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ケイコとマチコ、ときどきエリコ  作者: Tro
#15 夢見る風
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#15.2 旅立つ風

トゥルルルル、トゥルルルル。


教室で授業が始まるのをボーッとしながら待っていたサチコの携帯が『早く出ろよ』と踊り狂っています。その発信元は委員長のマチコです。早速、試験対策を副委員長であるサチコに丸投げしようと電話を掛けて来たようです。


電話に出たサチコはマチコからの依頼を断ることはせず、渋渋ならが引き受けたのでした。それは、風の子は頼まれたら断れない性格だから、ではなく、今は夢の中で生徒になりきっているので、単にサチコの性格的なものでしょう。


その面倒事を押し付けたマチコは、何か用事があるからと教室には戻って来ないようです。それが本当なのか、それとも何かの言い訳なのかは分かりませんが、とにかくサチコがどうにかしなければならない状況になってしまいました。


そこでサチコが考えたのが小テストです。それは試験の成績を良くするためにはまず、それぞれの学力を知る必要があるからです。ですが、そのテストをする問題用紙はどうするのでしょうか? はい、これは夢なので思い立ったらすぐにテストの問題用紙がサチコの手元に現れました。但し、それが何の問題なのかは詳細不明となっています。


こうして全員に問題用紙を配ったところでテストの開始です。普通、いきなりテストをすると苦情がありそうですが、そこはそこ、問答無用で強制的に物語が進んで行く夢なのです。


問題用紙を手に取り、(これは一体、何をするものでしょうか)と疑問に思うケイコです。そんな『素』の思考は、素早く『設定されたケイコの性格』に上書きされ、問題を解く勤勉なケイコに早変わり、早速、問題文をヨミヨミして行きます。


しかし、問題を読み解こうとしても、何が書いてあるのかサッパリのケイコです。もしかしたら白紙の問題用紙なのかもしれません。そこで他のことを考え始めたようです。


それは、もしこの問題用紙がパッと消えてしまえばテストをしなくてもいい、そうすれば終わったも同然ではないかと思ったようです。ですがそんなことは現実的には不可能、ジタバタせず諦めて解くがよい、という『常識』がケイコを正していました。


それでも、それでもです。なんかこう、心の奥から沸き起こる微かな衝動に揺り動かされるのです。それはフツフツと、そして次第に抑えきれないくらい大きく成長したようです。そうしてそれは、


「あらったまほんにゃらほんぷー」という言葉になって解き放たれたのでした。すると、その直後のことです。


「「オキャあああぁぁぁあああ」」


教室中に渦巻く悲鳴、それは目を凝らして見ていた問題用紙がいきなりボワっと燃え、パッと消えてしまったからなのです。これは一体、何が起こったというのでしょうか。


エリコは驚きのあまり涙目になり、ノリコはそれが高等部のテストなのかと感心し、シマコはとにかく騒ぎたい様子、サチコは問題用紙ではなく違うものを配ってしまったと自分に呆れる始末です。そして、


「(おお、消えてしまったのじゃ)これは? どうしましょう、テストが出来なくなってしまいました、残念です」と冷静に独り言を呟くケイコ、怪しさ満点です。


パンパン!


ざわめく教室を鎮めるために、合図代わりに手を叩いたサチコです。それに注目……注目、やっと全員が注目しました。


「みなさーん、落ち着くまで図書室に移動しましょう」

「「はーい」」


こうしてサチコを先頭に図書室へ移動を開始した生徒たち、ゾロゾロと後に続きます。まだ目を赤く腫らしたままのエリコ、遠足気分のシマコはスキップしながら、そしてケイコが余所見をしながら歩いて行きます。この行列にノリコの姿がありませんが、ノリコは夢から覚めてしまったため離脱しています。この場合、離脱した時点で最初から居なかったことにされる夢の世界です、はい。


