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ハブられてたらしい

「すっかり夏だね」

「うん、そうだな」


 木々は生い茂り、鮮やかな緑色と毎年恒例の短命な昆虫による騒音に彩られた校門をくぐる。


「もうそろそろ夏休みかぁ」

「そうだな」


 額に汗をじわりと感じる。

 気持ち悪い。


「喉乾かない?」

「まぁ、そうだな」

「近くのコンビニ寄る?」

「あー、そうだな」

「あのさ……」

「うん?」

「ノリ悪すぎでしょ? ねぇ?」


 何故か隣の玲音が静かに怒っていた。


「別に俺のノリの悪さは今に始まった事じゃないだろ。慣れろよ」

「なんか上から目線でイラつくんだけど」


 俺がそう言うと、ジト目で睨まれる。

 どうやら気が立っているようだ。

 先ほどの死闘のせいだろうか。

 まぁいいや。


「はぁ、すっかり夏だなぁ」

「それさっき私言った」

「あれ? そうか?」


 全く聞いてなかった。

 俺が聞き返すと、玲音の顔から表情が消えていく。


「依織くん変わったよね」

「何がだよ」

「昔は話しかける度に『あ、青波……』ってテンパってたのに」


 言われて思い出す。

 あの頃の俺はまだまだ純粋だった。

 可愛い転校生に話しかけられて胸が踊っていたのだ。

 それが、今ではどうだ。

 俺は今一度隣の彼女を眺める。


「はぁ……」

「なんで今ため息ついたのかな? え?」


 何が清楚だこの野郎。

 誰だよ、こいつに清楚なんて形容詞使い始めたやつ。

 ただのクレイジーだよ、本当に。

 あぁ勿体ない。

 この抜群の容姿の無駄遣いだ。

 宝の持ち腐れ。猫に小判。馬の耳に念仏。


「どうしたの? そんなにジロジロ見て。あっ、ムラっとしちゃった? あー、うん。君がどうしてもって言うなら……私は別にいいよ?」


 うん、もういっそのこと全国の女子に謝罪した方がいいのではないだろうか。

 もはやDNAに悪戯された人類全員の敵だろ。

 『貧乏人の前で、宝くじ当たったけど賞金の全部を燃やしてるところをYouTube上げてみた』的な。

 意味不明な例えに聞こえるかもしれないが、俺からすればそんな感じだ。

 いや、おそらく玲音の本性を知ったらみんな同じことを思うだろう。


「一緒に自首しないか?」

「は?」


 意味わかんないんですけど、えっ? 気持ち悪。

 みたいな表情をされて心がキュってなった。

 やはり冷徹な青波玲音。

 恐るべし。


「君って急によくわかんないこと言い出すことあるよね」

「……」

「反応に困るんだよねー。ちょっと」

「ごめんなさい」

「心の声と独り言の区別つけようね?」

「はい……」


 なんで俺は今、諭されているのだろうか。

 わけがわからない。


「そういえば赤岸柚芽とLINEしてるの?」


 そんなことを考えていると、玲音に質問される。


「してない」

「あっ、そ」

「なんだよ。そもそもLINEなんてお前と妹と権三の三人しか友達いないし」

「えっ?」


 原始人を見つけたみたいな目で驚かれた。


「え、君どうやって生活してるの?」

「とりあえず飯食って寝てる」

「なるほど」


 玲音は感慨深そうな表情をして、合点がいったかのように手を鳴らした。


「だから君だけクラスのLINEグループ入ってないんだ」


「……は?」


 どういうことだ?

 え、ナニソレ。

 あまりの衝撃に反応がやや遅れる。


「いや、私たちのクラスグル、君だけ入ってないからさ。日課表の変更とかあったら大変だね」

「おい、ちょっと待て」


 頭が整理できない。

 落ち着け、俺。

 俺はそもそもクラスグループの存在なんてもの知らなかったんだが。

 いや、待てよ。


「なんでお前が入ってて俺が入ってないんだ?」

「知らないよ」


 どうしてなんだ。

 転校してきて一ヶ月の奴が入ってて、なんで初期メンバーの俺が入ってないんだ。

 これはアレか。

 二年生だけど一年生にレギュラー取られるみたいな。

 いや、違うだろ!


「権三は? アイツはいないだろ?」

「ん? この『ゴンⅢ』ってやつかな?」

「しっかりいるじゃねーか!」


 アイツだけは許さない。

 アイツを殺して俺も死ぬ。


「え? 何? 知らなかったの?」

「はい……」


 玲音はとても優しい笑みを浮かべて慰めるように言った。


「招待してあげようか?」

「……オネガイシマス」


 なんだろう凄く悲しい。

 哀れだ。情けない。

 そんな思いを抱きつつ、俺はクラスグルに参加し、『よろしくお願いします!』と送信。

 しかし、その直後だった。


「なん……だと?」


『富川に退会させられました』

 おぞましい文字が浮かんでいた。


「……うん。まぁそんな日もあるよ」


 もはや玲音に気を遣われ始める俺氏。

 末期だ。

 人生って不平等だよな。


「あ、私こっちだから」


 そうこう話しているうちに、玲音と別れる道に着いてしまう。

 しかし、俺は首を振った。


「送るよ」

「え?」

「昨日もアレだったし、たまには送るよ」

「あっ、うん……ありがと」


 毎日ここでお別れというのも男としてどうかと昨日思ったのだ。

 俺は玲音の若干紅くなった頰を眺めながら、ゆっくりと足を踏み出した。

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