30・つかの間の平和
「おーい、アイザック君、アイザック・ワーグナー君は居るかー?」
「おはよう、居るけどどうしたの?」
「君の妹が来てるぞ」
「はい~?」
廊下に顔を出すとにこやかに笑みを浮かべた妹のナターシャが居た。
「おはよう御座います、アディー兄様」
「おはよう?教室へは行かないのかい?」
そう、今は朝の授業前、妹にとっては初めての授業前なはず。
ナターシャは片手を頬に当ててこてん、と首を傾げる。
「お恥ずかしながら、私迷ってしまったみたいで教室に辿り着けないんですの」
「この教室が良く解ったね、召喚科は別棟の一階なんだけど…」
「それはアディー兄様の匂いをたどって……、いえ、迷ってる内に偶然辿り着いたんですの」
今、なんか変な言葉を聞いた気がするけど、授業開始前にナターシャを召喚科のクラスに送ってこなくてはいけないな。
「なになにアイザック・ワーグナーの妹だって?」
「うわっ、可愛い」
「アイザック似か?」
「違う感じだが、可憐だ」
「おしとやかそうだ」
「……………」
うん、速やかに妹を送ってこなくては…、何となく同級の男子の視線にさらしたくない。
「送るよ、行こう」
「有り難う御座います、アディー兄様」
それにしても僕達の魔法科のクラスは二階にあるのに何処をどう迷って一階から二階に来たんだろうか?
考え事をしていたら制服の裾を引っ張られる感じがして振り替える。
ナターシャが恥ずかしそうに僕の制服の裾を摘まんでいた。
「アディー兄様、もう少しゆっくり歩いて下さいますか?歩幅が違うので置いていかれてしまいます」
「ごめん、ゆっくり歩くよ」
普段、ステファニーやヴェルドと行動している時のままの歩調で歩いていたらナターシャには速かったようだ。
ナターシャの手を取ってゆっくりめで歩く。
ああ、何か女の子と歩いてるって感じがする。
サーシャやナタリーも僕達に合わせてくれてたのかな?
今度聞いてみて歩調を変えないといけないかも知れない。
「さあ、付いたよ。新しい学園生活を楽しんでおいで」
幼い時によくしてた様にナターシャの額に軽くキスをして頭を撫でる。
「もう、私はそんなに子供じゃありません!」
ナターシャは少し頬を染めて恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだ。
教室に入るナターシャを見送ってから自分の教室に戻る。
この暫く後にまたトラブルがある事をその時の僕は知らない。