図書室までの道すがら自問自答するケイコです。今ではもう忘れてしまいましたが、あの呪文のような言葉はなんだったのだろうかと問い、あれは寝言に違いないと結論付けたのでした。それは、目を開けて起きていたものの、とても眠かったので、そんな技が出来るようになったんだ、と成長した自分を褒めてあげるケイコです。


◇◇


図書室に到着し部屋に入ると、カウンターのようなところにミツコが座っていました。そして、


「いらっしゃいませ、ようこそ」と挨拶するミツコ、ペコリです。それにサチコたち一行もペコリ。「お好きなテーブルへどうぞ」と腕を伸ばして案内します。


窓際のテーブル席に引き寄せられるようにサチコとケイコ、その向かいにシマコが座りました。そして、エリコは怖い夢を見たことで覚醒してしまったのでしょう、居なくなっていました。


椅子に座ったサチコは皆んなを連れて来たことで満足し、シマコは足をブラブラとさせています。ケイコは、何をして遊ぼうかなと思案中です。そこにミツコが分厚い本を携えて来ると、でーんと本をケイコの前に置き、


「ケイコさんにこれを読んで欲しいのです」と頼んできました。そんなミツコの顔を見上げながら、


「奥さん、これは」と穏やかに尋ねるケイコです。


「いいえ、ミツコです。さあ、読むのです、読んで読んで、読み尽くすのです」と、ほぼ強要しているようなミツコ、


「(読むのは嫌じゃ)何が書かれているのですか」と、相変わらず穏やかなケイコ、

「読めば分かります。さあ、さあ、さあ」の押し売りミツコです。


そんなケイコたちのやり取りを見ていたシマコが、


「私が読んじゃうよ」と本に手を伸ばすと、それをピシッと(はた)くミツコ、

「ケチィィィ」と唸るシマコ、ケイコの隣で『のほほん』としているサチコです。


揉め事を好まないケイコは渋渋、その本を読むことにしたようです。その本の題名は例の『大魔道師ケイコ』、もちろんケイコには身に覚えのない初めて見る本です。


ペラペーラのペララ。


適当にページを(めく)っていくと、どのページもほぼ同じ内容で、日付、本文、日付、本文という調子でダラダラと続いているだけです。要は日付だけが違うと言っても良いでしょう。


その本文には『朝起きた、遊んだ、寝た』と書かれているだけです。これでは流石のケイコも呆れていることでしょう?


「(まるで、私が書いたような名文ではないか。素晴らしいのじゃ)なるほど、興味深いですね」と和やかに答えるケイコです。それに、


「どれどれ」と本を覗き込んだサチコは、すぐさま「プププ」と口を押さえながら笑ってしまいました。その隙に、


「私にも見せてー」と本に手を伸ばしたシマコですが、その前に、バタンと本を閉じたミツコです。それに、「ケチィィィ」と唸るシマコです。


「さあ、どうでしたか、ケイコさん。何か思い出したことは有りませんか」


ミツコの突然の問いに戸惑うケイコです。


「(一体、何を思い出すというのじゃ。確かに素晴らしいのじゃが、それがなんじゃというのじゃ、うむ。しかしのお、言われてみれば、なんかこう体が踊るようじゃて、よよいのよいじゃ)思い出したことは有りませんが、このリズミカルな文章のおかげで旋律が私の頭の中で、高らかに歌っているのです。ですからこう、こうなのです」と言いながら体をクネクネさせるケイコ、今にも踊りだしそうです。


そんなケイコの反応を見てニヤリとするミツコです。「それでは」と目を輝かせたところで、シマコが急に立ち上がってきたのです。そして、


「ケイコさん、歌いに行きましょう」と高らかに宣言しました。それに、


「うん、そうですね」と同調するサチコ、「(ちと喉の調子が。まあ良いか)行きますか」と落ち着いた雰囲気のケイコ、(なんでそうなるの?)のミツコです。


こうしてまたサチコを先頭にシマコとケイコは音楽室を目指し、それを見送るミツコ、(きっとこれから何かが起こる予感)でワクワクです。


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