02話 民を守る騎士?
装備を手にした俺はリンピールに向けて再び歩み始めていた。
しばらく森を歩いていると、ある異変に気付いた。
「なんか……鉄臭い? ……鉄棒? なわけないかぁ」
俺は後頭部をさすりながら、一人で照れる。
「……ん?」
しかし、視線の先で山の麓の方から赤煙が立ち上っていた。
俺はローブのフードを目深にかぶり、Ψを力強く握り赤煙に向かって走りだした。
見るに耐えない荒らされた森が、横目に流れていく。
どう見ても普通じゃない。
木々は焦げ倒れ、馬が通ったからなのか地面もボコボコ。
そして何よりも、獣の耳を持った人の死体がいくつも無残に転がっていた。
少し見晴らしが良くなったところまで来ると、俺は自分の目を疑った。
俺を一度殺した王都の旗を揚げた騎士団が、そこにある小さな村を蹂躙していたのだ。
子供をかばうように斬られていく大人の獣人。
死んだ親に泣いて抱きつく子供の獣人。
家屋に火が放たれれば聞こえてくる悲鳴。
そんな状況にも関わらず、騎士は皆笑っていたのだ。
俺は怒りを覚えた。
前世でもここまでキレたことはない。
異世界に憧れていた一番の理由、それは言うまでもなくケモ耳っ娘がいるからだ。
言ってしまえば夢の地を蹂躙していたのだ。
「……っ!」
俺は小さな体に不相応な殺気をむき出しにして村に殴り込みに行こうとしたが、足が動かない。
下を見るとそこには、獣人の子供が俺の足を掴んでいた。
どうやら俺が村に襲いに行くと勘違いしているのだろう。
その子は熊のような丸いふさふさな耳で黒髪短髪の中性的な顔立ちだった。
しかし、その整った顔には複数の小さな傷があり、体は痩せ細り、服は奴隷服のような粗末な布切れだ。
「……やめ…………て」
力のない声、しかし魂が乗った声を吐きながらその子は倒れた。
俺は怒りをとりあえず抑え、熊耳の子を抱えてその場から立ち去った。
少し走ったところで見つけた横穴の洞窟に向かい、熊耳の子を横にする。
洞窟の中を探索すると奥の方で明かりが灯っていた。
恐る恐る近づくと、かろうじて逃げ出すことができたのだろう獣人が四人いた。
ロップイヤーのような垂れ耳に金の瞳、俺と同じくらいの身長の老婆が一人。
犬耳の好青年、俺よりもはるかに大きな若い男が一人。
そしてリスのような幼い双子。
「貴方様からは敵意を感じ取れません。一体何用でこちらに?」
俺の気配を感じ取ったのか、老婆が喋りかけてくる。
「さっきこの辺を通りかかったら村人が襲われ、ていて……。あれ?」
なんで老婆が言っていることがわかったんだ?
俺はこっちの言葉はわからないはずなんだが。
「驚かないでくださいませ。私たちは超感覚的知覚の精神感応が使えるだけですから」
「えっ?」
いやいや、普通驚くだろ。
精神感応だからとか平然に言われても……。
超能力だよ? 異世界だと普通なの?
俺は軽く咳払いをし、口を開いた。
「俺はお前たちと敵対するつもりは全く無いよ。むしろ今、村を襲っている奴らを皆殺しに行こうとしている。でも、状況が分からないんだよ。俺はこっちの言葉を知らないから」
「こっちの……?」
「うん、まぁ気にしないで」
俺は異世界人ということを隠すつもりはなかったが、今はそれどころじゃない気がする。
「それで怪我をしている子を、ここまで運んできたんだけど」
俺は熊耳の方へ指を差しながら伝えた。
すると、今まで静かだった双子たちが奥で寝ている熊耳を見た途端、男の腕から見事に抜け出し駆け寄った。
「ツキ兄ちゃーん!」
「ツキにぃー!」
こいつ男の子だったのか。
名前はツキでいいのかな。
ツキは老婆いわく、疲れて眠っているだけとのことだそうだ。
「私の名はキリム・サークと言います。どうか、私たちをお救い下さい」
双子をさっきまで抱えていた青年が俺に頭を下げた。
「もちろん、任せなさい! 俺はルキ・ガリエルだ。よろしく!」
俺はフードを外し自分の胸に拳をドンと起き、満面の笑顔で約束を宣言した。
「「!?」」
老婆と青年は俺が魔人であることをきっと怖がるだろう。
でも、獣人とは仲良くなりたかった。
だからフードを取って姿を現したのに…………あれ?
