部活動のこと
「そういえば、あずさ、今日の放課後大丈夫?」
お昼ご飯を一緒に食べてると、菜月が声を掛けてきた。
「えっ?放課後、何かあったっけ?」
「嘘ー?忘れてるの?今日放課後、バレー部の練習一緒に見学に行こうって言ってたじゃん。」
-いや、知らんし!言っとけよ、柊木のやつ。
そう、今日は久々に柊木あずさの体の日だった。
高校に入ってから初めての入れ替わりで、死ぬほどドタバタしたのが今朝の話。
柊木あずさとは何かあった時の為にチャットアプリの「ChaLive」(チャライブ)で連絡先を交換していたが、情報連携をする余裕なんて一切無く、お昼に至ってしまっていた。
「今日、あんまメイクしてないから、いっそ練習に参加するぐらいの勢いなのかと思ってたのに。」
-ほっとけ。メイクはどうすればいいか分からなかったんだよ。朝からどんだけ茶化すんかい。
「ごめん、一瞬飛んでただけでちゃんと覚えてるって・・・練習は参加しないけどね。」
「知ってる、冗談だよ。まだ仮入部も出来ない時期だしね。あー、でも楽しみだなぁ。」
「菜月はホント、バレ―好きなんだね。」
「そだねー。一応中学3年間ずっとやってたし、それなりに上手いって自信あるからね!」
そう言うと、菜月はふふん、とドヤ顔を見せつけてきた。
お前が中学バレー頑張ってきたのは知ってるけど、知らないふり知らないふり。
「あずさ、ポジションはどこなの?」
「あたしはね、セッターってポジションなんだけど。」
「あっ、トス上げる人?」
「あずさ、バレー詳しいの?」
「えっ?あ、うん。たまにバレーの試合テレビでやってるでしょ?それ見るぐらいだけどね。」
深追いするんじゃなかった。柊木がバレー詳しいとか知らんて。
というか、アイツあんまスポーツやるタイプには見えないしな。
誠秀受験するぐらいだし、どっちかというと文化系タイプだよな。
「そうなんだ。やっぱりテレビとかで見てるとスパイク決まる瞬間が一番盛り上がるし目立つんだけど、試合をコントロールするのはセッターの仕事なんだよね。何ていうか・・・司令塔ってやつ?」
そう言って、菜月はまたドヤ顔を見せつけてきた。
知ってるよ。
そんなに身長高い方じゃなくて、アタックもブロックも他の人より出来ないって落ち込んでた時に、セッターって司令塔っぽくってカッコ良くない?って励ましたの俺だもん。
・・・トスが上手くなったのは、こいつの才能と努力の賜物なんだけど。
まぁ、同じ双子としては、妹が頑張ってたら兄貴は負けたくないって思うのは当然で、そのおかげで俺もサッカー部で頑張れたから感謝してる。絶対言わんけどな。
「そうなんだ。菜月がバレーしてるとこ早く見てみたいな。」
「うん。あずさもバレーの楽しさ、知ってくれたらいいなぁ。」
そう言って、目を輝かせる妹。
いつの間にこんな仲良くなったんだ、こいつら。
しかし、一応柊木には「ChaLive」で確認しとくか。
"今日放課後、バレー部の練習、見学に行ってくるわ。"
"そうだ、忘れてた!"
"一応聞くけど、柊木ってあんまスポーツ得意なタイプじゃないよな?"
"まぁ、得意な方ではないかな。"
"だよな。"
"だよな、は失礼。"
"も、申し訳ない。"
"[謝ってるクマのスタンプ]"
"まだ、どの部活入るかは決めてないから。"
"分かった。ちなみに、そっち・・・ってか俺の方は何かあった?"
"朝からずっとイメチェンしたの?ってイジられてる。"
"どういうこと?"
"[首を傾げるクマのスタンプ]"
"髪型がいつもと違うらしいよ。"
"えっ!?どんな感じで来てんの?"
"別に。特に何もしてない。"
"見せてよ。自撮り送れない?"
しばらく待ってると、画像が送られてきた。
・・・おい、どこのマジメ君だよ!
マジかよぉ。明日学校行きたくねえなぁ。
"[落ち込んだクマのスタンプ]"
"アンタがいつもどんな髪型なのか知らないし。"
"まぁ、そうだわな・・・ちなみにそういう意味だと、俺も一つ言い忘れてたことあったわ。"
"何?"
"今朝バタバタしてて・・・ちゃんとメイク?出来てない。"
"[怒り狂ったウサギのスタンプ]"
"[怒り狂ったウサギのスタンプ]"
"[怒り狂ったウサギのスタンプ]"
"[怒り狂ったウサギのスタンプ]"
"[怒り狂ったウサギのスタンプ]"
いや、ちょっと待て。これは不可抗力じゃないか?
"[怒り狂ったウサギのスタンプ]"
"[怒り狂ったウサギのスタンプ]"
"[怒り狂ったウサギのスタンプ]"
"[怒り狂ったウサギのスタンプ]"
"[怒り狂ったウサギのスタンプ]"
とりあえずスタンプ連打が止まらないので、謝っておこう。
"申し訳ない!次からは気をつけるから!m( )m"
"[謝ってるクマのスタンプ]"
ど、どうだろうか。
"・・・まぁ、私もアンタのことそこまで言えないけどね。"
とりあえず、何とかなったのかな?
