第六十九話 そして……省略ってよくやる手法
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ワタクシ達は技術者を国に迎え、順調に開発を進めていきましたわ。
そしてあっという間に約三ヶ月ほどが経過いたしました。
醤油も広く知られるようになり安定した収入源となっております。そしてそれにより、より熟成させた高級醤油の商品展開も始まっておりますわ、こちらは高級な宿屋や貴族に人気があり一本二五〇リシェという強気な値段設定にも関わらずバンバン売れております、あと味噌の開発も進みこちらも人気ですのよ。
国の開発も進んでおり、シェンナとコリーを中心とした倉組、何気に大豆……青豆作りに興味津々でいつの間にか農業を中心に活躍しているセルカド、意外な事に建造建築関連に一部のオーガ達が才能を発揮しドワーフと一緒に凄い勢いでアパートを建設していきましたわ。
ブライアン達ケンタウロスは正義感が強く、弓の腕が良いし機動力があるため機動警邏隊として活躍しております、このおかげで魔王領に盗賊はあまり出ないとの事で商人たちも訪れるようになってきましたわ。
ムーロさんが魔王領でプラム商会の魔王領支店を造りたいとの事でしたので倉街の方に許可を出しておきました。
住人も徐々に増えてゆき結構な人数となっております。
しかし、まだ本格的に活動して三か月なのでまだまだな部分も多く、今でも皆で試行錯誤しております。
「一気に動き出しましたね」
「ええ、ですがまだまだ序の口ですわよ。やる事はまだまだありますわ」
「マナカさんのおかげで凄い速度で発展しています、本当に召喚で来たのがマナカさんで良かったと思います」
マウナさんが良い笑顔でワタクシにそう言います。あー、もう卑怯な笑顔をしますわねぇ。
「フフ、ですがまだまだ始まったばかりですわよ」
「そうですね、まだ始まったばかりですね」
これは終わりではありません、始まりですわ。
さて、三ヶ月と言う事は一度コルリスに戻りギルドの依頼を受けておくべきですわね。
「――うおー! こいつ随分速くなったー!」
ナルリアちゃんが大型の荷台を付けた芋虫に乗ってこちらにやってきましたわ。
前に盗賊退治した時に拾った卵が孵化した、キャピラータという魔物ですわ。
「――マナカ! 魔王さまー! そろそろ夕食だとシェンナが言ってるぞー」
ナルリアちゃんがワタクシ達を呼びに来たようですわね。
キャピラータ牧場も割と開発が進んでおりますのよ、キャピラータは案外賢くパワーもスピードも高く、キャピラータ1匹で馬二頭分の働きをしますのよ。
あと、成長速度が早いので卵さえ確保できればとても便利な存在ですわ、マウナさんいわく寿命は約二〇年ほどだそうですわ。
「――城まで送るから乗るんだ」
最近ナルリアちゃんはキャピラータに乗る事を趣味としておりますのよ、扱いも大分上手くなっておりますわ。
ワタクシ達は言われた通り後ろで引いてる荷台に乗ります。
「相変わらず乗り心地は酷いですわねコレ」
「そうですねぇ、便利ですがお尻が痛くなってしまいます」
「荷台のタイヤ周りの開発を進めるとしましょう、自動車に関してはあまり知らないんですのよねぇ……自動車ってやはり凄い技術ですわ」
ワタクシはこの酷い乗り心地を改善するための施設を造る事にいたします。
「――うおー! 何人たりともワタシの前は走らせない!」
ナルリアちゃんが絶好調に飛ばします、多分時速七〇キロは出てますわよこれー。
「ぎゃー! いったー! ケツを打ちましたわー!」
乗り心地改善急がせましょう……
――
――――
食事の時間も終わり、ワタクシは皆のいる場所でこれからの事を話します。
マウナさん、ベティさん、アリティアさん、ナルリアちゃん、米田中尉と冒険者メンバー全員に対して。
「ワタクシ達のペナルティはそろそろ解除されてる頃だと思いますので、コルリスに向かい一度適当な依頼を受けつつ、センネルの動向を探ろうと思いますの」
「そ、そうですね。ワタシとマウナさんが話を聞いてからも暫く経ちますし、そ、そろそろ新しい動きもあると思います」
