03話 無謀な勇気
「おい、もうこれで全員か?」
「はい! 村の隅々まで探しましたが、もういないかと……」
騎士団を仕切る小団長が、部下に確認をとり微笑む。
「獣人ごときが人間の真似をするな! お前らに村は必要ない。奴隷として生まれた分際で」
獣人を座らせ、それを囲むように抜剣した騎士が立っている。
ちょっとでも動こうものなら、凄まじい音で鞭打ちされる。
そんな状況を俺とキリムは息を殺して草陰から見ていた。
「…………」
一向に喋ろうとしないキリムに俺は話しかけた。
「嫌ならここにいてもいいんだぞ?」
「いえ。……大丈夫、です」
何か事情があるのだろうと思い、本人の意思を尊重した。
「これからどうするの?」
「……はい。ルキ様は魔族、魔人なのですよね?」
「うん、そうらしいけど」
「そうですか。ルキ様、魔人の魔力量は人を遥かに凌駕しています。戦況を優位に進めるために、適正属性を調べにオババ様の研究所に向かい、その後反撃を行いましょう」
「わかった」
キリムは村とは真逆に歩み始め、一本の切り株の前で止まった。
「幻影魔法です」
俺の疑問を先読みしたかのように、切り株に手をかけ魔法を解いた。
「ここは万が一のために貴重なアイテムを使って、おばば様が作った脱出用通路です。使い捨てなんですけどね」
幻影魔法が解かれると、切り株の中央に人一人分が通れるくらいの穴が現れる。
「これがあればみんな脱出できたんじゃないのか?」
「いえ、残念ながらこの通路を知っているのは私とおばば様だけなので……」
キリムは表情を少し暗くしたが、首を振り穴に向かって飛んだ。
穴に入ってみると真っ直ぐな道が続いていたが、光虫のおかげで視界は良好だ。
「……ここは?」
「おばば様の研究所です。ここでポーションや魔道具などの研究を秘密裏にしていたのです」
一本道の途中にある部屋を指しキリムは答えた。
そこはとても幻想的だった。
光虫が飛び交いどこが水源かわからない滝に、一面に広がるシダ植物。
中央には違和感丸出しな作業用の机があり、地上の森にいるかのような気分になる。
「この部屋に魔結水晶があるんです」
キリムは辺りをキョロキョロし、本棚の一番上に埃をかぶった水晶を見つけた。
埃を払いつつ「これですこれ」と、俺の前に持ってきた。
「……あの、どうすればいいんだ?」
キリムは無意識に俺に真っ直ぐ差し出したせいか、身長差のせいでかなり上の方にある水晶を見て俺は苦笑した。
「あっ、すいません!」
キリムは水晶を持ったまま膝をつき、丁度いい高さまで持ってきてくれた。
「この水晶に魔力を流し込むことで分かるんです」
「魔力か……。どうやって流すんだ?」
「え? あ、えーっとですね、自分の中の魔力とかに意識を集中させて……」
うーん、ちっともわからん。
そもそも、魔力というものから説明してもらいたかったんだが。
気合いで頑張る?
とりあえず俺は力を込めた。
「ーーっ!」
ダメだった。
「流れをイメージするんです。イメージが大事なんですよ」
「う、うん。やってみる」
自分の何処かにある魔力に集中させ、流れをイメージするか……。
もう一度言われた通りにやってみると、水晶の中に紅色と黒色のモヤモヤしたものが現れる。
「ルキ様は炎と闇属性が強いでっ……!?」
パリンッ!!
