04話 鬼の形相はまるで悪魔だ
戦闘回です。
少しグロ要素が入ります。
騎士は多く見積もっても十五人ほど。
皆見事な装飾のある統一されたフルプレートや魔力を感じるローブを装備しており、両刃の剣や杖を構え戦闘態勢に入っていた。
しかし、そんなことはどうでもいい。
俺は地を蹴り、一番近くにいた騎士の頭を殴り飛ばす。
爆破したかのように頭部は破裂し、血液が飛び散る。
まず、
「……一人」
仲間の頭を一瞬で吹き飛ばしたのを見て怖気付いたのか、カチャカチャと小刻みに擦れる鎧の音が聞こえる。
だが気にしない。
その隣で首の無くなった仲間を見ている奴に、腹部めがけて回し蹴りを食らわせる。
綺麗な円を描き、鎧もろとも砕く。
吹き飛んだ先にも騎士はいたが、勢いを落とすことなく民家に突っ込んだ。
「……二人、三人」
いまだに動こうとしない小団長を尻目に、俺は再び拳を握り一人の騎士の頭を殴った。
「……四人。おい木偶の坊、早く立てよ」
「……チッ、相手はまだ子供だ。数でも優っている、負ける要素などない! 一斉に叩き潰せ」
さっきまでおどおどしていた小団長は、あからさまに怒気をまとい言い放った。
騎士たちは一斉に詠唱を始める。
「力向上」「速度向上」「防御向上」「回避向上」
魔道士もすかさず詠唱を始める。
「速読詠唱」「魔力向上」「魔攻向上」
そして集中砲火を食らった。
騎士たちは四方八方全方向から斬りかかり、攻撃を終えるとバックステップをとる。
その直後、魔法が飛んでくる。
「閃光の矢!」
「爆炎流星!」
光の矢が豪雨のように降り注ぎ、間を空けず炎の球が弧を描くように飛び着弾と同時に爆発する。
国家の騎士なだけあり、破壊力はあった。
肌にズンと響く爆音。
俺はとっさにローブの中に小さな体を隠すように潜った。
「ふっ、これだから亜人種は。獣人どもの処刑は王都で行う。撤収だ!」
小団長は勝利を確信し、笑い、部下に命を下した。
「黒炎!」
小団長は突如黒い炎に包まれる。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
断末魔のように聞こえてくる叫び声。
死にそうで死なない際どいラインでその不気味な炎は消えた。
生殺しだ。
一番苦しむタイミングで炎を消し、声帯に火傷を負わせ声を出させない状態に陥らせる。
「……っ…………ろ……っ」
未だ立ち上る爆煙の中に俺は無傷で立っていた。
騎士団の攻撃が凄まじかったのは事実だ。
だが、どんなに強化したところで俺に斬撃は効かない。
魔法は致命傷になると思っていたが、ローブがすべてのダメージを吸収した。
防御力強化のために縫っていた鱗状の王猩々の毛に少し傷が入っただけで済んだ。
あえて魔法を食らい耐性をつけることも一瞬脳裏をよぎったが、こんな状況でも痛いのは嫌だった自分がいた。
小団長は悶え苦しんでいたが、部下達はそれどころではないのだろう。
結局は自分が一番可愛いのだ。
本物の死の恐怖に触れると皆こうなるのだろうか。
はたまた、この小団長の人望がないのか。
一目散に騎士たちは逃げ出した。
「待てよ……。お前たちは一人も逃さないし、許さねえぞ?」
俺はいつからこんな悪役顔になったのだろう。
右手を前に突き出し、とっさに脳内に浮かんだ魔法を唱える。
「影の手……」
騎士たちの影から漆黒で不気味な手が無数に生え、手足に絡みつくように拘束させる。
俺は身動きの取れなくなった騎士たちに物申す。
「これから獣人は俺の庇護下に入ると思った方がいい。俺は人間にはむやみに手出ししないが、もしお前ら人間側が害をなすようなら、俺はその組織をぶっ潰す。それが騎士団だろうが、国だろうがだ」
身動きの取れなくなった騎士たちは、涙目で頷いた。
「よし……。さぁ、審判の時間だ! お前たちは罪を犯した。相手に死を与えておいて生を懇願するような愚かな奴はいないよな?」
俺は口端をニイッとあげ告げる。
「もしお前たちが罪を悔い改めるなら、苦痛無き死を与えてやる!」
「んんっ……はああぁぁぁぁーーっっ…………」
騎士は皆、涙目で言葉にならないことを叫び出した。
騎士たちの口から影の手をねじ込み心臓を握り潰し、一斉に息途絶える。
一人最も弱そうな騎士を残して。
「お前の上司に伝えろ。もうこれ以上こいつらに手を出すな。次、手を出したら『ルキ・ガリエル』がお前らを潰すと。約束できるならお前だけは見逃してやる」
弱そうな金髪騎士は、必死に頭を上下させ「必ず伝えるので殺さないでください!!」と泣き叫ぶ。
こいつは本当に騎士なのか?