マウナさん達の報告を聞き、ワタクシは今でも何か嫌な予感がするんですのよね。
センネルは放っておくとロクな事にならないと、ワタクシのゴーストが囁いておりますの。
「以前、ガリアス殿が言っていた人物でありますな。あれからそれなりの時間が経過しておりますし、準備を進めているなら割と進んでいることでしょう、探りを入れるのは賛成であります」
「そうよねぇ、センネルならきっと何かやらかすわよ」
中尉とベティさん、アルティアさんはワタクシの意見に賛成のようですわね。
「今は国も重要な時期です、隣国の大国がセンネルのせいで混乱すれば私の国にも影響はでるでしょう、そうなるとこちらも困りますね」
「ええ、どうも嫌な予感がしますのよ」
「わかりました、コルリスの街に行きましょう」
こうして、ワタクシ達は再び冒険者としてコルリスの街に行くことにしましたわ。
そして、そんな決意を新たにしたところにモルテさんが慌てて部屋に入ってきましたわ。
「マウナ様! クナギ殿! 皆さまおそろいですか!」
「モルテ、慌ててどうしたのです?」
マウナさんに言われて少し落ち着いてから、モルテさんが喋ろうとしたところ今度はサティさんが来ましたわ。
「マウナ様! あ、モルテ様もいましたか」
サティさんもモルテさんほどでは無いにしろ慌てた様子でしたわ。
「お二方落ち着いてくださいまし、まずはモルテさんの話から聞きましょう」
ワタクシがそう言いますと、モルテさんとサティさんは頷き、モルテさんが話しはじめます。
「はい、では。サルジーン国でどうやら大規模なクーデターが行われているようなのです」
「あらー? サルジーンついにやっちゃったのねぇ」
サルジーンとはチヨルカンの隣に位置する小国でしたわね、貧乏な国だと聞いております。
「サルジーンから商人たちが逃げて来て我が国に保護を求めておりましたので、信憑性の高い情報だと思われます」
クーデターとは穏やかではありませんわね。しかし隣国チヨルカンでなく何故魔王領なのでしょうか?
「しかし何故隣国チヨルカンでなく、さらにその隣のファーレ魔王領に保護を求めるのでしょう?」
ワタクシが先ほどの疑問を口にします。
その疑問に答えたのはベティさんですわ。
「おそらくチヨルカンも貧しい国だからじゃないかしら? しかもあそこは黒い噂の絶えない国ですものねぇ、多少危険を冒してでもチヨルカンを横切りここまで来る方が安心でしょうねぇ」
「なるほど、あそこに保護を求めたら何をされるか分からないという事ですわね」
「ええ、最近は商人たちの噂で魔王領の事も外に出てるようですものね、怪しい黒い国と魔物がいても白い国なら後者を選ぶわよぉ」
サルジーンはそこまで関わりのある国ではありませんので、直接こちらに害が無いようなら見守るしかありませんわね。
「モルテ、こちらから諜報活動の得意そうな者を数名サルジーンの様子をチェックしておいてください。直接こちらに害が無いようなら見守ります。避難民の受け入れはなるべくするようにお願いします」
マウナさんもワタクシとほぼ同じ考えのようですわね。
「では、次は私の報告です。王城の庭で黒装束の男が四名保護を求めております」
「保護ですか?」
「ええ、六名おりましたが二名はこと切れており、残りの四名も傷が酷く応急手当はしてありますがアルティア様の治療が必要かと思われます」
黒装束の傷だらけの男ですか、あまり歓迎できなさそうな話ですわね……
ですが放っておくこともできませんわね。
「マウナさん、会ってみませんこと?」
「そうですね、アルティアさんも一緒にお願いします」
「わ、わかりました」
ワタクシとマウナさんとアルティアさんで会う事にしました……
ベティさんとナルリアちゃんに中尉もついてきます、結局全員で会う事に。
――
――――
治療を終え、ワタクシ達は黒装束の男たちと対峙します。
「まずは、治療してくれたことに礼を言わせてほしい。俺はこいつらのリーダーでカシムという」
無精ひげに短髪の男が自己紹介をしました、歳の頃は三十後半くらいでしょうか?
