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#12.3 女王の風

ところ変わって、海でウィンドサーフィンをしている最中に、世界が一変してしまったシマコです。そこは、波も風も無い広〜い海のど真ん中。「お〜い」と叫んでみても、その声はどこかに吸い込まれて行くばかり。


そんな心細い心境のシマコ、その目の前に扉が、ギギギィと開きました。ええ、ここは海のど真ん中です。ですが、扉が開いたいのです! そしてそこから不気味な声が聞こえて参りました。どんな声かと申しますと、


「こっちゃ来〜い、こっちだよ」とシマコを呼んでいるような声です。それに

「私を呼んでいるのか?」と尋ねると、

「こっちゃ来〜い、こっちだよ」と繰り返すばかりです。


仕方なく、その声のする方、扉に向かって海の上を歩いて行くシマコです。因みに海は絵に描いた海のように硬く、まるで床の上を歩いているような感じです。そうして扉を抜けると、その先は何やら通路のようになっていました。するとまた、


「さあ、こちらにどうぞ」と謎の声が聞こえてきました。それは声だけで、その者の姿はどこにも見えないのです。そこで、


「ねえ、どこから喋ってるのさー」とシマコが質問すると、

「先程から、ここにいますよ」と返事が。

「ここって、どこだー。見えないぞー」


辺りをキョロキョロするシマコです。でも、それらしき人などは、どこにもいません。ただ真っ直ぐに伸びた通路が見えるだけです。そんなシマコに謎の声が答えてくれます。


「まあ、それもそうでしょう。あなたは今……そうですね、私のお腹の中に居るようなものですから」


「なんだってえええ。それじゃあ、食べられたってことおおお」


目一杯、驚くシマコ、驚愕のガクガクです。何時とは桁違いの驚きっぷりに、自分自身にも驚いているようです。そんなシマコに、


「そんなところでしょうか」と冷静に答える謎の声です。それに、

「あぎゃあああああああああ」と叫びながら通路を走り出したシマコ、 それをどこかで見ていそうな感じで、

「その調子です」と謎の声です。


◇◇


またまた変わって、砂漠で迷子になったサチコです。そして例によって目の前に扉が現れました、ギギギギギィ。


それを見たサチコは、「これで助かったー」と、何の疑問もなく扉の奥へと進んでいきます。そしてそこは長〜い通路です。


「そのまま、お進みください」と、こちらでも謎の声がサチコを誘っています。

「ここを真っ直ぐね」

「そうです」


謎の声に従いスタスタと歩くサチコですが、疑問があるようです。

「ねえ、これって、どこに出るの?」と謎の声に尋ねると、


「良いところですよ」と、なんだかウキウキの声になったような。それに釣られてサチコもウキウキになったような。


「そうなんだ〜」

「そうですよ」

「ふ〜ん、じゃあ、今日は運がいいんだ〜」

「大吉ですよ」

「やったー」


そうして、ニコニコしながら通路を歩いて行くサチコです。


◇◇


こちらは、鳥さんに乗ったまま空に打ち上がって行くリンコです。それはまるでロケットのよう、と思いきや本当にロケットの姿に変態してしまう鳥さん、いいえ、もう鳥さんとは呼べないでしょう。頭部は鋭角な筒のようになり、翼は閉じられ、お尻からはロケット噴射です。その中に閉じ込められたリンコに、強烈な加速Gが襲いかかります。


これではペシャンコになってしまうリンコ、大変危険な状態ではないでしょうか。その様子を伺ってみると、


「ヒャッハー」と浮かれているリンコです。どうやら全然平気のようです。というより影響されないのでしょう。『耐えている』という様子ではないです、はい。


元・鳥さんロケットはスポッと大気圏を脱出、プカプカと宇宙を漂い始めました。そこから見える地球の、なんと青いことでしょうか、感動ものです。


そうしてプカプカと進んで行くと、大きな宇宙船が見えて参りました。ヨシコが半年前に見たUFOとは、これのことでしょう。その間、ずっと地球を調査していたということになります。


その宇宙船にグッと近づくと、元・鳥さんロケットは吸い込まれるように中へと入っていきました。これで元・鳥さんロケットは悪の手先だということが判明です。ええ、こっそりと地球を調べていたなんて、悪い奴に決まっているのです。


