相手のこと
「まさか、今日みたいな日に、高梨でいなきゃいけないなんて・・・。」
「ん?高梨、何か言った?」
「えっ?あぁ、何でもないよ。」
「じゃあ、早く着替えちゃえよ。もう皆グラウンド向かったぞ。」
「あ、うん。」
そう言って、彼-確か、日下君-も教室を出て行った。
教室に残ったのは私一人。ようやく着替えられる。
別に他の男子がいても着替えようと思えば着替えられたかもだけど、ちょっと抵抗感があるというか、高梨の体なんだけど、他の男子にそれを見られるのは恥ずかしい。
なので、別の用事を優先してるふりをして一人きりになるの待っていた。
そして、最後の一人が出て行ったので、Yシャツを脱いで体操着に着替えようとしたその時、教室のドアが開いた。
「あれ?高梨、まだ行ってなかったの?」
「ひゃっ!!」
「うわっ。急にどうした?大きい声出して。」
「・・・いや、何でもない。それよりどうしたの?」
「あー、タオル忘れちゃって。マラソン、今日の暑さは絶対汗掻くだろ?」
「そ、そうだね。」
「・・・どした?何かあった?」
「何か、って何で?」
「いや、後ろ向いて固まってるからさ。」
「そ、そんなことないよ!」
慌てて止まってた手を動かして、体操着を着た。
「そっか。それならいいんだけど。もう大体の生徒グラウンド出てたから、早く来いよ。」
「お、おう。」
そう言うと、ヒョロッとした、まだ名前を覚えられていない男の子は教室から出て行った。
「焦ったぁ・・・。」
思わずびっくりして悲鳴をあげてしまった。変だと思われてないといいけど。
そして、ようやく着替えを終えて、思ったこと。
いくら透けない素材の体操着だからって、肌に直で着るのは、やっぱ恥ずかしいなぁ。
いや、男子でブラ着ける方が変てのは分かるんだけど、分かるんだけど。
高梨に自分の体見られるのはもうしょうがないし、自分がそれを体感するわけじゃないから諦めもついたんだけど、この状況はまだ慣れないなぁ。
とは言え、、いつまでも嘆いているわけにもいかないので、覚悟をきめてグラウンドへ向かった。
「おっ、優稀やっと来た。」
グラウンドに出るなり、隣の席の椿君に声を掛けられた。
「ごめん、遅くなった。」
「ホントだよ。お前居ないと今日のマラソン大会、盛り上がんないからな。」
「今日のトップの本命、ウチの組の高梨と椿と2組の藤原と4組の古澤あたりだって話だもんな。」
横から別の男子が話に入ってきた。ごめん、君も名前まだ覚えられてない。
いやでも、今、嫌な話を聞いた気がする・・・マラソン大会の1位本命に高梨入ってんの?
「負ける気は無えからな。」
そう言って、椿君はライバル心を剥き出しにしてきた。
「お、おう。こっちこそ・・・。」
精一杯の負けん気を返そうと思ったけど、声は気持ちに正直なようで、段々と尻すぼみな声量になってしまった。
はぁ・・・何て言い訳しよう。
頭は既に負けて終わった時のことを考え始めていた。
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スタートまでまだ少し時間があったので、みんな各々で準備体操をしていると、女の子が声を掛けてきた。
「優稀、調子はどう?優勝出来そう?」
声を掛けてきたのは、菜月だった。
「ちょっとイマイチかも。」
高梨と菜月の関係的にこういう返しをするかどうかは分からないけど、今日初めて見る菜月の顔にホッとしてしまったのか、つい弱音が出てしまった。
「優稀が弱気なんて、珍しいじゃん。何か変なものでも食べた?」
「ちょっと体調悪くってね。」
-どちらかというと体の調子ではなく、精神的な調子なんだけど。
「ま、それでも優稀なら何とか帳尻合わせてくるだろうけど、一応応援はしてるね。」
-やめて。あんまりプレッシャー掛けないで。
「それともアレ?あずさの応援の方がいい?」
-あっ、始まった・・・。菜月の妄想タイム。
「でも、何かあずさもあんまり調子良くないみたいで、トイレ行くから先行ってて、って言われてまだ来ないんだよね。」
-ん。多分もうしばらくは来ないと思うよ。少なくとも男子が先スタート切るまでは。
「ホント二人とも恥ずかしがり屋だよね。二人でいるとこ見たことあったかな?・・・無い気がする。」
-合ってるよ。私たちも無いし。
「別に会う用事、無いしね。」
「またまた、照れちゃって~。」
こんな風に菜月からイジられてると、(私と)同じクラスの佐々木さんも声を掛けてきた。
「あっ、この人が菜月の双子のお兄ちゃん?」
「そだよ、一応、"兄"の優稀。」
それを聞いて、女の子たちはプッと噴き出してしまった。
ここは怒るのが正解なのかな?でもこんなことで怒るキャラでもないだろうし、
「一応、"兄"の優稀です。妹がいつもお世話になっています。」
お兄ちゃんとしての懐の深さを見せられるように、笑顔で挨拶をした。
「いえ、こちらこそ。菜月にはいつも元気貰ってます。ってか、お兄さん、実は結構カッコ良くないですか?」
「無い無い。」
「おっ、揃った!いわゆるこれが双子芸ってやつ?」
間髪入れずに返したその言葉は、菜月の発した言葉とそっくりそのままカブッてしまい、佐々木さんにイジられてしまった。
まぁ、双子ってのは合ってるんだけどね。合ってないんだよ、佐々木さん。
「えー、でも私はカッコいいと思いますよ、お兄さん。菜月のお兄ちゃんじゃなかったらアタックしてたかもしれないです。」
「まぁ、言っても私と双子だからね。そこそこの顔なんじゃない?・・・って、誰がそこそこの顔よ!」
「いや、私そんなこと言ってないから。」
「ハハッ。」
二人が急に漫才を始めたので、思わず笑ってしまった。
「笑ってないで、さっさとスタート地点行く。ほら、そろそろ始まるよ。」
「もうそんな時間?」
「お兄さん、頑張ってくださいね。」
「うん、ありがと。」
スタート地点で二人の方向を見ると、菜月と佐々木さんが手を振ってきた。
そういう種別の好意で無いのは分かっているけど、何か普通に嬉しくなった。
しかし・・・高梨ってそんなカッコいいかな。
何か納得行かない。
そんなモヤモヤした気持ちを抱えてると、スタートの声がグラウンドに響いた。
二人から応援して貰ったからには、頑張らなきゃ。
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そして、マラソン大会の結果、やっぱり1位は取れなかった。
・・・3位だったけど。
えっ、高梨の体、凄い。




