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清楚ちゃんの無茶振り

「は?」


 間抜けな声が放り出された。


「だから、伏山くん辺りになんかガツンと言ってくれないかなーって」

「ごめん意味わからん」

「えー、なんでよぉ」


 こっちがなんでか聞きたい。

 だって意味がわからないだろう。

 カースト下位の隠キャオタクである俺が、クラス一の調子者に喧嘩売る?

 自殺行為じゃねぇか。

 俺は別に死にたいわけじゃない。

 諦めてるって意味を履き違えてるのだろうか、この人。


「ごめん、流石にそれは……」


 俺がそう言うと、青波は頰をポリと搔く。


「うーん、できると思うけどなぁ」

「なんでそんな事思うんだよ」

「なんとなく……?」


 適当過ぎだろ。

 人のことなんだと思ってやがるんだ。

 俺は使い捨ての特攻兵かよ。


 ただ、それもこれも、俺を校内カーストから救い出すための救済って事だよな……

 そう考えるとよくわからなくなる。


「どうして、伏山に喧嘩を売るのがカーストから救われる事に繋がるんだ? っていうか普通に脈絡なく喧嘩売るってもはや頭おかしい奴だろ」


 俺がそう聞くと、青波はスッと目を細めて遠くを見た。

 夕日に照らされた横顔は神々しくも見える。

 つくづくとても絵になる人だと思った。

 そして、青波の品の良い唇から言葉が紡ぎ出される。


「だって君は、他の人とは違うから」


 その言葉は、想像していたものとは全く違った。


「他と違うって、何が?」

「えへへ、それは内緒だよ」

「なんだよ、それ」


 はぐらかされると、妙にこそばゆくなる。

 青波は笑顔のまま言った。


「まぁ考えといてよ。喧嘩売ってくれたらその後は私がどうにかするからさ」

「いや待て、何する気だ?」

「内緒ー」

「秘密が多過ぎるだろ」


 結局何一つ教えてはくれない。

 協力を求めてきたくせに、なんなんだ。


「まぁとにかく。とりあえずLINE交換しよ?」

「いきなり強引だな……」

「嫌なの?」


 青波が悲しそうな表情で俺を上目遣いに見つめる。

 なんだか、瞳はうるうるしていて罪悪感が湧いてきた。

 無性にごめんって謝りたくなる。

 っと、いやいやダメだ。

 ここは冷静に。


 ていうか、どうしてこうなった。

 なんでこんなチャンスが舞い降りているんだ。

 三日前、運命的な出会いをして、一目惚れをしたのは間違いない。

 だが、幻想だと自分に割り切って、今まで我慢してきたはずだ。

 隠キャな自分を理解して、諦めて、昨日から目立たぬように伏山たちの露骨な悪口に耐えながら生活してきた。

 それが、どうして。

 どうしてLINEを相手からねだられているんだ?

 なんでこうなった。


 いや、待てよ。

 どうして俺はこんなにキモい思考回路になっている。

 俺はクールでクレバーな海瀬依織。

 いつでもどこでも、冷静な判断ができる男だ。

 もう一度考え直そう。


 そもそも屋上へ連れて来られるって罠としか考えられないだろう。

 今どき屋上へ呼び出すなんてフィクションの中だけの話だ。

 フィクションは本だけにしとけよ〜ってね。

 まぁそれはいいとして。


 つまり、今の話は罠だ!

 茶番。そう、飛んだ茶番劇だったのだ!


 俺はようやく理解した。

 そして、勝ち誇ったように青波にビシッと指を突き刺そうとして、また迷う。


 だって、もし、万が一にもだ。

 本当に、本当に彼女が俺の事が気になって話しかけてきていて、LINEの交換を提案してきたとしよう。

 ここで俺が、


『貴様の狙いはわかっているぞ! 俺を騙せると思うなよ。嘘つき女め!』


 なんて叫んだとしよう。

 きっと悲しむはずだ。


 あぁ、俺はどうしたらいいんだ!

 何が正解なんだよ!


「ねぇ」

「あ、はい! な、な何?」

「いやどうしたの?」

「なんでもねぇよ!」


 くそ……何故か怒鳴ってしまった。

 絶対嫌われたな、これは。

 あーぁ。チャンスを無駄にした。

 何やってんだ、俺。


 だが、女神は俺に味方をした。

 いや、むしろ最悪のタイミングで敵に回りやがった。


「早くスマホ出して? ほら」

「え?」


 青波は、遅いと言いながら俺のポケットを弄る。


「あ、あった」

「ちょ、勝手に出すな!」


 青波は俺の言葉を聞かず、スマホを取り出すと、電源を入れた。

 そして、当然のように俺のロック画面が現れた。


「え……」

「ちょっとぉぉぉ! ストぉーップ!」


 強引にスマホを奪い取ったが、時すでに遅し。

 既に俺の推しヒロインの水着姿は、青波の眼球の裏に焼き付いてしまったようだ。


「い、依織くんってそういう感じ……」

「や、やめろ! 忘れろよ」

「え、無理」


 頭がフリーズする。

 そして青波も目をまん丸く開いていた。

 元々デカい目が見開かれてるんだから、もうとんでもないでかさだ。

 吸い込まれそう。

 いや、もう吸い込まれたい。


 おい、どうして、こうなるんだ。

 で、これからどうすればいいんだよ……

 今日初めての沈黙が二人を襲ったのであった。

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