宇宙船の中に入った元・鳥さんロケットは、また元の鳥さんに戻り、優雅にスースーと通路を飛んで行きます。その背中に乗るリンコが、


「私を、どこに連れて行くつもりなんだい? 鳥さん」と尋ねましたが、「(じき)に分かる」という感じで黙ったままです。


そうして鳥さんはリンコを乗せたまま飛び続け、広く大きな、ホールのようなところに入りました。そこでクルクルと舞ってから下に降りたのでした。そこでリンコを降ろすと、「達者でな」という感じで飛び去る鳥さんです。



リンコが降り立ったその場所は、とても広そうな感じがするのですが、周囲は暗く、天井も暗くて見えない状態です。そして中央部分が高くなっていて、まるで何かの舞台のようでもあります。そしてその舞台の上のところには、衝立(ついたて)のようなものがありました。


そして、リンコの近くでガサコソと動くものが。それに目を向けると、ヘナヘナと座り込んでいるサチコと、その隣で元気そうに立っているシマコの姿が見えます。


「あれれ、サチコに、えーと、誰だっけ」とリンコが声を掛けると、

「久しぶりだー、シマコだー」と元気よく返事をするシマコです。

「そうそう、シマコね。会うのは初めてよね」

「うんだ」

「ところで、なんでこんなところに居るわけ?」

「さあ」と首を傾げて答えるシマコに、


「運が良いのよ、今日は。だから付いて来たら、ここに居たのよ。それでね、それが声だけだったんだけどね、聞いたら最高の運勢って言うもんだからねー、それがね、大吉なのよ〜」と話し続けるサチコを謎の声が、


「これで、全員揃ったようですね」と遮りました。因みに男性っぽい声です。


その声に(ざわ)つく風の子たちです。相変わらず、声はすれども姿は見えず、です。そして謎の声の声が続きます。


「ようこそ、女王の船に。私はこの船のコンピューター。または、この船そのものといっても過言ではありません。名前はアイと申します」


謎の声ことアイの声に、最初に反応したのがシマコです。

「女王だって? まるで女王が居るみたいじゃないか。そうか、私のことだな、うん、いいだろう。これでも、島の女王と呼ばれているはずだ」


シマコの言う『呼ばれているはずだ』というのは、シマコ自身は聞いたことはない、ということでしょう。それでもエヘンとしているシマコです。


「居ますよ、目の前に。但し御目通りの前に、あなたたちには礼を尽くしてもらう必要があります。さあ、女王様の御前です、膝を付いてお迎えください」


アイの声に反応して、サチコが立ち上がりました。そして恥ずかしそうにキョロキョロしながら、「私、女王様だったのね」と打ち明けました。しかし速攻で、

「違います」とアイの声に否定されてしまいます。それに納得いかないサチコは、

「そんなー」と取り乱すのでした。


そんなサチコを横目で見ていたシマコとリンコは、片手を振って、『それは、無い』とサチコに合図を送ったのでした。そして、向き直ったリンコが、


「取り敢えずここは、話を合わせておきましょうか。女王様ごっこ、ということなら良いでしょう?」と、ノリコとサチコに提案し、それを承諾する風の子たちです。それで早速、膝を付いて「はっはー」と頭を下げるのでした。


すると、前の方の舞台のようなところにある衝立(ついたて)がガラガラと横に動き、そこから椅子に座った女王様がお出ましになりました。その椅子は女王様が座るには相応しく、背もたれが高く、豪華な装飾が施され、全体的に赤い色をしています。


そしてそこに座る女王様……う〜ん、ちょっと椅子が大き過ぎるのか、幼い女の子にしか見えません。でも、そんなことにはお構いなく続けるアイです。


「こちらが当船の(あるじ)にして唯一無二の存在、エリコ女王様であ〜る。控えよ、皆の衆よ」


それに、「はっはー」と応える風の子たち、ペコリです。そして頭を上げようとした時、それを許さないかのように、


「女王様を直接、見てはいか〜ん」とアイから注意される風の子たちです。しかし、見てはいけないと云われると見たくなるのがシマコです。ガッツリと女王様のお顔を拝観してしまいます。すると、ククク、とか、へへへ、という感じで何かを堪えているのでしょう、それがとうとう、