老婆と青年は更に深々と頭を下げた。
「……ど、どうしたの?」
俺が困った顔で尋ねると、キリムが頭を下げたまま答えた。
「いえ、嬉しくて……。こんなに優しくしてもらったのは初めてだったもので」
「あー、ん?」
「私たち獣人は、一応は人に分類されているんですよ。でもこの見た目なもんですから、魔物だと迫害され続けているんです。獣人は生まれた時から奴隷でした。そこで前村長たちがあそこに獣人のための村を作り始めたんです。そのことをよく思っていなかった王族や貴族が難癖つけて襲ってきたのです。私にできることがあれば、なんでもやります! ですから……ですからお願いします!」
すると、さっきまでツキ君のそばにいたはずの双子たちも頭を下げた。
「おねがいです!」
「おねがいなの!」
俺はアニメやラノベで獣人が嫌われている理由が分からなかった。
実際今でもよく分からない。
けど断る理由なんて無かった。
「もちろん!」
俺が答えた後双子の子たちは屈託のない笑顔を見せ、キリムと老婆は泣いて感謝した。
「でも、ツキの回復を先にお願いできる?」
俺はツキを抱え再び老婆の元に戻ってきた。
「治るか?」
「治りますとも」
俺の質問に老婆は微笑んで答えた。
老婆は両手をツキの上に持って行き『回復』と唱えた。
緑色の魔法陣が現れ、唱えた途端に外傷はみるみる消えていくのが見れる。
異世界に来て初めて見た魔法に興奮しつつも、俺は老婆に尋ねた。
「魔法ってどうやって使うの? 俺はまだ生まれたばかりだから分からないんだよ」
老婆はツキの外傷が回復したのを見て教えてくれた。
魔法には各属性やS〜Fの階位があるらしい。
ツキに使ったのはEクラスの無属性魔法だ。
階位は自分の持っている魔力量で決まり、魔力量は自分が強くなるたびに容量が増えるらしい。
まるでゲームのようだ。
Sクラスは本当に一握り、勇者とか魔王クラスだ。
Bクラスでも英雄、一級冒険者と言われるのはDクラスからとのこと。
まぁ、皆平等に全属性のFクラスくらいの魔法なら、努力次第で覚えることは可能だということらしい。
しかし、向き不向きもあり自分にあった適正属性を伸ばすのが一般的だという。
「どうやって適正の属性が分かるんだ?」
「村に行けば魔結水晶を使って調べることは可能ですが……」
ですよねぇ。
俺は肩を落とした。
でもこの老婆のおかげで本当にたくさんの事が分かった。
俺はこの獣人達に恩返しをするためにも、ケモ耳っ娘を守るためにも、騎士団と戦うことを再び決意した。
横穴の洞窟は村よりも少し高い位置にあったおかげで、村の様子を伺うことができた。
村の中央の広場には、生き残った獣人達が捕まっている。
村は全壊とまではいかないが、かなり荒らされてしまったようだ。
「今すぐ行かなきゃ……」
「お待ち下さい。貴方様一人で行くつもりですか」
「え? ……うん」
「私もおともします! なにせ私は村人ですし村についても詳しいですから、きっとお役に立てるかと」
キリムが双子に老婆とツキの事を任せるような仕草を見せ、立ち上がる。
「分かった。でも無茶するなよ」
キリムの返事を聞き、俺は再び装備を整えた。
「行ってくるね!」
「行ってきます、おばば様」
俺は親指を前に突き出し心配すんなと伝え、キリムは頭を深く下げ洞窟を出た。
「お待ちください。礼と言っては何ですが、精神感応を瞬時に覚えるこの種子をお一つ」
俺は渡された種子を口にして、キリムの後に続いた。
王城では宴のような雰囲気が漂っていた。
「見ましたかあの泣き叫ぶ獣たち、クククッ」
「あぁ、見たぞ小団長殿。傑作だ」
「あんな獣は存在してはいけない! 王に伝えてください。獣人を、いや亜人全てを殲滅させるために軍を動かすと」
必ず貴様らは俺が駆逐してやる……。クククッ。
村の状況を映し出した水晶で通信しながら、騎士小団長は笑みをこぼした。
[スキル]
状態異常無効
斬撃無効
打撃無効
精神感応
[魔法]
[仲間]
ルキ・ガリエル
種族:魔人?
性別:♀
属性:?