なんか凄く情けない。
でも、だからって俺は無実で終わらせるつもりはなかった。
影の手で利き腕と見える右腕を引きちぎり、そいつを解放した。
「ああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
右腕の断面を抑え痛みに堪えられず叫び、泣きながら必死になって逃げていった。
俺は去っていったのを確認すると、部下全員から見放され、いまだに火傷に悶え苦しんでいる小団長に目をやる。
「あとはお前だけだな」
「ウガッッ……はぁ…………ろ……」
あと数時間放置すれば死ぬだろうけど、こいつがこの地に与えたダメージはでかかった。
極力周りを壊さないように戦ったつもりだが、一から作り直した方が楽だろう。
そして、たくさんの獣人が死んだ。
老若男女問わず無差別に。
それがこいつの罪。
火傷で死ぬ、心臓潰されて死ぬなんてのはぬるすぎる。
俺はとりあえず四肢を引きちぎった。
「…………っ!」
が、やっぱり声は出ない。
最後に俺は深くため息をつき、頭を鷲掴みにして卵のように握りつぶした。
本当はもっと苦しめるつもりだったのだが……。
周囲の子供に悪影響を及ぼさないためにも、渋々仕留めた。
ここまで散々人に対して残酷な行為をしているのに、なんとも思わない。
理科の実験でカエルの解剖をしているくらいにしか。
いくら相手が苦しもうがなんとも思えなかった。
最初から最後まで見ていた村人は終始無言だった。
あの泣いていた赤子に母親も皆。
そしてざわめき出す。
しかし、歓喜のざわめきではなくどこか怯えている恐怖によるざわめきだ。
容姿はキュートで一本角のロリ魔族。
しかし、戦い方はまさに悪魔。
次は自分たちに火の粉が舞うんじゃないかと、ブルブル震えだした。
俺はローブについた埃を払い、投げたΨを回収する。
最後にツキの方を見て安堵の微笑みを漏らし、その場からキリムを抱きかかえ無言で立ち去った。
俺は老婆の元に向かいキリムのことを伝えた。
「……ごめん、助けられなかった」
「キリムが自ら行った行動です。貴方は悪くないんですよ、気になさらないでください」
口ではそういうが、どこか暗く哀愁のある笑顔を見せる老婆。
「早く村に行って残った人たちを治療してやってくれ。俺は、もう行くから……」
名残惜しいがこれが最良の手だと確信していた。
あんな戦い方をしたのだ、軽いトラウマものだろう。
「ですが……」
老婆は何かを言おうとしたが、俺の考えを察してくれたらしい。
奥にいる双子の元に行き、ぽんと手を乗せ「元気でね!」と笑顔で伝えた。
リス耳がピクピクして尻尾がもう大変なことになっている。
「またね」
「またー」
事情を知らないこの子達に再び会える日は来るのだろうか?
俺は笑顔で頷き、
「何かまた攻めてきたら、ルキ・ガリエルが庇護していると名前を使っていいぞ! 困ったらすぐに狼煙を上げろよ?」
俺は去り際、空元気にそんなことを告げた。
老婆は、「本当にありがとうございました」と深々と頭を下げていた。
俺が洞窟を後にしようと体を反転させると、そこには村にいるはずのツキが立っていた。
「僕も連れていってください!」
「…………え?」
俺は間抜けた声を漏らした。
右腕がもがれた激痛は言葉にならない。
僕は地獄にいた。
あんな地獄絵図は見たことがない。
あれが知能を得た魔物?
あれが魔人?
あんなの人間が敵にしちゃダメだ。
勝てるわけがない。
僕は必死になって走った。
どっちにしろ早く王都に戻らなきゃ僕が死ぬ。
やだ、死にたくない。
こんなことがしたくて騎士になったんじゃない。
丸一日かけてきた道を半日で戻った。
王都への入場ゲートを護衛していた門番に助けを求める。
「お願いします! 助けて……くだ……」
王都にたどり着いた安堵のせいか、今までの疲労に襲われ僕は倒れた。
「おい! どうした……お前、腕が!?」
重症だった下っ端騎士の僕を護衛は医務室に運んだ。
目を覚ますと右腕の違和感に気づいた。
「……夢じゃない」
僕は自然と大粒の涙をこぼした。
「まだ痛むか?」
そこには記憶が定かではないが、門番の人が話しかけていた。
僕は涙を拭う。
「何があったんだ? なんで一人だったんだ?」
「……魔人です。魔人が出たんです」
僕はうつむき、思い出したくない過去を伝えた。
最後に魔人、ルキ・ガリエルが言っていたことも全て。
それは電光石火のごとく王都の騎士団や近衛、国王だけでなく一般市民にも広がった。
「魔人ってもしやこの前逃したあのちっこい魔族か? あいつに手も足も出せずに全滅!?」
その噂を聞いた総団長は部下を失い、しかもその相手がこの間の魔族と知り怒り狂った。
「討伐隊を組め! 俺が殺す。獣ごときに肩入れしやがって……」
僕は国王様に王城へ呼ばれた。
見上げるほど高い扉が開くと、そこには王の間がある。
右手には名の通っている有名な冒険者から凄腕の近衛隊、左手には見目麗しいメイドたちが一列にずらっと並んでいた。
僕はキョロキョロせずに真っ直ぐ進み、玉座の前で膝をつく。
「……顔を上げよ」
「は、はい!」
そこには王たる威厳が具現化したような人物がいた。
「名はなんと申す」
「はい、クリス・キャリーと申します」
「そうか、クリスか。そなたと騎士団長で協力し合い、魔人ルキ・ガリエルの討伐を行ってもらいたい! もちろん報酬は弾む」
「……お、仰せのままに」
正直言うともう関わりたくわない相手だ。
しかし、名指しでの王命だ。
ここまでの名誉はない。
金髪碧眼の騎士クリスの傷はまだ癒えていないものの、目には闘志を燃やしていた。
[スキル]
状態異常無効
斬撃無効
打撃無効
精神感応
[魔法]
影の手
黒炎
[仲間]
ルキ・ガリエル
種族:魔人?
性別:♀
属性:火、闇