「なんだー、まだガキんちょじゃないかー」と大笑いしてしまいました。すると、


ガシャーン。


いきなり、鳥籠のようなもので囚われたシマコです。それが上から降ってきたのか、それとも下から生えてきたのかは分かりません。ですが、どちらにしろ籠の鳥状態。もちろん、これに、


「出せー、ここから出せー」と(わめ)くシマコ、いつもの通りです。それを見たサチコが、


「いいなあ。私も一度、それやってみたかったのに〜」とシマコの待遇を羨ましがっています。そこに、


「みなさん、お静かに願います。これより、女王様よりお言葉を(受けたまわ)ります。ご静粛に」とアイが言うと、シーンと静まり返り、あのシマコでさえ固唾を飲んで、女王様のお言葉を待ちます。そして、


「皆の者、私が女王のエリコである。これから我に尽くすが良い」と椅子に座ったままの女王様ことエリコ、すごく偉そうです。


そんなエリコの言っている意味が分からないぞ、とばかりに、

「尽くすって、なんだ? それ、面白いのかあああ」と野次を飛ばすシマコです。そしてサチコも、

「なんか〜、つまんなそねえ。私、帰ろうかな〜」と言った途端、ガシャーンと鳥籠のようなものに囚われてしまいました。それに待ってましたと言わんばかりに「出してー、ここから出してよー」と嬉しそうに喚くサチコです。


「ちょっと、なんで私たちがエリコに尽くさないといけない訳? その訳を言いなさいよ」


騒がしいシマコとサチコは置いといて、エリコに質問するリンコ、その返答に困った様子のエリコです。その表情から推測すると、(話が違うじゃない。アイ、どうなっているのよ)といったところでしょうか。


それをすぐさま感知したアイです。「これ、女王様に向かって呼び捨てとは無礼であるぞ。詳しいことは私から説明しよう」と割って入りました。しかし、ヒューヒューとか、もう帰りたいなどの野次が飛んで参ります。


そんなシマコとサチコに眼を向けるリンコ、その眼差しだけで大人しくなり、

「ねえ、話だけでも聞いてあげましょうよ」の一声で、素直に従うシマコとサチコです。ええ、リンコが『(がん)を付けた』訳ではありませんが、そのような『オーラ』を感じ取ったのでしょう。そうして静かになったところで、アイの説明が始まります。


「おほん、女王様は宇宙の遥か彼方よりワザワザこの地球まで来られたのです。その目的は女王様と同じ種族を探し出し人類から救出すること。その結果、あなた達が『ここに居る』という訳です。

そして次の目的は、人類を滅ぼし、女王様の王国を創造することです。そのための戦力としてあなた達には活躍して頂くことになります。当然、救出されたあなた達にとっては当然の責務でしょう」


エヘンという形で言い終えたアイです。ですが、言っていることが良く分からなかったせいなのか、静まり返る『あなた達』、いえ、風の子たちです。そして、最初に口を開いたリンコが、


「さあ、帰りましょうか」と女王様に背中を向けると、ガシャーンとリンコも囚われの身となってしまいました。もちろんリンコも……「ふ〜ん」でした。そんなリンコの態度に、


「待ってください。半年も掛けてあなた達を見つけ、救ったんですよ。そしてそれを行ったのは慈悲深い女王様なのです。なら、女王様に従うのは道理ではありませんか。それに、ここは宇宙なんですよ。帰るなど不可能です」と、風の子たちを足止めするアイです。


そんなアイの言葉に、溜息を吐くように「分かってないわね。でも、しょうがないか」とポツリのリンコ、そしてフッと前に出ました。そう、鳥籠から出てしまったのです。それに驚くアイ、「ギッギギガガガ」と意味不明の音を立てました。


「その驚きようだと、私たちのこと何も知らないのね。いいわ、どうせもう飽きたから帰るよ。行こっ、シマコ、サチコ」


リンコの合図で鳥籠からスッと抜け出すシマコとサチコです。その様子に慌てた女王様ことエリコが「ちょっと待ってよ」と椅子から立ち上がりました。続けて、「なんで私に従ってくれないの? おかしいでしょう?」と(まく)し立てるエリコです。


その声に振り向いたリンコは、ジロジロとエリコを見た後に、

「エリコが私たちの仲間だというんなら、背中の羽はどうしたの? 風は扱えるの? それを見せてもらえないかしら」と質問を投げると、その返答に困るエリコです。そして小さな声で、

