入学式のこと
「晴れ渡る青空と満開に咲いた桜に囲まれたこの日に、152名の未来ある新入生の諸君を迎えられること、心より喜ぶと共に、諸君の入学を歓迎いたします。」
校長先生の祝辞が続く中、私はその未来に期待だけを見込んでいるわけではなかった。
一つ目の理由は、第一希望の学校に入れなかったこと。
結局、誠秀に入ることが叶わなかった私は、通学圏内で誠秀ほどレベルは高くないけど文武両道に力を入れている透都高校の二次試験を受けて、無事合格することが出来た。
それでも最初のうちは、中々受け入れることが出来なかったけど、お母さんにもいっぱい励ましてもらってようやく前を向けるようになった。んだけど・・・。
「柊木さん柊木さん、校長先生って芸能人で似てる人いない?あのー、たまにドラマ出てる人。」
「いる?誰だろ?」
後ろから声を掛けてきた彼女はまだ会話を続けたそうだったが、入学式の最中ということもあり、会話を素早く切った。
しかし、しばらくするとまた・・・。
「柊木さん、部活何に入るか決めた?」
「まだ、特に決めてはいないかなぁ。」
「じゃあ、バレー部はどう?一緒に入ろうよ。」
「うーん、考えとくね。」
何度かこんなやりとりを挟み、ようやく式は終わった。
「しかし、柊木さんと同じ高校のしかも同じクラスになるとはねー。」
そういって笑みをこぼす彼女の名前は、高梨菜月。
そう、あの「高梨優稀」の双子の妹。
「私もびっくりだよ。」
いや、ホントに。
まさか、同じ高校になるとは。しかも同じクラスにならなくても。
ただ、彼女は今こうして話してるぶんには良い子に思えるし、そんなにいやじゃない。
問題はこっちだ。
「優稀には会ったの?」
「いや、別に会う必要もないから。」
「何でよー?二人、元から仲良いんでしょ?」
「そんなことないよ。」
「またまたぁ。じゃあ、何で入学前に会いに来たのさ?」
「えっと・・・。」
それを言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。
会いに行ったのは事実だから。
そして、それをこの子に見られてしまっている。もはや逃げ場がない。
「まぁ・・・落ち着いたら顔見に行くよ。オリエンテーション終わってからかな。」
「それもそうだね。」
とりあえず、何とか逃れられた・・・のかな。
オリエンテーションが終わるまでに次の言い訳を考えなきゃ。
「そういえば、柊木さん、下の名前何て言うの?」
「名前?あずさ、だけど・・・。」
「そうなんだ。ねぇ、じゃあ、あずさって呼んでいい?」
「えっ・・・う、うん。別にいいけど。」
「やった。じゃあ、あずささ、私のことは、菜月って呼んでよ。」
「う、うん。じゃあ、よろしくね・・・菜月。」
「うん!」
この子の兄貴のことが無ければ、素直に仲良くしたいしたい子だと思う。
ただなぁ、やっぱり「高梨優稀」の存在がなぁ。
「私の中学から透都来た子ってあんま居なくって、私と優稀と、あと3人ぐらいなんだよねー。で、あんま仲良い子も居なかったから、正直ちょっと不安で。でも、あずさに逢えて、しかも同じクラスって、ちょっと運命感じちゃうよね。」
「運命は言い過ぎでしょ。」
と冷静にツッコミを入れつつも、嬉しそうに笑う横顔を見ると、こっちも嬉しくなった。
はぁ・・・もっと普通に出逢えてたらなぁ。
「しかし、今日で逢うの2回目なのに、何かそんな感じしないね。」
-ごめん!逢うの2回目じゃないの。
「あずさ、何か私のこと知ってる感じで喋るし。」
-うん、ちょっとは知ってる。
「あっ、そっか。優稀から話聞いてたりするのか。」
-いや、それは違うっ!
「ま、優稀との仲は追々聞いていくとしますか。」
-聞かなくていいから。お願いだから、そんなニヤニヤした顔でこっち見ないで!
