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べとべとさん(鴨)

作者: 麦酒

貰った感想に書かれていた事が、余りにも可愛かったので、思わず書きました

 べとべとさんと言う妖怪がいる、後ろから足音が聞こえるだけの無害な存在

「べとべとさんお先にどうぞ」と言えば消える、律儀な妖怪


 何故そんな話をしたかって?


俺が現在進行形でそれに追われているからだよ!




ペタ……ペタ……ペタ……


 なんで後ろから変な足音が付いて来るんだよ、後ろを振り向いても誰も居ないし


───べとべとさんなの?

そうならと……俺は立ち止まって手を合わせた


「べとべとさんお先にどうぞ、お先にどうぞ、お先にどうぞ……よしっ!」


べとべとさんなら、これで足音は消えるはず!



ペタ……ペタ……ペタ……


 行ってくれねー!このべとべとさん律儀じゃねー!



ペタ……ペタ……ペタ……


 だいたい真っ昼間に出てくるか普通!

幽霊か妖怪か知らないけど夜中に来いよ………嘘です、夜来られたら尊厳の危機だから来ないでください



ペタ……ペタ……ペタ……


 幻聴だと思いたい、でも……すれ違う人がみんな暖かい目で俺と後ろを見てるんだよな……


 やっぱり何か居るんだよね!

俺にだけ見えてないだけだよね!


 だって何人かはスマホで俺の写真撮ってるんだもん

ポーズ取りながら撮ってるけど


『まさかインスタ映えするの!?』



ペタ……ペタ……ペタ……


 足音は消えないし、相変わらず見えないけど……変化はあった

数人の観客(ギャラリー)が俺の後を付いて来ている……個人的にはべとべとさんが増えた気分だ

時々後ろの方から「かわいー♪」って声が聞こえるけど


『待って、べとべとさんって可愛いの!?』



ペタ……ペタ……ペタ……


 と言うか、なんで誰も助けてくれないんだ?

居るんだよね?俺の後ろにべとべとさん


なんでみんな俺を暖かい目で見るんだよ!

そんなに可愛いの、べとべとさん!


 あっ、信号が変わりそうだから急いで渡らなきゃ……って、駆け足で信号を渡ろうとしたら誰かに手を捕まれた!!


(ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!)

 心の中で絶叫を上げながらも、なけなしの自尊心で振り替えると、そこにはスマホ片手の女子高生が居た

あら可愛い、もしかしてべとべとさんですか?


「お兄さん、走ったら駄目」


「あっ、すいません」


 反射的に謝るけど、何で?

あっ、信号が赤になった


「そうだぞ、轢かれたらどうする?」


 今度はおっさんが優しい眼差しで声を掛けてきた……え?轢かれたらって、今俺が渡ってたら轢かれてたの!?

あなたはべとべとさんじゃないよな、だって可愛くないもの、予言をするって事はまさか(くだん)さんですか?

その腹はビール腹じゃなく牛のおっぱいですか!?


「えっと、あの……」


 いきなり女子高生とおっさんに話し掛けられ困惑してると、女子高生が信号を渡った先の池を指差した


「もう少しだから頑張ってね」


「にいちゃん、最後まで気を抜くんじゃねーぞ」


「あっハイ」


 池がゴールってどういう意味?

もしかして俺は入水しなきゃいけないの?



 オーケー、現状を整理しよう

俺はべとべとさんに憑かれたと思ったら、いつの間にか周りを知らない人に囲まれて、暖かい眼差しのまま池へと誘導されている



 『結論、ここは世にも奇妙な世界だ!!』



 逃げたいけど、左にはおっさんが黄色い旗持って待機してる、右は女子高生がスマホ持ってこっちを見てる、後ろにはキャーキャー言ってるギャラリー


 信号が青になると、おっさんが黄色い旗で先導し、女子高生は「ほらっ、歩いて」と(うなが)


───あーもーなんなんだよっ!

 気分はグリーンマイルを歩く囚人だよ、俺が何をしたって言うんだよタ○リ!?



ペタ……ペタ……ペタ……


 うん知ってた、女子高生は右に居るけど、後ろから足音が聞こえる。やっぱりまだ居るのね、べとべとさん


 誰だよ無害な妖怪って言った奴!

知らない人がオプションで付いて来て、暖かい眼差しで見られ続けるなんて怖過ぎるわっ!



「ねー、触ってもいい?」


 考え事をしてたからだろうか、いつの間にか子供が俺の前に居た

触るって何を?まさかべとべとさんを?

──止めなよ、お前も知らない人に暖かい眼差しで見られるようになるぞ!


困ってる俺を見かねたのか、すぐに母親らしき人が子供の手を握り俺の前から移動する


「ダメよ、怖がらせちゃうでしょ」


 はっはっはっ、この御婦人は何を言ってるのかな?


『現在進行形で怖がらせてるのは、後ろのべとべとさんとあんたらなんだけどな!?』




ペタ……ペタ……ペタ……


 遂に池の前まで来てしまった、いつの間にかおっさんと女子高生は居なくなっていたが、未だに後ろにべとべとさんとギャラリーは居る


 もしかしたら後ろに行ったのかも知れないが、振り向けない

さっきからパシャパシャとシャッターを切る音が鳴り止まないから、とてもじゃないけど振り向く勇気は無い


『つか、勝手に人を撮っちゃいけません!』



 それより池に入るにはどこがいいんだろ、この辺は池に入る前に泥で身動き出来なくなりそう

入水つもりは全くないが、後ろの眼差し隊が許さない気がするから、最悪泳いで逃げる為にも、足場がしっかりした場所を探さないと…


ポチャッ


「良かったー」

「無事到着だな」


 水音と共に、ワイワイガヤガヤと後ろから歓声が上がる、それはまるで子供のお遊戯会が終わった後の保護者会のような……


 俺はゆっくりと歩き出す、思った通りべとべとさんの足音が聞こえない、後ろの歓声はべとべとさんが池へ帰った歓声なのだろう……


──へー!べとべとさんって、池に住んでるんだ……



『カッパかよっ!?』


 え?俺の後ろにずっとカッパが居たの?

それは「かわいー」と言いたくなるよね!

今振り向けば見れるのかな?

いやいやいや、さっさと立ち去らないと、また眼差し隊に絡まれるかも知れない


 俺は足早にその場を後にした




三日後ネットニュースで、鴨と歩くサラリーマンの写真を見つけた

それからしばらくの間、会社や友達から暖かい眼差しで見られるようになった……


 どうやら、べとべとさんはまだ俺の後ろに居るようだ





教訓・後ろを見るときは足元まで見ましょう


by鴨

カッパって可愛いですよね

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