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はじまりの日のこと(高梨優稀 編 ①)


「えっ・・・ここ、どこだ?」


昨日は確かに自分の部屋で寝た。

旅行とかにも入ってないはず。

というか、3日後に高校の入学試験があるのに、旅行なんて行くわけがない。

友達んちにも行った記憶はない。

だとしたら、ここはどこなんだ?


見慣れない部屋。見慣れない家具。見慣れない服。

っていうか、女モノ?

ということは、女の子の部屋?

菜月の部屋ってこんな感じだったっけ?

いや、間取りが全然違う。

だとしたら、、、えっ!?俺、このパジャマ、女モノ?

えっ、何で?ってか、、、わっ!!!

姿見に映りこむ自分の姿を見て、愕然とした。

誰だこれ!?完全に女の子じゃん。え、何?夢?


「あずさー!起きてるの?早く準備しちゃいなさい。」


誰の声だ?お母さんでも菜月でもない。

やっぱり、俺の家じゃない。というか俺じゃない・・・いや、意味分らんけども。

とりあえず、部屋の外出てみるか。

おそるおそるドアを開けると、やっぱり見慣れない廊下が広がっていて、少し先には階段があった。

1階からはテレビの音が聞こえる。さっきの声は1階からか?

不安を感じつつも、とりあえず降りてみると、


「おはよう。あら、まだ着替えてないの?」


台所と思われる所に立つ女の人は俺に向かって、そう声を掛けてきた。

何も言えずしばらくその場で立っていると、


「まぁいいわ、先に朝食済ませちゃいなさい。」


と、催促をされてしまった。

とりあえずテーブルについて、また沈黙を続けていると、


「あずさ、どうかしたの?もしかして具合悪いの?」

「いや、そんなことないけど・・・。」


-具合は悪くないけど、パニックは起こしてるよ!


そう心の中で叫びつつも、声には出せないもどかしさを抱えていると、


「あ、アンタ。さては緊張してるなー?大丈夫よ、あんなに頑張ってきたんだから。」


何の話だろう。聞いてみても大丈夫だろうか。


「今日そんな緊張するようなことある?」

「・・・アンタ、ホントに具合悪かったりする?」

「どうして?」

「今日、受験当日ってのは、分かってる・・・のよね?」


!!?受験?確か、明々後日のはずだろ?日にちまでズレてるのか?

ふと、テレビに目を向けると、2月10日の表示。

いや、日にちはあってる。えっ?でも受験は13日だったはず。どういうことだ?

しばらく沈黙を続けていると、


「アンタ、ホントに大丈夫?今日、第一志望の誠秀学院の受験でしょ!」


-誠秀学院!?あんな偏差値高いとこ受けるわけないだろ!


また叫びたくなる衝動を抑えて、出来る限りの冷静を装った。


「分かってるよ!」

「・・・アンタでも緊張ぐらいするわよね。無神経なこと言ってごめんね。」


その女の人は、少し怒気が入った口調での返答を緊張と解釈してくれたようだった。

何だか申し訳ない。


「こっちこそ、ごめん。」

「いいわよ。それより、さっさとごはん食べちゃいなさい。」


とりあえず考える時間が欲しい。出されたパンを急いで食べて、部屋に戻ることにした。


「7時50分には出るからね。」


後ろから聞こえたその時間まで、あと30分を切っていた。


部屋に戻り、改めて鏡で自分の姿を確認する。うん、女の子だ。

何かこの女の子の情報が分かるものはないのか。身分証とか・・・そうだ、学生証だ!


「普通、財布かカバンの中に入れてるよな。」


机の横に学生カバンと思われるカバンを発見し、中に生徒手帳らしきものが無いかを探してみた。

が・・・、


「無い!」


あとは、財布か。

財布はカバンの中にあるのをすぐに見つけることができた。

人の財布を開くのは何となく気が引けるが今はそんなことを言ってる場合じゃない。

財布を開いて、いくつかある収納からカードを取り出していると、


「あった。」


出てきた学生証にはこう記されていた。


《浅野台第二中学、柊木あずさ》


「いや、誰だよ!!」


ツッコんでる状況じゃないのは分かっているけど、あまりにも知らない名前過ぎて、思わずツッコミが口から洩れてしまった。

しかし、同時にある疑念も沸いてきた。


「えっ、もしかして記憶喪失?」


そう。今まで、何故か誰かの体に乗り移ってしまったと思ってたけど、実は本当は最初から柊木あずさで、急に今までの記憶が無くなったとかじゃないのか?