"一応自撮り送っとく?"
"いらない!見たくない!"
"そ、そっか。(・・;)"
"話戻すけど、まだどの部活入るかは決めてないから、お願いね。"
"了解。"
"[敬礼してるクマのスタンプ]"
知りたくなかった事実もあったけど・・・一応確認しておいて良かった。
そして、放課後。
「よし!じゃあ体育館行こ!」
放課後を待ち切れずにいたあずさが終礼が終わると同時に声を掛けてきた。
「まだ部活始ってないんじゃない?」
「だからだよ。早く行ってやる気アピールするの!」
妹ながら立派な体育会系に育ったなぁ。
ま、気持ちは分からんでもないけど。
「分かった。じゃ、行こっか。」
「うん!」
体育館に着くと、案の定まだ誰も居なかった。
「やっぱ誰も居ないね。どこで待ってる?」
「ネット用意して待っとくとかダメかな?」
「いや、さすがにダメでしょ。」
「だよね。」
その熱意の温度たるや。ヤケドするレベルの温度だと誰も触れてくれないぞ。
「優稀は昨日、サッカー部の練習見学に行って、延々と声出ししてたんだって。まだ部員でもないのにアホでしょ。」
ぐっ・・・呆れてた妹に呆れられてしまうとは。
「お兄さんはサッカー部なんだね。」
平常心、平常心。
「お兄さん、なんて他人行儀な呼び方しなくていいよ。"優稀"でいいから。」
-お前が言うな。
「優稀・・・はちょっと、ね。」
ってか柊木は俺のこと、普段何て呼んでるんだ?高梨君?菜月のお兄さん?
そんなことを考えてると、先輩達が入ってきた。
「あれ?どうしたの?もしかして練習見学ー?」
「はい!」
菜月が威勢良く答えた。
「どれー?」
「えっ?」
「バレーとバドミントン。」
「あっ、えっと・・・バレーです。」
「そっか。バレー部の子らももうすぐ来ると思うよー。」
「あっ、はい!」
どうやら、バドミントン部の先輩だったらしい。
「あずさはさ、今のところ何の部活やりたいとか、あるの?」
「ん、何で?」
「いや、付いてきてもらってるけどさ、ホントは別のやりたい部活あるとかだったら申し訳無いなーって思って。」
「んー、今の所はまだ特に決めてないよ。」
「そっか。ちなみにバレー部はあり?無し?」
「え、まだ見てもないからどっちとも言えないよ。」
「じゃあじゃあ、私とおんなじ部活っていう意味では?」
「菜月はもうバレー部入るの確定なんだ。」
「どう?どう?」
-圧が。
「・・・嫌じゃ・・・無いかな?」
「むふふふふふ。」
「気持ち悪いから。」
どれだけ柊木のこと好き過ぎなんだ、とちょっと引いていたら、また先輩たちがやってきた。
「ん?もしかして練習の見学?」
「はい!あの・・・バレー部の方ですか?」
「そうだよー。2年の三島。で、こっちは同じ2年の大友。よろしくね。」
「よろしくお願いします!ほら、あずさも。」
「あっ、よろしくお願いします。」
「よろしくね。まだ仮入部も出来ないからアレだけど、ま、ゆっくり見てって。」
「ありがとうございます。」
ん?何かかなり強めに巻き込まれてる感が。大丈夫かな?
その後、二人の先輩が練習の準備を始めると、他の先輩たちも続々とやってきた。
「お疲れ様でーす!ほらっ、あずさも。」
「おっ、お疲れ様です。」
-お前さっき、声掛けしてた俺のことディスってなかったっけ?
「新入生?仮入部もまだだってのに、随分元気だね。」
「いやぁ・・・。」
さすがに恥ずかしかったのか、照れくさそうに菜月が答えた。
「でも、元気良いのは良いことだよ。」
「あっ、ありがとうございます。」
「入部してくれるの、期待して待ってるね。」
「は、はい!」
また元気良く菜月が答えた。
あれ?この流れ、大丈夫か?一緒くたにされてない?
それから練習が始まり、菜月はこの練習はなんのためにやるんだよとか、このプレーはこういう意味があるんだよとか、懇切丁寧に練習内容を説明しながらバレーのことを教えてくれた。
こいつ、やっぱりバレー好きなんだなぁ。
そして、夕方18時過ぎまで続いた部活もようやく終わった。
他にも見学する子はいたけど、途中で帰ってしまい、結局最後までいたのは俺(というか柊木)と菜月の二人だけだった。
「どうだった?」
「ん?」
「バレー部。面白そうでしょ?」
「・・・そうだね。」
「でしょー!どうする?入る?入る?」
「いやぁ、まだそこまでは・・・。」
「えー、そうなのぉ。はぁ・・・。うん、でも頑張る!」
「頑張る・・・って何を?」
「あずさがバレー部に入ってくれるように説得を!」
帰り道、「ChaLive」で柊木に連絡をした。
"先に謝っとこうかな。"
"[謝ってるクマのスタンプ]"
"どうして?"
"バレー部、もう逃げられないかも。"
"[怒り狂ったウサギのスタンプ]"
"[怒り狂ったウサギのスタンプ]"
"[怒り狂ったウサギのスタンプ]"
途中で見るのをやめた「ChaLive」の未読通知は、30を超えていた。




