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はじまりの日のこと(高梨優稀 編 ②)


試験が終わったのはお昼過ぎ、良い感じにお腹が空いてきた頃だった。

スマホの連絡先から「お母さん」という文字を見つけ、朝の会話通り連絡を取ると、別の場所で待っていてくれたのか、ものの5分もしないうちに迎えに来てくれた。


「試験、どうだった?」


当然の質問であるが、求められているだろう言葉を返せないのが、辛い。


「分かんないけど、もしかしたらダメかも・・・。」


もしかしたらどころか、絶対に駄目である。断言出来るレベルだ。

あんなに白紙部分が多い答案、久々に見た。いや、自分のだけれども。

とはいえ、そんな風にも言えず、わずかばかりの期待を残すかのように手応えを伝えた。


「そっか・・・。」


横に座るその人は、それ以上の言葉を発さなかった。

ただ、一瞬見せた残念そうな表情が、今朝会ったばかりだというのに胸を締め付けた。


無言と重い空気に包まれたまま、30分ほど車に揺られると、朝出た家へと帰ってきた。


「お昼すぐ作るから、着替えて待ってなさい。」

「うん。」


試験が全然ダメだった敗北感だったり、申し訳ない気持ちだったり、この状況下におけるいっぱいの疑問だったり、色んなものが頭の中をグルグルしているが、それでもお腹は空くので、とりあえずお昼にありつけるのはありがたかった。


家に入り、二階へ上がって、自分の部屋へと戻った。

カバンを置き、制服を脱いだものの、さて、何に着替えればいいのか。

たかだか着替えなのに、こんなにもハードルが高いとは。

迷っていてもしょうがないのでクローゼットを開けて、とりあえず目に入ったニットのセーターとジーパンを着てみることにした。

朝からどんだけファッションチェックするんだ、と少し自虐気分になりながら姿見で変な感じになっていないかを確認し、まぁ及第点だと思えたので、そのまま部屋を出て1階に降りていった。


「あ、もうちょっと待っててね。もうすぐ出来るから。」


良い匂いにまだかまだかと待ちわびていると、テーブルに皿が運ばれてきた。

これ、何だっけか。確かガパオライスってやつだっけか。初めて食べる気がする。

ウチでは出たことのないようなお昼ご飯に少し面を食らいつつも、抑えきれない空腹感にまかせて、ご飯に手を伸ばした。


「いただきまーす。」


旨い!何かたった半日ぐらいしか経ってないのに色んなことがありすぎてパニックになりそうな中で、ようやく少し落ち着けたからか、そもそもガパオライスという食べ物がこんなにも美味しいものなのかは分からないが、初めて食べるガパオライスは五臓六腑に染み渡るような美味しさだった。


「アンタ、そんなにお腹空いてたの?」


止まらないスプーンに驚いたのか、お母さんが声を掛けてきた。


「ちょっと頭使い過ぎちゃったみたいで。」


まぁそれは本当だ。ただ、お母さんの思っているものだけではないってだけで。


「おかわりあるわよ。」

「もらうー。」


二杯目のガパオライスには目玉焼きが乗っていなかったものの、それでも美味しさが変わるものではなく、二杯目もあっさりとたいらげてしまった。


「ごちそうさまー。」


この年の女の子がこんなにお昼を食べるのかとも思ったが、そんな娘を怪しく思うこともなく、お母さんは席に着いてテレビに目を向けていた。

多分、受験の手応えに対して気を使っているとかもあるのだろう。

何でこんな状況下で受験をしなきゃならないんだとも思ったが、細かい違和感を隠してくれるものとなったので、結果オーライだったのかもしれない。いや、受験の結果はオーライじゃないだろうけど。


皿を片づけた後、自分の部屋に戻って改めて疑問点を整理した。


① 俺(高梨優稀)の体は今、どうしているのか。

② 「柊木あずさ」の中身はどうなってしまったのか。

③ 何故、俺(高梨優稀)が「柊木あずさ」の中に入ってしまったのか。

④ どうやったら元の体に戻れるのか。


他にもあるかもしれないが、とりあえずはこのぐらいだろうか。

②と③については分かりようがない気もするが、①と④については何が何でも答えを見つけなければ。

と言っても、④についてもすぐに分かる気はしないけど。


なので、まずは①の解決を目指すこととした。

一番てっとり早いのは実際に会いに行くことだよなぁ。幸い、この家から自分の家までそこまで遠くなく、電車で2,30分ぐらいだろう。ここの最寄り駅が分からないが、1時間もみとけばいいはず。

今が13時半なので、すぐに出れば15時前には着けるだろう。

行くべきかどうか少し迷ったが、ここに居たところで出来ることなんてほとんど無いし、行ったところでどうやって会うのか段取り出来てないけど、行けば何かあるかもしれないと思い、自分の家に向かうことにした。