「そんなの、知らない」と言うのでした。


そこにまた、アイが割り込んできます。

「ちょっと待ってください。女王様にはあなた達のような『羽』などありません。それは、あなた達がこの地球で独自の進化をしたからなのです。ですから女王様に、そのようなものが無くても不思議ではないのです。いや、無いからこそ女王様なのです」


「ふ〜ん、羽が無いって言うんだね。じゃあ、それを確かめてみようじゃないか」と言い終わると、手の平から「ふー」と風をエリコに向かって吹きかけます。すると、エリコの体かプカプカと浮き始めたのです。


「あああ、なにこれえええ」と慌てるエリコ、

「なにをしたんですか! すぐに止めるのです」と、こちらも大慌てのアイです。


そのアイは、エリコを救う手段を持ち合わせていないのでしょう。せいぜい、衝立をブルブル、エリコの座っていた椅子をガタガタと動かすだけで精一杯のようです。


でも、そんなアイの心配をよそに、エリコはゆっくりと舞い降りることが出来ました。それを見たリンコは確信を得たようです。それで、


「やはりね、エリコは私たちの仲間に間違いないわ」と言い切るリンコに、

「それは最初からお伝えしていたでしょう」と、口調は変わらないものの、苛立っているかのようなアイです。そんなアイに構わず、エリコに近づくリンコ、


「いいえ、アイは全然、私たちのことを理解していないってことが『はっきり』したのよ。これじゃあ、エリコが可哀想だよ」のリンコに、


「無礼な! 何を根拠に言っているのですか。女王様を惑わす言動は慎んでください」と、周囲の光を点滅させて、本当に怒っているようなアイですが、スタスタとエリコの前に進むリンコ、


「さあ、こっちにいらっしゃい」とエリコに手を差し伸べました。それに一歩下がるエリコです。エリコとってリンコは『優しいお姉さん』ではなく、暗黒の魔女のように見えていたのかもしれません。その危機に、


「何をするんですか! 無礼者」と、エリコの前に衝立を並べてリンコを阻止しようとするアイ、シャカシャカ・ストーンです。


それでも、「本当に何も分かっていないのね」と言いながら、衝立に腕を伸ばしエリコの手を引くリンコです。ええ、リンコの腕が衝立を通り抜けているのです。そして、

「怖がらずに、こっちにいらっしゃいな。私が、エリコが本当にしたいことを教えてあげるわよ」と、この時点で体全体が衝立を通り抜けたリンコです。


もちろん、そんな怖いリンコにたじろくエリコ、一歩、いえ二歩下がって、

「いや、来ないで」と言ったのですが、

「そう言われると、ますますってやつね、ほら」とリンコに捕獲されるエリコです。


◇◇


これで大暴れするエリコ、ではなく逆にカチンコチンに固まったエリコです。それは、接し方が分からず、かつ誰かに触れられるという経験が今までなかったからでしょう。殆ど何でも言うことを聞いてくれるアイ、それも声だけの存在でしかなかったエリコです。自分に似た、そして自分よりも大きな存在に為す術もない、といったところでしょう。


舞台のようなところから、抱き上げるようにしてエリコを連れてきたリンコ、それにギャーギャーと騒ぐアイ、ヒューヒューとかホーと言っているシマコとサチコです。それらに向かって、


「さあ、今から鬼ごっこをするわよ。最初の鬼は、そうね、シマコやって」に、

「鬼になったぞー」と鳥籠から抜け出すシマコ、続いてサチコも飛び出しました。


その光景に、

「なんでですかー」と驚くアイです。きっと、リンコだけが特別だと思っていたのでしょう。もちろん、それを座視するアイではありません。光線銃のようなものがニョキッと飛び出し、それでシャシャシャと、いいえ、光線銃『のような』ものですから無音です。それがリンコたちに向かって乱射、バババ・バキューンです。


それらを、「ほいっ」とか「あれっ」と言いながら華麗に避けるリンコたち、時々命中していますが、本当に光線銃『のような』もののようで、ビクともしないリンコたちです。


それもそのはず、本当に威力があれば周囲の大切な機器を壊してしまう危険があります。いくら広い場所といえども、ここは宇宙船の中。そんなところでドンパチすれば全員に危険が及んでしまうのです。それが、思い切った事の出来ないアイのジレンマなのです。


