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過去の栄光

「何してるんだよ、お前」


 俺がそう聞くと、伏山は面倒臭そうに鉄棒に座り直した。

 夜風に髪が吹かれる。


「このままで良いのかって思ってるだけだ」

「は?」

「このままお前と玲音がくっついたら、柚芽がかわいそうだと思ってるだけだ」

「……は?」


 何が言いたいんだこいつ。

 わけがわからん。

 俺達の恋愛事情に何故首を突っ込むんだ。

 すると柚芽が伏山を庇うように言った。


「いや、私が悪いの。今日と昨日色々あって、その前からずっと気づいてもらえなくて、落ち込んでた時はいつも那糸が慰めてくれてたから」


 そういうことか。

 ようやく理解した。


 何故色んなタイミングで伏山に睨まれてるのかと思ったが、そういうことか。

 要するに柚芽を傷つけたら許さんぞ的な奴か。

 へぇ……


「伏山は柚芽のこと好きなの?」

「はぁ?」


 俺がそう聞くと、意味がわからないと言わんばかりに眉を潜められた。


「馬鹿じゃねえの? 幼馴染みが困ってたら助けるだろ」

「馬鹿じゃねえよ。助けねえよ。そんなことして何になるんだ? 俺を威圧してどうする気だったんだよ。まさかそれで俺と柚芽をくっつかせようとかしてないよな?」


 俺がそう言うと、少し伏山が怯んだ。


「柚芽が大事なら放置するのも手だろう。じゃあ何? 昨日の富川もお前の差し金か?」

「違うに決まってんだろ」

「知らねえよ。わかるかそんなもん。お前の言葉なんて信じられねえよ」

「依織!」


 すると今度は柚芽に止められた。

 柚芽は悲しそうな顔をしながら首を振る。


「ねぇ、昔みたいに仲良くしてよ。せっかくこうやってまたこの場所で集まれたんだから」

「「嫌だ」」


 しかし、俺と伏山の声は見事に重なった。

 暗い公園の中、俺たちは睨み合う。


「他人の恋愛事情に干渉して来ないでくれ」


 俺がそう言うと、伏山は悲しい顔をして、そして笑った。

 何故かけたけたと笑い声を上げている。


「伏山……?」


 俺が声をかけると、伏山は鉄棒の上から飛び降りた。

 そして俺の目の前まで来て、よくわからないことを言い出した。


「お前って昔、柚芽のこと好きだっただろ?」

「はぁ……まぁ確かに」

「ええ!?」


 一人柚芽が驚いているが、事実だ。

 俺の初恋は柚芽である。

 それはこの公園で柚芽を再認識した時に、過去の自分の気持ちに気づいた。

 しかし、過去は過去だ。

 だからなんだと言うのか。


「あの時のお前はキラキラしてたよな。なんだか色んなこと頑張ってた。習い事とか勉強とか、知らないところで頑張ってのは知ってる」


 ここに来て急になんだ。

 さも俺のことを分かってくれているみたいな事言いやがって。

 だが、次の言葉に俺は目を見開く。


「でも今のお前にその頑張りは見えない。お前、本当に玲音のこと好きなのか?」


 俺は、本当に玲音が好きなのか……

 俺がここ一ヶ月悩んでいることだ。

 そして、そのせいでこんな事態にも陥っている。

 もし俺が玲音を好きだったら柚芽はさっさと振ってしまって修羅場には陥らずに済んだはずだ。

 だが。

 俺は自信を持って答えた。


「あぁ、好きだよ。あいつは俺を許してくれる」

「……は?」

「お前らとは違うんだよ」


 柚芽と伏山を交互に見ながら俺は言った。


「あいつは、あいつの家族はこんな俺を受け入れてくれるんだ。

 今まで、俺は人から受け入れられて来なかった。

 自分の両親にしかり、習い事の先生に家政婦。

 そしてお前らも結局は俺を受け入れてくれてないだろ?」

「そんなことない!」


 そう声をあげたのは柚芽だった。

 しかし俺は首を振る。


「柚芽が受け入れてるのは過去の俺だろ?

 だって、なんでお前は俺のこと好きなの?」

「そ、それは優しくて、明るくて……」

「だからそれは過去の俺だ」

「違う!」


 柚芽が叫んだ。


「授業中起こしてくれたり、ペア活動で変なことしてる私を助けようとしてくれたり……あとそう! 青波玲音! 青波さんに初めて会った時道案内してあげたって言ったよね? そう言うとことか……」

「違うだろ。後半は玲音との話だ。柚芽への直接的な優しさじゃないだろ。逃げるなよ、自分がしてもらったこと胸張って言ってくれよ」


 そう言うと、苛立ったように伏山が詰め寄ってくる。


「柚芽を傷つけるな」


 そう言われ、俺は鼻で笑った。


「何がおかしいんだよ?」

「いや、ごめんな。あまりにお前が幼稚だったから笑ってしまった」


 ゴンッと鈍い音が鳴った。

 奥歯が軋む。

 ついに俺の口内環境は終焉を迎えそうだ。


「お前、ふざけんなよ! 俺がどんな思いで今まで柚芽を支えて来たと思ってんだよ!?」

「知らないって。ってか支えるとか傲慢過ぎだろ」

「あ?」

「だってお前も柚芽に助けられてきたんだろ?

 それを何? 俺が支えて来た? 馬鹿かお前は。

 頭ん中までパリピなのか? 御気楽なもんだな」


 俺がそう言うと伏山は急に黙ると、呆然としたように俺を眺める。

 そんな伏山に俺は畳み掛けるように言った。


「変わったと言えばお前もそうだよ。伏山。

 クラスで取り巻き囲ってさ、王様気取りか?

 調子乗り過ぎなんじゃないのか?

 陰キャ、陽キャなんてカースト制度敷いてさ。

 楽しいか?

 クラスを一人で支配するのって。

 面白いか?

 自分が一睨みしたらみんなビビるのって。

 俺はそうは思わないよ。

 だってそんなの、ただの独りよがりな迷惑さ」


 伏山の顔から表情が消える。

 すると、隣で柚芽も唖然として俺を見る。

 だから俺は言った。

 声を大きくして言った。


「今の俺はこういう言葉がすらすら出てくるような、こんな人間だぞ」

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