いやいや、その場合、性別までは変わらんだろ。

あっ、でも、二重人格とかで別の人格が出来るみたいな話は聞いたことあるな・・・それか?

ただ、どっちにしろ目先の問題はそれじゃない。いや、これはこれですごく大事なことなんだけど。


「えっ、着替えどうすんの?」


そう、まだパジャマ姿。ここから着替えなければならない。

受験ということは、多分制服だろう。目に入ったハンガーラックにはそれらしきものが掛っていた。


-女子の制服とか着たことねえし。


なんてことは言ってられない。

まぁ普通にシャツ着て、スカート履いて、ジャケット着ればいいんだろう。

おもむろにパジャマを脱いで、ようやくここで違和感に気づく。


「ブ、ブラジャー!?」


ま、まぁ女の子なんだから普通か。いや、とはいえ!

色んな気持ちが芽生えてくるのを必死に抑えて、シャツを着た。

しかし、、、そしたら下もそうだよなぁ。

ズボンを脱ぐと、予想した通り女の子チックなパンツが見えた。

こっちは予想してた分、そんなにびっくりはしなかったが、その中を確認したい気持ちをこれまた必死に抑えて、スカートを履いた。多分そこまで見てしまったら、ちょっと受験どころじゃない。


丁寧に用意してあった靴下を履いて、ジャケットを着たところで姿見の前に立ってみる。


「・・・多分、大丈夫なはず。」


ただ、少し髪がパサついてる気がしたので、セットしようと思ったが、ブラシやドライヤーは見当たらなかった。としたら、洗面所か。


部屋を出て、階段を通り過ぎると、二つのドアが見えた。

どっちか分からないが、とりあえず左のドアを開けると、洗面台とお風呂場の扉が見えた。こっちで正解だ。

洗面台の引き出しを上から開いていくと、ブラシとドライヤーがあるのを見つけた。


「とりあえず、水で軽く濡らしてまとめとけばいいか。」


この辺は男とそこまで勝手が違うわけでもないので、さっと髪をとかして整えた。


「まさか・・・クルクル髪巻いてたりしないよな。」


仮に巻き髪スタイルだったとしても、出来ないけど。

それにこの顔に巻き髪は無い・・・はず。偏見かもだけど。

すっごい美人というわけでもないけど、整ってる顔を改めて確認して、何となく巻髪をするタイプじゃないと思った。


髪のセットのあと、歯磨きをしようと思ったが、歯ブラシが二つ。

さっきのお母さん・・・と思われる女の人とこの子の分か。あれ?父親の分は無いのか?