光線銃『のような』もののおかげで、そこはまるで光り輝くダンスホールのようでもあります。本当は避けなくても良い光線を(かわ)すリンコたちはダンサーのようにも見えてきました。もちろんアイの正確無比の狙いで、それがエリコに当たることはありませんが、リンコに釣られてエリコも『踊って』いるようなものです。


そしてそれが面白いのか、ダンサー全員が(にこ)やかに笑っているような。でもアイには『恐怖に怯えるエリコ』に見えたようです。


「女王様、今すぐに、こ奴らを駆除いたしますので、お待ち下さい」と次の手を考えるアイに、

「やってみたい」と小さい声でエリコが。もちろん、どんなに小さくても聞き漏らさないのがアイです。

「何をしたいのですか? まさか口車に乗って『鬼ごっこ』という訳の分からない事ではないですよね。それは大変危険です」


アイの声はエリコだけではなく、その場の全員に聞こえています。きっと、コソソソ機能が無いのでしょう。そこで、これを聞いたシマコが、


「鬼ごっこは楽しいいぞ」とエリコに向かって言うと、

「本当? 楽しいの?」と応えるエリコです。それは、風の子としての『何か』が囁くのでしょう。最初の頃のエヘンがへへっに変わったようです。


その変化を敏感に感じ取ったアイです。そこで光線銃もどきの攻撃を止め、リンコの提案を受け入れることにしたようです。但し、行動できる範囲はホールのような、今いるところだけで、ノリコたちが通ってきた通路には出られないように扉が閉められました、ガシャーンです。


こうして、リンコとリンコに手を引かれてエリコ、そしてシマコとサチコが集まりました。


「じゃあ、始めようか。ルールは鬼にタッチされたら交代。最初の鬼はシマコでいいよね」とリンコが言うと、ちょっと待ったのシマコです。


「鬼の面を持ってるんだ。家にあるから、取って来るまで待っててよ」と言い終わると、その場で消えてしまうシマコです。それに腰を抜かす程(多分)驚いたアイです。


「どこに行ったのですかー」と叫ばずにはいられません。冷静さを失ったアイは本当に機械・コンピューターなのでしょうか、疑問です。


勿論、驚いたのはアイだけではありません。目の前で消えてしまったシマコに、体をプルプルさせる『やせ我慢』のエリコです。それに、

「どうした」と見下ろすリンコの顔が光の加減で不気味に見え、そこに葉っぱ製の異様な面で登場したシマコ、どこかの部族の方でしょうか。


それを見た瞬間、リンコの手を離し、より優しそう・無害そう・チョロそうなサチコに駆け寄り、足に抱きつくエリコです。それにビックリしたサチコですが、リンコの方を見ながらニヤッとしたような。それは『選ばれし優しいお姉さん』と言いたげです。


そんなエリコをチラッと見たリンコは、

「サチコ、エリコをお願いね」と、よりお姉さんらしく振舞い、

「うん、任せて」と、エリコと手を繋ぐサチコ、鬼に成り切ったシマコが、

「がおぉぉぉ、食べちゃうぞー」ということで始まった鬼ごっこです。


◇◇


鬼シマコがホールを駆け回り、リンコがピョンピョン跳ねながら躱し、エリコを連れて器用に逃げ回るサチコです。


そんなこんなで、ずっと鬼のままのシマコ、時々エリコをぶん投げてリンコと共同でシマコを翻弄するサチコ、目が回りそうなエリコです。そして、通れない通路も擦り抜け、鬼ごっこ会場は、どんどん広がって行くのでした。


そんな暴れっぷりに諦め、呆れたたアイは通路への扉を開きましたが、エリコの行動を逐一監視することだけは怠りません。至る所にある監視カメラでエリコの様子を見守っているのでした。


そして、エリコが楽しそうに遊ぶ姿を観察しているうちに、嫌でも分かってしまうアイです。それは、エリコの本質を見誤っていたことでしょう。リンコたちの振る舞いを通して、エリコ本来の生き方を、こうであるべき、このようなはずだ、とアイが考えていたのと、(ことごと)く異なっていたのです。でもそれは、リンコたちと出会うまでは分かるはずが無かったのです。アイにとって風の子はエリコだけですから。


