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銀髪碧眼な策士

「教えてよ。僕なんてせいぜい半年に一度ずつ、玲音の写真が送られてくるのを眺めることしかできなかったんだから」

「はい……」


 やめてくれよ。

 このタイミングで悲しそうに目を伏せるな!

 罪悪感半端ないって!

 しょうがない。

 俺は玲音と付き合ってると告げることにした。


「俺、実は玲音とは」

「付き合ってるんだよね?」

「え?」

「最初の反応でそれくらい気づいてたさ。次期社長候補にまで選ばれた僕の目利きを舐めないでくれよ?」


 流石だった。

 というより、全て手玉に取られている気がする。

 今日の会話全て胸の内を見透かされている。


「君は玲音のことよっぽど好きなんだね」

「え?」


 しかし、青波さんは不思議なことを言った。

 今、なんて?


「聞いてたらわかるよ。玲音の話を始めたら、一気に饒舌になっていたからね」

「そうですか?」

「うん。何やら悩みがあるみたいだけど、大丈夫、君は玲音を好きだよ」

「そこまでお見通しは流石に怖い」


 青波さんはにこやかに笑いかけるが、俺は正直ゾッとした。

 胸の内の奥底に封じ込めた三日前からの悩みを初対面からものの数十分で見抜くなんて。

 こういう人を本当に天才というのかもしれない。

 仕事ができるってのは、こういうところだろう。


「凄いですね。自分でもわからないのに」

「いやいや。あくまで僕のアドバイスだよ。君が玲音より好きな人がいると思うなら遠慮なく振ってあげてくれ」

「あくまでアイツが俺に告った風に言うんですね」


 俺がそう言うと、青波さんは笑った。


「そりゃね。君の顔ならせいぜい顔面偏差値五十くらいだろ? しかも君はそこそこに自分のことを理解している風に見える。そんな君がわざわざうちの可愛い可愛い玲音ちゃんに告白して玉砕? そんなバカな真似はしないよね。だから必然的に玲音から告白するしか想像できないんだ。しかも、君は今恋の悩みを抱えている。それも、ここ数日というより、何年ものものだよね? そんな時に、いくらうちの超絶スーパー可愛い玲音ちゃんに一目惚れしたって、告白はしないだろう」


 すんげー殴りたい。

 ものすっごく殴りたい。

 何がって?

 こんなに人の悪口言いまくって、悪びれるどころか爽やかな笑みを浮かべてるところだよ!


「まぁともかく、玲音が元気ならそれでいいんだ」


 青波さんは満足げに笑うと、そう締めくくった。

 俺のこのやるせない気持ちはどうしたらいいのかは、わからないが。


「で、どこまでいったの?」

「は?」

「手は繋いだ? それともハグ? もしかしてキスまで? さらに……ヤっちゃった?」


 ダメだ。

 所詮青波の家はモンスターしかいない。

 玲音にしろ晶馬さんにしろ、なんなんだ。

 下品すぎる。

 しかも。

 くそ、キスまでしましたなんて言えるわけないだろ。


「その反応だとキスまでは済ませてるね」

「だから平気で心読むんじゃねぇ!」


 つい敬語を忘れてしまったが、なんのその。

 青波さんは微笑を湛えている。


「へぇ、どんな感じだった?」

「えぇと、なんかその。凄く瑞々しくてーーってなに言わせてるんですか!?」

「ハハハッ!」


 笑い方がカッコいい。

 もうなんか眩しい。

 白馬の王子さまって感じだ。

 この性格さえなければな!


「まぁいいんだ。君と玲音のキスの話なんて」

「じゃあなんで聞いた!?」


 なんだこのイキモノは。

 教えてください。

 青波晶馬とは、一体。

 ただのイケメンかと思ってたが撤回。

 ただのキチ○イだったわ、やっぱり。


 青波さんはそんな俺の思考を機にするそぶりもなく、俺の部屋に飾ってある梓との写真に触れる。


「可愛い妹さんだよね」

「えぇ。まぁ」


 俺が適当にそう返事をすると、青波さんは厳しい目つきになった。

 いや、厳しいというよりシリアスというか。

 先ほどまでが緩すぎて厳しく見えただけだ。

 青波さんはうちに来た時のような真面目な表情で言った。


「海瀬の会社を壊したいんだ」


 怨念の満ちた声だった。

 俺は驚く。


「君の両親の会社はとても悪質でね。酷いリストラが多いんだ。特に削る必要もない人員を削るんだ」

「……」

「僕の母親だってそうだ。元々はあの会社で懸命に働いてたのに、いきなりクビだからな。意味がわからない。働きぶりだって、そこらの同僚に比べたら何倍もよかったんだ」


 どうやら、青波さんのお母さんは、理不尽なリストラをされたらしい。

 そもそも何の会社かも知らない俺には、よくわからなかったが、青波さんの怒りだけはわかった。


「でね。君にお願いがあるんだ」


 そして、青波さんは言った。


「僕を梓さんと結婚できるよう、上手く立ち回ってくれないか?」

「え?」

「別に悪い話じゃないだろ? 君、ご両親のこと嫌ってるんだろう?」

「まぁそうですね」

「じゃあいいよね? win-winだよね」


 やけに発音の良いwin-winを聞きながら、俺は考える。

 青波さんはさらに続けた。


「そうだ。君が玲音と結婚するんだったら良いじゃないか。親戚も青波家と海瀬家だけでわかりやすい」


 俺は尋ねる。


「嫌じゃないんですか?」

「ん?」

「うちの両親と親戚になるのは」


 すると青波さんはゾッとする笑みで言った。


「構わないさ。自分の会社を潰した相手に介護されながら過ごす老後って素敵じゃないか」


 怖い。

 なんかもう凄く怖い。

 俺は首を振った。


「梓の意思が全てです。彼女があなたと結婚したいと言うのならば止めません。ですが、逆も然りで梓が望まないのであれば、あなたとの結婚は応援できません」

「両親を潰せるのに?」


 そう聞かれて、俺は笑う。


「別にそこまで憎んじゃいませんからね。一緒に暮らしたくはないだけです」


 すると青波さんも微笑んだ。


「そうか。ではこの話はなかったことにしよう。君が玲音と交わした熱い接吻の話に戻ろうか」

「急にそう来ます!?」


 あまりにも切り替えの早い青波さんに俺は驚く。

 すると青波さんは言った。


「これから、たまにお世話になると思うけど、困った時は遠慮せずに頼ってくれて良いからね」

「はぁ……」

「君は愛しの妹の彼氏だから」


 そう言われて嬉しかった。

 俺は笑った。

 だが、青波さんが部屋を出た後。

 俺は一人でため息をついた。


「玲音を本当に好きかどうかは自分で確かめたいんだ」


 俺はそっと呟く。

 そして一言、玲音にメッセージを送った。


『お前のお兄さん怖いよ』

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