低いが良く通る声でですわね、ワタクシはカシムと名乗った男に率直に尋ねますわ。
「率直にお尋ねしますわ、あなた方はどこの誰ですの? 正直に話してくださいまし」
カシムは目を閉じ少し思案してから話し出します。
「俺たちはチヨルカンの暗部の者だ。ただ俺たちは実働部隊ではない。戦闘技術や隠密行動に関するスキルを教えていた教導隊だ」
チヨルカンの暗部教導隊……胡散臭くなってきましたわね。
難しい顔をしていたナルリアちゃんがカシムの顔をじーっと見ていると。
「――あ! この人だワタシにナイフや弓の扱いを教えてくれた人だ!」
そう言いました、カシムの方もナルリアちゃんを見て、驚いております。
「ナルリアか! 脱走した後どうなったか心配していたんだぞ」
「――あの後は奴隷商人に捕まって売られてしまったんだけどマナカが助けてくれて、今はマナカの奴隷をやってるんだぞ!」
やはり胸を張って自慢気に語りますわね。
自慢するような内容じゃないですのに……
「そ、そうか。だが元気で何よりだ」
「――なによりだ」
カシムは心底ほっとしたように話します、この方はどうやら暗部でもお人好しのようですわね。
「それでチヨルカンの暗部の方が何故ここに?」
「ああ、単純な話だ、チヨルカンのやろうとしてる事についていけなくなってな。元々厄介な事ばかりしている国ではあったが、あのブレイブスターを持つ男が国に来てからは更に酷いことになっているんだ」
「ブレイブスターというのは勇者の素質を持つ異世界人ですわね」
「ああ、そうだ。ヤツが来てからは魔物の軍団を作り出す計画や色々ヤバイ事に手を出しててな、暗部にすら知らされてない計画まであるようで、あのやり方についていけなくて脱走したんだ」
チヨルカンは前にもこの国にちょっかいをかけてきた国ですし、無視はできませんわね。
センネルといい隣国が両方とも胡散臭くなってきましたわね……
「マウナさん、この方々は保護しても良いと思いますわよ。カシムのナルリアちゃんを見たときの安堵した顔は本心からそう思っての事ですわ」
「――うん! カシムはワタシ達には優しかったぞ」
「わかりました」
マウナさんがカシム達の前に出ます。
「私はマウナ・ファーレ、この魔王領の代表です。貴方たちを保護しますが、しばらくは呪いをかけさせていただきます。完全に信用できるようなら呪いの解除はしますので安心してください」
マウナさんが保険をかけ承諾しましたわ。
カシム達も抗議などせず大人しくしております。
「わかった、確かに暗部なんて簡単には信用できないな。呪いは甘んじて受けよう。保護してくれたことに感謝する」
「そうですわ、あなた方にこの国での諜報員の育成をお願いしたいのですが? ちゃんとお給料も出しますわよ」
ワタクシ超思い付きで提案します。
ダークエルフ達ならきっと優秀な諜報員になりますわよー。
「別にかまわんが」
カシムもあっさり了承。
こうしてカシム達を保護したワタクシ達は、コルリスへ戻る準備とワタクシ達がいない間の指示を相談することにしましたわ。
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そして、コルリスに出発する日がやってまいりました。
次回で新章となります
10/18更新予定
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