◇◇


鬼シマコが音を上げたことで終了した鬼ごっこです。この頃には、すっかり打ち解けたエリコですが、なぜか相変わらずサチコにべったりです。余程サチコが気に入ったのか、それともリンコの動きが素早くて怖かったから、なのかもしれません。因みに鬼シマコは論外のようで、全く寄り付こうとしません。


ここでまた、リンコが

「もっと、面白い遊びがあるんだ。続きは地球でやろう。どうだい、エリコ」と提案すると、エリコが答える前に、

「ここはどこなんだよー」と驚くシマコ、

「誰かの家じゃないの〜」とサチコ。ここが宇宙船の中だということを知らないようです。


そして、当のエリコは、

「うん、もっと教えて。もっと遊びたい」と女王様の威厳は何処へやら、です。その返事を聞いたリンコは、

「それじゃあ、一旦、私の家に戻って、それから遊びに行こう」と言ったところで、

「それは無理です、ダメです、許可できません」と拒否するアイです。


それに、ブーブーと抗議するリンコたち。そしてエリコも

「行くったら行くー。行こうよ」とリンコに……ではなく、見上げながらサチコに言っています。それで、「じゃあ、行こうか」とリンコがアイの言うことを無視して行こうとすると、


「分かりました。分かりましたから許可しますが、但し、条件があります」と折れるアイです。


その条件とは、宇宙船に搭載されているシャトルで地球に降りる、ということです。それは、フッと消えて連れて行かれるよりも、遊び終わった後、それでエリコだけを宇宙船で戻す、という約束をすることでした。勿論それに、


「いいよ、約束した」と即答したリンコですが、それが信用できないアイです。そこで、

「あなた達が約束を守るという保証がありません。ですから、一人は残ってください」と更に条件を付けるアイです。それに、


「私たちは嘘を吐かないわ。そうでしょうアイ。エリコをずっと見ていたのなら分かるはずよ」と反論するリンコです。


そう言われて、成る程と言えるだけの確証が無いアイです。しかし、『分かるはず』という言葉に言い返せないでいる見栄っ張りのアイ、本当に機械なのでしょうか。仕方なくリンコと約束を交わしました。



そうして、小さなシャトルに乗り込むリンコたちです。因みに、小さいと言っても人間サイズのシャトルなので、リンコたちには広々としたものです。


ガシャコン・ガシャコン。


船内で移動を始めたシャトルは、大きく開いた宇宙船のハッチからポイッと飛び出し、地球に向かって降下して行きます。勿論、操縦はアイによる全自動、お任せです。


「外、見てみようよ」


シャトルの床に立っていたリンコたちです。そのリンコの提案で窓に飛び上がるシマコ、続いて……という時に、モジモジしているエリコです。


「大丈夫、エリコも本当は飛べるんだから」とエリコの左手を握るリンコ、そして右手をサチコが握って、ピューンと飛び上がります。そうして見えてきた窓の外です。そこには青い地球、白い雲と、その下に見え隠れする大地です。


「なんだー、でっかいボールみたいだな〜」とは初めて地球を眺めたシマコ、多分それが地球だとは知らないで見ていることでしょう。そして、リンコ、サチコ、エリコもお口をポカーンと開けて、「おおおぉぉぉおおおぉぉぉおおおぉぉぉ」の大合唱です。


そこにアイから、

「どこに向かえば良いのですか? 家はどこですか?」と、どこにでも居るアイです。

「どこって、そうね〜、どこでもいいわよ」と首を傾げながらリンコが答えます。

「家の近くが良いのではないですか? そこで遊ぶのですよね」

「家ね〜、さあ、どこにあるんだろう。いいから、適当に行って」

「適当って。約束は守ってくれるんですよね、約束ですよ」


念には念を、のアイにうんざりのリンコです。


「しつこいわね。はいはい、分かってるって。そもそも、そうじゃなければ、とっくに帰ってるわよ。ちゃんとこうしてここに居るっていうのが、約束を守ってる証でしょう。本当に分かってないのね」


リンコの返答に、それ以上何も言わなくなったアイです。


こうしてシャトルはリンコたちを乗せて地上に舞い降りていきます。そして、その様子を宇宙船から見守っているアイ。エリコが宇宙船の外に出るのが初めてなら、エリコと遠く離れるのも初めてのアイは、地球に降下して行くシャトルを見つめながら、何かを思う、いいえ、思わざるを得ないようでした。


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