1.5話 旅支度
俺はゲイルとの話の中で出た、初級冒険者が集まる街を目指すことにした。
燦々と照りつく太陽のもと、飲まず食わずで歩き続けた。
いくら状態異常無効で空腹がなくても、食欲はある。
「……なんか食べたいな」
お腹をさすりながら呟いた。
王都を出てからずっと草原が続いていたが、やっと森のようなものが見えてくる。
この森を超え、山を越え、谷を抜けた先に始まりの街、リンピールがあるんだっけ。
「…………遠い」
なんで転生先が王都なんだよ。
厳し過ぎるだろ。
言葉はわかんないし、お金もない。
クソ、あの駄神にいつか復讐してやる。
愚痴をこぼしながらも、小さな体で森を数時間歩き続け日が傾いてきた頃、俺は戦闘の真っ最中だった。
両腕が筋肉によりアンバランスに膨らみ、全身鎧のように硬い黒い毛で覆われているゴリラのような魔物。
どっからどう見てもパワー特化型。
ゲイルはこいつのことを言っていたのだろうか?
つまり、こいつが王猩々か?
目の前のゴリラは、鼻息を荒くしながら殴りかかってくる。
相手の攻撃はなんとか躱せるものの、躱した拳が地に着くたびに隕石でも落ちたかのようなクレーターができる。
地面を殴るたびに大地が揺れて足元を取られる。
こんな化け物に勝てるのか?
一発でも食らうものならミンチは確定だぞ。
俺は確かに生死を行き来できるけど、痛いのは嫌だ。
注射だって嫌なんだから。
そしてまた、考え込んでしまった。
その隙を見逃さなかった王猩々は、両腕を振りかぶり俺を地面に叩きつけた。
俺は鳥の糞のような姿へと変化した。
俺は、また死んだのか……。
「ねぇゲイル! 謝るから、贅沢言わないから、最初の街のリンピール付近まで転送してよぉ!」
正直言って辛かった。
俺がイメージしていた、無双チーレムな異世界とは全く違った。
しかし、辺りを見回してもゲイルの姿は見えない。
魔法陣は常に出現しているのか、光り続けている。
魔法陣の近くには、水晶のようなものが台座の上に置いてあった。
俺は近づき手を触れようとした瞬間水晶が光り、脳内で機械音声が響いた。
「……スキル更新……打撃無効」
どうやらそういう道具らしい。
面倒だがゲイルの代わりみたいなものなのだろう。
更新を終えた俺は、重い足取りで魔法陣に入り肉体に息を吹き返した。
打撃無効になればこっちのもの。
もうただの肉にしか見えない、晩飯だ。
俺は全力でディールへの怒りと力、不満を込め、八つ当たりの一点突破の拳を肉塊の顎にヒットさせる。
肉塊は雄叫びを上げることなく、そのまま鈍い音を立てながら地面に平伏した。
死んだと言うよりも気絶をしたのだろう。
俺は鎧のような毛を何本かむしり、原始的な方法で火をつけた。
辺りはすっかり暗くなってきているせいか、炎を見ているとなぜか心が落ち着く。
俺は剛毛を串がわりに肉を火で炙り、地球でしたキャンプのことを思い出していた。
「あぁ、元気かな……」
頰を赤らめそんなことを口走っていたことに気づき、一人なのに照れを誤魔化すかのように弁解する。
そのあと少しだけ静寂が訪れた。
肉も食い、余った皮と毛は一箇所にまとめ俺は眠りについた。
樹々の間から陽光が差し込み、少しだけ霧がかかっている早朝に俺は目を覚ました。
「……夢じゃなかったのか」
辺りを見回し、体をペタペタと触り、昨日というか今おかれている状況が現実だと再確認した。
「異世界にいるんだよなぁ。魔法とかも使ってみたいな」
自分が魔法を使い魔物を倒していく姿を妄想し、少し顔をニヤつかせる。
ともあれ王都には戻れないし、リンピールに向かうしかないよなぁ。
世界征服とか言われてもそこまでの欲も、やりたいこともないし……。
漠然としすぎていた俺の夢は、ただただファンタジー美少女にチヤホヤされたいだけだったのかもしれない。
そして俺は王猩々の骨と、パンパンになったお腹に目をやった。
「それにしても、よくこんなの食べ切れたな」
見た目よし匂いよし味よしだとしても、この体でこの量は食いすぎたかな。
満腹がわからないのも辛いものだ。
昨晩から焚き火の煙で燻し続けていた王猩々の肉にかぶりつきながら、今後の方針を考えた。
自分が魔人ってことは隠さないといけない、でもお金は稼がないといけない。
今手元にあるのは、ゲイルからもらった布と王猩々の皮。
こっちに来て初めて倒した獲物なだけあって、この皮を使って何か作りたいと思っていた。
俺は自分の体に目をやる。
「やっぱ服だよなぁ……」
こう見えても手先は器用だと自負している。
コスプレ衣装なんかもイベントのたびに自作していたくらいだ。
服といっても全身を隠せるローブのようなものだが作り始めた。
王猩々の器のような平らな骨で近くの小川から水をすくい、火に当てて沸騰させる。
沸騰したお湯に鋼鉄のように硬い毛をつけて少しずつほぐした。
あとは皮と布をほぐした毛で縫い合わせ、ローブのようなものが完成。
護衛用に大きくて太く鋭い毛を鱗のように縫い合わせ、防御力も確保。
余った布と皮で少し大きめの白茶色のインナーを作った。
シャツくらいの大きさで作ったつもりだが、ワンピースみたいになっちゃった。
まぁ、いつまでも裸はまずいし別にいいけど……。
俺はついでに護身用の武器も作ることにした。
長くまっすぐな骨に牙と硬い毛を使い、自分の背丈と同じくらいのΨのようなものも作った。
「やっとスタートラインに立てたかなぁ」
安堵の息を漏らし、俺はパタッと倒れこんだ。
[スキル]
状態異常無効
斬撃無効
打撃無効
[魔法]
[仲間]
ルキ・ガリエル
種族:魔人?
性別:♀
属性:?
〜補足〜
チーレム=チートハーレム