教室までの道のりはこんな感じで終始イジられっぱなしだった。
教室に戻ると、担任となる先生から校内の規則についてや提出物の話があった後、クラスメート一人一人の自己紹介が始まった。
「安藤京香です。これから1年よろしくお願いします。趣味は御朱印集めです。部活はラクロス部に入ろうと思ってます。」
これから1年間一緒に過ごす子たちのことを知る最初の場ということもあり、クラスメイトが他の子の自己紹介に真剣に耳を傾ける中、私は別の考え事で頭を悩ませていた。
菜月に優稀とのこと、どう説明しよう。
いや、説明することなんてほとんどないんだけど。
だって、私たち・・・直接会ったことないんだもん!
そう、実は最初の入れ替わり以来、何度か体が入れ替わってることはあった。
目覚めたら高梨優稀の体になっていて、パニック状態で何することもなく部屋に引き籠って、そのまま眠りについて、起きたら元の自分の体に戻ってる、みたいなことが2回あった。
その時に、メモだけは残してコミュニケーションを取って、やっぱり入れ替わりの相手が高梨優稀本人だってことを知った。誠秀受験して落ちたのもアイツだって分かって、ホントにキレそうにもなった。
ただ、向こうも何でこんな状況になってるか分からないって感じだったし、理不尽に責めたところで、不合格の結果が変わるわけでもないから、結局あんまり言わなかったけど。
その後、アイツが私の家に来て・・・二度目の気絶。今度は向こうが病院に運ばれたみたいだけど。
そして、また入れ替わりが起きた時に会う場所と時間をメモに残して、会おうとしたら、強烈な頭痛。
何とかその場を離れて、お互い気を失うことはなかったけど、そこから考えた結論。
<<私と高梨優稀は、会うことが出来ない>>
正確には、会おうとすると強烈な頭痛に襲われて気を失ってしまう、ってとこだけど。
それ以来、無用に会うことはやめて、入れ替わりが起きたらお互いなるべく何もしないで目立たないように過ごすように決めたんだけど・・・。
まさか、同じ学校になるなんて。ベテラン芸人さんのギャグじゃないけど、聞いてないよぉ。
「高梨菜月です。実は双子で[1-A]に兄がいます。でも多分、私の方がお姉さんっぽいと思います。これから1年よろしくお願いします。」
菜月の「双子」というキーワードとちょっとウイットに富んだ自己紹介にクラスメートがざわついたことで我に戻ると、やってやったよと言わんばかりのドヤ顔を菜月が向けてきた。
・・・はぁ、人の気も知らないで。
その双子の存在が、今、私を苦しめてるし、何だったら私、たまにその双子なの。
あ、でもそうなるとその間、私と菜月は双子ってことになるのか・・・。
いや、何、訳分かんないこと考えてんの。あぁ、もうどうしよう。
頭を抱えてると、前の子が席を立った。
「原川巧です。」
次、私の番か。何話そう。何も考えてなかったなぁ。
ふと隣に目を向けると、菜月がニコニコしてこっちを向いていた。
やめてよ、そんな期待されても何も出ないから。
そして原川君の自己紹介が終わったので、私は席を立った。
「柊木あずさです。趣味ではないですが、ドリーミングランドに行くのが好きです。あと、よく人間観察をします。1年間よろしくお願いします。」
簡潔に自己紹介を終えると、早速菜月が話しかけてきた。
「あずさ、ドリーミングランド好きなの?私も好きでたまに行くよ~。今度一緒に行こうよ。」
「そうなんだ。うん、行こ行こ。」
菜月がドリーミングランドに食いついてくるのはなんとなく分かっていた。
前に入れ替わった時、たまたま菜月がドリーミングランドへ行った日だったみたいで、優稀用のお土産を受け取っていたから。
私自身は1回しか行ったことなかったけど、もっと仲良くなるきっかけの一つになれば良いと思って使わせてもらった。
「やった。楽しみ~。」
すごい喜んでくれてる。
一緒にドリーミングランドへ行けば、きっともっと仲良くなれると思う。
でも・・・何でか少しだけ胸が痛くなった。
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全員の自己紹介が終わると、今日一日のスケジュールはそれで終わりだった。
終礼を終えて、恐る恐る横を向くと、がっかりした顔の菜月がそこにいた。
どうしたんだろうと思いつつも、今日一日で色んな顔が見れたことに少し嬉しさを感じていると、
「優稀、もう終礼終わって、友達と帰っちゃったって。何かさっそく遊びに行くみたい~。」
「そうなんだ・・・残念。」
私は、内心ホッとしつつ、それを見せちゃいけない、と少し緩めのがっかり顔を菜月に返した。




