悲鳴を上げながら逃げたのは言うまでもありません。
この時、強打したケイコの手には不思議な感触が残っていました。それは、高く舞い上がり、思っていた以上の力が出せたことで、なにかこう、懐かしい記憶が蘇ってくるような、そんな不思議な感覚のようです。そしてそれは言葉となって、「秘めた力は、こんなものではないよ」と、自分の声が耳元で囁くように聞こえたのでした。
「(ふふっ、私としたことが、つい本気を出してしまったのじゃ)綺麗な空です、心が落ち着くのです。そう、これはもしかしたら私の居場所、心の故郷なのかもしれません」とブツブツ言いながら舞い降りるケイコです。
トゥルルルル、トゥルルルル。
体育館の外からコッソリ覗いていたミツコは驚きのあまり、生徒会長のリンコも驚かしてやろうと電話を掛けているところです。そして会長が電話に出るやいなや、
「驚きました、腰が抜けたのです」と言うと、携帯をギュッと握り締めるのでした。その電話を受け取ったリンコは、
「新しい時代の夜明けだ。だが、まだ雛と言ったところだろう」と返事をしましたが、その時にはもう通話は切れていたようです。
◇
スポーツの後はお腹が空くもの。そこで体育館を後にしたケイコたちは家庭科室に向かいました。もちろん、その後をコッソリと尾行するミツコ、次なる驚き求めて付いて参ります。
家庭科室では、早速、料理対決が始まっています。烈火のごとく激しい炎で豪快に調理するシマコ、トントントンと規則正しい調子で包丁を捌くサチコ、そして、何故か一人椅子に座って料理が出来上がるのを待っているケイコです。
クンカクンカ。良い匂いが部屋中に漂い、お腹もグーグーと鳴ってきました。その様子を教室の外から覗き込むミツコは喉をゴックンコさせています。そうして途中経過を飛ばしで出来上がった料理の数々がケイコの前に並べられました、ゴックンです。
「さあ、召し上がれ」
サチコの手料理に、思わず喉とお腹が鳴るケイコです。そして一口頂くと美味な世界がお口一杯に広がり、更にもう一口、また一口と手が止まらなくなったケイコ、幸せです。
「(なんじゃ、これは。まるで天にも昇る思いじゃ。しかし、なんじゃ、この後味は。むむ、さてはアレなのか、絶妙な隠し味じゃて。これは参った、降参じゃ)とても美味しゅうございます。サチコさん、また腕を上げましたね」と、幸せそうな笑みを浮かべるケイコです。
因みにシマコの料理は手を付けることは不可能、ただの丸焼、炭のような物体です。それでもご満悦のシマコ、幸せです。
目を閉じながら、祝福の時を噛み締めるケイコです。美味しい食事にお腹と心を満たされ、大空を自由に羽ばたいているような気分になったようです。そうしてスイスイと青い空を飛んでいると、ある言葉が浮かんできました。「隠されているのは味だけじゃないよ。本当の自分に気が付いて」と、それは山彦のように何度もケイコの心に訴えかけてきたのです。
「(本当の自分? 私は、私は、誰慣れなのじゃ。まさかまさか。そうじゃな、そろそろ扉を開く頃合いじゃて、うむ)御馳走様でした」と言うとスクッと立ち上がり、どこかに向かうようです。それに、
「「待ってよー」」とケイコの後に続くサチコとシマコです。今度はケイコを先頭にゾロゾロと隊列を組んで家庭科室を後にして行きます。ケイコたちが向かった先とは、
トゥルルルル、トゥルルルル。おっと、その前に電話を掛けるミツコです。
家庭科室の外からコッソリ覗いていたミツコは空腹のあまり、生徒会長のリンコに出前を頼もうと電話を掛けています。そして会長が電話に出るやいなや、
「ぺこぺこです、すぐに持ってきてください」と言うと、携帯をギュッと握り締めるのでした。その電話を受け取ったリンコは、
「とうとう、その時が来たのだ。雛が成長し大空に羽ばたく時が。よし、ミツコ君、しっかりと見張るのだ」と返事をしましたが、その時にはもう通話は切れていたようです。
◇