適正属性が分かったと思った矢先、水晶にヒビが入り跡形もなく破裂した。
「あ! ごめん」
「いや、いいんです。それにしても、この水晶が耐えきれないほどの魔力量なんてすごいですよ」
「え? そうなのか。じゃあ、これで俺も魔法を使えたりするのか?」
「はい、一様練習は必要ですけど。覚えておいてくださいね。魔法はとにかくイメージと魔力調節が大切ですよ」
「うん、ありがとう。でも……」
とにかく今は時間がない。
いちいち練習などをやっている暇など無いのだ。
俺たちは用を済ませた後、先を急いだ。
通路の突き当たりの梯子を登り、木の蓋を外し上へと上がる。
騎士たちは家の中までは詳しく見ていなかったのだろう。
俺たちは安全を確認した後、中央広場の見える窓から様子を伺った。
「おい、あれってツキじゃ?」
「……!?」
「ちょっ、キリム!」
突然キリムは走り出し家を飛び出た。
「フンッ……フ…………ンギャアアァァァァァァッッッッッ!」
生後間もない赤子の泣き声が広場に響く。
「うるせぇガキだな。よし、見せしめに殺せ!」
「了解です、小団長」
「やめてください! 私の命なら……どうかお願いします……あっ!」
騎士の一人が赤子を無理やり奪い、泣いて懇願する母親を蹴り飛ばした。
「いつまで泣いてんだ! 獣人のくせに。斬首だ、首を落とせ!」
赤子を村人の目の前に置き剣を振りかぶる。
「やめろーっ!」
振りかぶった騎士は動きを止め、声のする方へ振り向いた。
「おうおう、どこに隠れていたんだ?」
そこには熊耳の少年、ツキが立っていた。
「僕たちがお前たちに何をしたって言うんだ! 平和に暮らしたいだけだったのに……」
「平和? 笑わせるな。獣人など生まれてくること自体が罪。これは騎士団長様、そして国王様の意向だ」
「国が……!? 嘘だ。王様はここになら村を作ってもいいと許可してくれたんだぞ!」
ツキが叫ぶも騎士は皆クスクス笑っていた。
「いい加減気づけよ獣。騙したんだよ! 獣人を一箇所にまとめて処分するためにな」
「……!」
ツキは開いた口が塞がらなかった。
自分の友人や双子の兄は、目の前で僕をかばったが故に殺されていった。
この騎士どもに。
そこに残ったのは憎悪、そして絶望だった。
「……クソがああぁぁっ!」
ツキは拾った剣を大きく振り小団長に斬りかかる。
「うわああぁぁっ」
小団長は派手にビビり尻餅をつき叫んだ。
しかし、剣が届くことはなかった。
小団長を守るかのように、二人の騎士が剣をクロスさせ奇襲を防いだ。
「こ、こここの獣人がっ! あいつを殺せ! はやくっ」
自分の攻撃を弾かれ体制を崩したところに、二本の剣が真っ直ぐ突き進んでくる。
ツキは反射的に目をつぶった。
しかし、いくらたっても剣が来ない。
恐る恐る目を開けると、目の前には赤い液体が飛び散っている。
ツキはその液体を顔に浴びた。
「………………え? ………………」
ツキの目の前には両腕を広げ大の字に立つキリムの姿があった。
「……大……丈夫か…………」
ツキは膝から崩れた。
キリムの背には二本の剣が刺さり致命傷を負っていた。
「……お前が死んだら……チビたちが悲しむ」
「でも、キリムが……死んじゃう……」
「……絶対死ぬなよ」
「分かった、分かったからキリムも死なないで……」
キリムはツキの返事を聞くと最後に微笑み、どさっと倒れた。
俺はキリムが飛び出してすぐに後を追ったが間に合わなかった。
ツキと赤子は泣き叫び、赤子の親は騎士に何度も蹴られている。
「……これが騎士のすることなのかよ………………」
俺は小さく呟く。
「もういいだろ、早くそいつらを殺せ!」
俺が初めて聞いた人間の言葉。
その言葉を聞き、理解したと同時に最初村に来た時以上の怒りを覚えた。
俺の小さな体には不相応な殺気が再び漏れ出る。
Ψを強く握りしめ、キリムを刺した騎士に向かい地を蹴った。
邪魔なフードを外し、銀の髪が風のようになびく。
そのまま、尋常ではないスピードでΨを騎士のこめかみに突き刺した。
二人の騎士の頭を貫通させ首が体からちぎれ、音が遅れてやってくる。
俺はキリムに一瞥してから、指揮を取っていた人間を見た。
「俺は人間じゃない、魔人だ。でもお前らは民を守る騎士だろ。お前らは腐ってる」
この容姿には似つかわしくない鬼の形相を浮かべる。
罪無き民を殺すお前らのような奴こそ、生まれてきたことが罪だ!
いいぜ、やってやるよゲイル!
今ここに宣言してやる。
「……俺は、今から世界征服を始める!!」
宣言と同時に刺さりっぱなしの頭を振り払い、小団長の頭めがけてΨ投げた。
何が起こっているか分からず動けなかった小団長をかばい、また一人の騎士が犠牲になった。
「…………おい、始めようぜ。お前らがしていたお遊びを」
俺は瞳孔を開き、騎士たちが先ほどまで浮かべていた不敵な笑みと怒りを浮かべた。
[スキル]
状態異常無効
斬撃無効
打撃無効
精神感応
[魔法]
[仲間]
ルキ・ガリエル
種族:魔人?
性別:♀
属性:火、闇
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回は、戦闘回になります。