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少し残念なお嬢様の異世界英雄譚  作者: 雛山
第三章 昇格試験と国の特産物
45/116

番外編其の二 1994 6/7

今回は番外編です


 

「はは、まさかこのような事になってしまうとはな」


 一人の男がそうつぶやいた、男の名は『米田 義臣(ヨネダ ヨシオミ)』海軍中尉。軍令部、第一部、第一課所属の軍人である。

 実家は農家であったが優秀な頭脳を見込まれて海軍兵学校に入学、優秀な成績で卒業し将来を有望視されていた、彼は今は軍令部の密命を受けて『駆逐艦早波』に乗艦していた。


「米田中尉、はやく避難を!」


 早波の乗組員が米田に避難を促していた、しかし人の良い米田はこれを拒否する。


「いや、私が先に逃げては下に示しがつかない」

「ですが、中尉はこの鑑の正式な乗組員ではありません!」

「それでもだ、いいから先にケガ人を避難させるんだ!」

「ですが……」

「ですがではない! 早くいけ!」

「ハ! 了解しました」


 米田の剣幕に乗り組み員は返事をし別の場所に救出活動に向かった。

 早波は今、アメリカ潜水艦『ハーダー』の攻撃を受け、今まさに沈もうとしていたところであった。


「あ号作戦へ向けての練度について調べるよう指示を受けていたが……自分でも戦場を見ておきたいと思い水無月の捜索に同乗させてもらったが、まさかこんな所でこんなことになってしまうとはな」


 周りは火の海となりつつあった、消火活動を続ける者、避難を誘導する者、その中に正規の乗り組み員ではない米田中尉も彼等に交じり避難活動を手伝っていた。


(潜水艦かやはり恐ろしいものだな……まさか一瞬で早波が沈められるとは)


もはや鑑同士の殴り合いの時代は終わったのだ、それでもそれを認められない者たちの多い事。


(誰も口には出さぬが日本は負ける、悔しいが仕方がない、あまりにも物量に差があり過ぎたのだ。

艦隊を運用にするにしてもあまりにも駆逐艦の数が足りない、これでは旗艦を守る事すらできない……しかもアメリカは潜水艦を随時投入しているという、その潜水艦が海域を巡回しているとなると……これでは練度を上げるなんて無理な事だ)


米田は消火活動をしながらそう考えていた、しかしその考えを打ち切るかのように強烈な衝撃が艦体を襲う、どこかが誘爆でもしたようだ。


悲鳴と共に新たな火の手が上がる、早波はもはや風前の灯火であろう、仲間の救援を期待することもできない状況へとなっている。


「ぐ!」


艦体の揺れに耐えられずバランスを崩して倒れこむ米田、倒れた拍子に足に激痛が走る。


「く! しまった、倒れた瞬間に足を捻ってしまったか! これではまともに動けん!」


揺れと共に船体が傾いているのが分かる絶体絶命の危機であった。

そしてそのすぐ後に三度目の衝撃、早波は傾きを増していった。


「何という事だ……避難はまだ全然できていないというのに」


周りでは必死に仲間を助けようとするものと、すでに諦めている者に分かれていた。

艦後部を先に沈みだす早波、その揺れと衝撃に足を捻った米田は踏ん張る事が出来ずに海に投げ出されてしまった。


「しまった!!」

(もはやこれまでか、自分の我儘で早波の乗り組み員にも軍令部の及川大将閣下にも迷惑をかけてしまったか……軽率であった)


海に投げ出された米田は必死に藻掻くが水を吸った軍服は重く、怪我によりまともに泳ぐこともできない。

早波の方も海に落ちた者の救援などしてる余裕も無い状態であった、この時米田は死を覚悟していた。


「あっけないものだな、人の生と言うものは」


米田は自身の身体から熱が消えていくのを感じていた、意識も徐々になくなっていく。


(ああ、最後に故郷の母が作るキノコ鍋を食べたかったな……)


こうして海に沈みながら米田は意識を手放した。


一九四四年 六月七日 

夕雲型駆逐艦早波 タウイタウイ沖金塊で潜水艦ハーダーと交戦し撃沈

()()()()が戦死 救助されたのはわずか四五名であったと記録されている





※作品用に書いたもので史実とは違う部分がございます。






次回は6/29更新予定

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