コートを羽織って、1階まで降りるとお母さんがまだテレビを見ていた。


「あら、あずさ。出掛けるの?」

「うん、ちょっと友達と約束してて。」

「そんなこと言ってなかったじゃない。夕飯までには戻るのよね?」

「多分帰って来れると思う。」


時間的には間に合うと思っていたが、自分の家でもしかして何かあるかもしれないという可能性を捨てきれなかったので、少しぼやかした返事をしてしまった。


「もし遅くなりそうなら、早めに連絡入れてよね。」

「はーい。」


お母さんとの会話を終えると、玄関の扉を開けて、家の外に出た。

ここからは完全に知らない道なのでスマホの地図アプリが頼りだ。

地図アプリを開いて、改めて現在地を確認すると意外にも知った駅がすぐにそばにあった。


-新名内駅。


新名内駅はフットサル場を併設したスポーツ施設があり、たまに遊びに来ていたのだ。


「意外と馴染みのある場所だったんだな。」


そうと分かったら、アプリを頼りに駅まで行って、そこからは簡単だ。

10分ほど歩くと新名内駅へと到着したので、よく使っている在来線に飛び乗った。

確か7駅ぐらい先だったか。時間にして30分弱。そこから歩いて15分程度。

つまり、あと45分後くらいには俺に会えるかもしれない。

会えるかどうか分からないし、会ってどうなるかも分からない。

もしかしたら、俺は俺としてそのままなのかもしれない。その場合は俺が戻ることは出来ないのか?

何一つ約束された結果が無いという不安を抱えつつ、しばらく電車に揺られた。

途中で自分のSNSを確認して、更新がないことを良いとも悪いとも思えず、モヤモヤした気持ちをさらに膨らませたところで、電車は最寄り駅である「東和駅」に到着した。


よく見知ったホーム。駅前。商店街。

たった1日ぶりだというのに、すごく懐かしい気分になった。

それと同時に、車のガラス窓に映った「柊木あずさ」の顔を見て、孤独感にも苛まれた。

ホームなのに、ホームじゃない。それどころかアウェイ感すら感じる。

知っている場所に知らない人間として立つのがこんなにも怖いことだったなんて。

なるべく人目を避けるように商店街を抜け、自分の家に向けて歩みを速めた。


普段であれば15分程度掛っている道を10分と掛からず、遂に自分の家に着いてしまった。

着いてしまった、という表現を使いたいほどに、不安は込み上がっていた。


さてしかし・・・ここからどうしようか。

ただただ待っていても俺が家から出てくるとは限らない。

インターホンを鳴らすか?鳴らして何をどう話す。俺以外が出てきた時、どうやって俺を呼び出せばいい?

女っ気は無くないけど、家に訪ねてくるほどの関係の女友達なんて居ないぞ。

そこはでもまぁ家族が知らない友達のテイで誤魔化すか。後々が怖いけど。

じゃあ、俺自身が出てきたときは?

一番良いのは俺の中に「柊木あずさ」が入っていて、状況を瞬時に理解してくれることか。

もしポカンとした顔をされたら?そん時はもういっそ逃げるか。

そんな自問自答を繰り返していると、急に家のドアが開いた。


「あっ。」

「あれ?えっと・・・ウチに何か御用ですか?」


-菜月っ。


俺の双子の妹が目の前に居る知らない人に困惑した表情を向けていた。


「あっ、えっと・・・私、高梨君の友達の柊木って言います。あの・・・高梨君居ますか?」


とっさの応対となったにもかかわらず、シミュレーションした通りの言葉を伝えることは出来た。


「あ、そうなんですね。優稀・・・じゃないや、兄、家にいるんで呼んできますね。」


お客様対応モードに切り替わった菜月は俺のことを『兄』と表現し、家に居るという俺を呼びに、家の中に戻っていった。


・・・居る。そして、会える。

ここからどうなるかは分からないが、少なくとも先に進める。

逸る気持ちを抑えながら玄関前で待っていると、家の中からドタドタ階段を降りる音が聞こえてきた。

もうすぐ、もうすぐだ。もうすぐ会え・・・。


-痛った!


痛い痛い痛い。何だ?頭が割れそうなほど痛い。

いや、耐えきれない。何で急にこんな痛みが?

あまりの痛さに呼吸が荒くなり、次第に目の前の風景も霞んできた。

立っていることも困難な状態に家の壁に寄り掛かって、痛みと闘っていると、玄関が再び開いた。


「お待たせしまし・・・どうしたんですか?大丈夫ですか?」


その言葉を聞いて、俺は気絶してしまった。

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