また気になる点が増えたが、とりあえずは歯磨きを終わらせなければ。

もうこれに関しては完全に勘だ。ピンクの歯ブラシと手に取って、歯磨きを済ませた。


部屋に戻って、改めてカバンの中身を確認する。

クリアファイルに入っている受験票を見つけ、改めて焦りを覚える。


「ホントに誠秀受けんのかよ・・・。」


元々受ける予定だった透都高校もそこまで悪くない、というか俺だとギリギリぐらいのレベルだけど、誠秀はそこと比べても2つぐらいレベルが違う。

まず俺では合格なんて奇跡が10回ぐらい起きないと無理だろう。


「あー、絶対無理だよ・・・。」


急に訪れた絶望感に浸ってると、下から声が聞こえてきた。


「あずさ、もう時間だよ!出る用意出来た?」


時計に目をやると、時間は7時50分を回っていた。

もう覚悟を決めて行くしかなかった。

カバンを手にとって、1階に降りると、お母さん?が玄関の前で立っていた。


「あずさ、忘れ物無い?あれ、アンタ、リボンはどうしたの?」


-リボン!?完全にノーマークだった。


「まったく・・・いいわ、お母さん取ってくるから、アンタ先に車乗ってなさい。」


そう言うと、そのお母さんらしき人は階段を駆け上がっていった。

丁寧に用意されていた靴を履いて、玄関の扉を開けると、これまた見慣れない景色が広がっていた。


「ここはどの辺なんだろう?」


当然のように沸いてくる疑問に頭を悩ませながら、ガレージにある車に近づいた。

ドアは開いているようで、とりあえず助手席に乗り込んだ。

すぐさまお母さんらしき人も家から出てきて、運転席へと乗り込んできた。


「ほら、リボン。さっさとしちゃいなさい。」

「うん。」


受け取ったリボンを見て、少しフリーズ。

おそらく首から掛ければ良いのだろう。輪っかに顔を通し、襟元を整えていると、車が発進した。


「シートベルト締めてね。」

「はーい。」


普段受けてる忠告と同じ忠告に自然と返事が出た。

シートベルトを締める頃にガレージを出きった車は徐々に加速度を上げていった。


さて、住所かなんか分かるものは、っと。

辺りを見渡すとコンビニが見えた。ただ、溢れるようにあるチェーン展開のコンビニでは場所を特定するには至らなかった。

もどかしさを抱えながら外を見ていると、隣から声を掛けられる。


「帰り、どうする?連絡くれたら迎えに行くよ?」


帰り。そうか、俺は帰らなきゃいけないのか、さっきの家に。

もうこの時点で何回も曲がっている道順を覚えているわけもなく、迎えにきてもらうことにした。

しかし・・・。


「連絡って、どうすれば?」

「いや普通にスマホで連絡してくれればいいわよ。」


そうだ!そうだよ!スマホがあるじゃん!何で一番にこれに辿り着かなかったんだか。

・・・って、スマホはどこだよ。持ってきた覚えないぞ。

とりあえず、ポッケを探ってみるが入っていない。でも、部屋の中にスマホがあった覚えも無い。

あるとは思わないが、おもむろにカバンを開けて中を探ってみた。が、無い。

部屋の中、見過ごしたかなぁ。早く気付いて探せば良かった、と後悔していると、カバンの外にもファスナーがついていることに気づいた。急いで開けると、そこには・・・。


「あった。」


開けた外の収納の中には特にカバーもないシンプルなスマホが入っていた。

スマホを手にとって、画面を見てみる。

電池は十分に残っているようで、起動はしていたが、ロック画面だった。

いや、パスコード何だ?何の情報も無い状態でさすがに分かんねえな。

諦めかけたその時、今日初めて頭が回転する音が聞こえた(気がした)。

そう、指紋認証が設定されていれば、通るのではないか。

おそるおそる、ボタンに親指を当ててみると、画面が切り替わった。


「ビンゴ!」

「びっくりしたぁ。どうしたの?」


思わず声をあげてしまい、隣に座っている人をびっくりさせてしまった。


「ごめん、何でもない。」


苦々しく謝罪をすませて、スマホを触りはじめた。

まずは場所だ。地図アプリを開いて、現在地を確認する。

今走ってるのは、吉野市か。進行方向から逆算すると、、、。

大きく広げた地図の中に「浅野台」の文字を見つけた。

中学がそこなら、家もこの辺りだよな・・・久遠寺市か。

ということは、俺の記憶の中で住んでた東和市の隣か。そこまで離れてるわけじゃないんだな。


これでとりあえず、大体の場所は把握出来た。

そしてもう一つ確かめたい事が。

それは、俺が、「高梨優稀」が実在してる人間なのか。

さっきよぎった疑念のように、二重人格か何かで生み出した架空の人間の可能性だってある。

それを確かめなければ。

幸い、記憶の中の俺はSNSをやっていた。

それが存在してれば、具体的な生活の様子が見られれば、俺が本当は「高梨優稀」である可能性は限りなく高いはず。

もちろん、不安もあるが・・・。

迷ってたってしょうがない!

スマホのWebアプリでSNS時のアカウント名の「yuuki_twin1」を検索してみた。


・・・あった!俺のアカウントだ!


アカウントのページを開いて、どんどんページを下にスクロールしていく。

はしもっちゃんにニノ、サッカー部の皆。よく知った顔が次々に登場してくる。

そして、俺の写真も。

・・・うん、15年間ずっと見てきた顔だ。

これで確信した。俺は絶対に「高梨優稀」だ。「高梨優稀」として15年間生きてきたこの記憶は間違いなんかじゃない。

ということはやっぱり、俺の中身がこの「柊木あずさ」って子に乗り移った、みたいな感じなのか?

そしたら、「柊木あずさ」の中身は一体どうなったんだ?俺の体は今、どうしてるんだ?

疑問を解決したのに新たな疑問が次から次へと沸いてくる。

そりゃそうだ。こんな状況、簡単に受け入れられるわけがない。

パニック寸前の中、頭を抱え込んでいると、車がゆっくりと止った。


「あずさ、着いたわよ。」


目の前に広がる校舎を見て、もう一つ大きな問題があったことを思い出した。

ただでさえ足りてない学力に加え、最悪な精神状態で受けた試験は、当然のようにボロボロだった。

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