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〜平田くん〜 後編


平田くんの家はお世辞にも綺麗とは言えなかった。


というかこの家を俺は知っていた。よく遊びに行く通りにある空き家だった。木造で年季が入っている。


周りは草の根が這ったブロック屏に囲まれて、その間に家を囲むように裏まで細い砂利道が続いている。裏は庭かなんかなのだろう。


ガラガラガラ

引き戸の玄関を開けて中に入る。



「おばあちゃんいないみたい。」



玄関で平田くんが言った。たしかに俺ら以外の靴はない。


なかは薄暗いが綺麗だった。しっかりとした木で出来た廊下を進む。少し狭目の部屋に通されたがここ以外で遊ぶとおばあちゃんに怒られるのだそうだ。



平田くんはいろいろとゲームを出してきた。

P○P、D○、ゲームキュー◯。

ソフトも俺も持ってるものもある。


なんだ堅い家なのかと思ったけどこれなら俺も持ってくりゃよかったかな。


でも3人で遊べるのが少なかったせいか、少しして家を出て公園に行くことになった。

部屋を片付けて家の玄関に出てから俺は尿意を感じた。だいたいタイミング悪くおしっこにいきたくなるのはよくあることだった。


「あ、ごめん。トイレ借りていい?」

「廊下の右だよ」

「んだよー。さっきすませとけよなー」

「わりいわりい」



また引き戸の玄関を開けて中に入る。

ガラガラガラ


俺は早々と用を済ませてまた廊下に出るがトイレの裏には玄関から見えないように二階へと続く階段があった。


そしてそこにはかなり痩せた女の人が立っていた。年齢的に平田くんのお母さんだろう。




「あ、お、お邪魔してます。」


俺の挨拶には平田くんのお母さんは微笑んで何も言わない。


数秒して

「正太郎の友達?」


「あ、はい!外にもう1人いるんですけど遊びにきました」


「今度みんなで星を見ましょうね。」


どういうことだろう?

なにを言ってるのかわからなかった。


「おーい、行こうぜー!」


外からの吉木くんの声で我に返った俺は

もう一度挨拶して家を出た。お母さんは階段から動かなかった。


「あのさ、さっき、、」


「正太郎!こんな時間からもう遊びに行くのやめなさい!!」


俺の言葉を遮って砂利道から声がした。ヒラヒラな服を着たお婆ちゃんが立っていた。頭にはつばの広い帽子を被っている。


「え、でもまだ約束の時間じゃないよ」


「いいから家にもどりなさい!あんたらも今日はもう終わり!また今度遊んでやってね」


強引に平田くんは家に連れ戻されてしまった。

やっぱ平田くんの家は少し変わってるんだと思ったが、俺は吉木くんと帰りの途中にある駄菓子屋でラムネを買ってその日はもう帰った。




その日の翌日から平田くんは俺らを毎日のように呼ぶようになった。


でも吉木くんは少年野球で放課後遊べず俺もなんとなく用事を言って断っていた。が執拗に吉木くんには野球がいつ休みかきいていた。



そして数日後事件は起きた。



算数の授業中のことだった。



「なんで俺の教科書使ってんだよっ!」



吉木くんがいきなり叫んだ。全員後ろを振り返る。

吉木くんはかなり焦ったというかパニックで平田くんを掴みかかろうとしていた。


先生が仲裁に入る。



「こいつが勝手に教科書に名前書いてたんだよ!」



いまいち意味がわからなかったが、吉木くんが言うには昨日から算数の教科書がなく、家で気づいたときは学校にあると思っていた。


でも登校して机を見てもなく、授業になったら隣に見せてもらおうと思ったが平田くんが出してきたのは自分の教科書だったらしい。


どうやら落書きに見覚えがあって名前欄を見たら真っ黒に塗り潰され、「平田正太郎」と下に書かれていた。


よく見ると塗り潰された隙間から吉木の字が見えないこともない。


「名前間違えて書いちゃって、だからマジックで塗って書いたんです。」


平田くんが吉木を無視して先生に言う。

先生もわかってるのかなんとか認めさせようと


「でも、吉木ってここに書いてあるように見えるけど?」


「はい。だから「吉木あきら」って間違えて書いたので上から消しました。」


教室が一瞬シーンとなった。平田くんが平然と答えた声がこだましているような感覚に陥る。


「と、とりあえずこの教科書はあずかるから2人は授業が終わったら職員室に来なさい。」


先生もどうしたものかと結局机を離させて授業を続けた。


でもクラスの誰もがヒソヒソと平田くんについて話している。俺も隣の女の子から話しかけられた。


「ねぇ私見たの。」


「うん?」


「平田くんが吉木くんの雑巾になんか書いてそのまま自分のとこにぶらさげてた。」


雑巾は真ん中にでかでかと名前を書いて自分の椅子の足につけた洗濯バサミにつけるのが決まりになっていた。だが授業中いちばん後ろの席の彼らの椅子は見えなかった。


授業が終わると先生が2人のとこに行き、そのまま3人で教室を出た。吉木くんはさきほどまでの怒り顔と違って少し困惑している表情だった。平田くんの顔は見えなかった。


俺はすぐに教室のうしろに行き2人の椅子を確認した。たしかに吉木くんの椅子には雑巾がない。


そして平田くんの雑巾は折りたたまれてぶら下がっている。嫌な予感がしたが外してそれを広げてゾッとした。内側はやはり真っ黒だった。


マジックで何度も何度も繰り返し塗ったようになっている。反対側には「ひらた」と書いてあった。


俺に教えてくれた女子も見て驚いていた。


次の授業のとき吉木くんだけ帰ってきていた。

なんだか少し泣きそうな悲しそうな顔していた。


その日平田くんは教室には戻ってこなかった。

吉木くんは教室ではだんまりを決め込んでいたが帰り道俺にポツリとポツリと語りだした。


はじめは職員室で2人で話をきかれていたのだそうだが平田くんが


「吉木くんになりたい。」


と言いだしたのを皮切りに2人は別々の部屋に移動させられ担任からは


「平田くんは病気なの。許してやって。」


と言われたらしい。

吉木くんははじめこそ戸惑ったが怒鳴ってしまい可哀想なことをしたと思ったらしい。



次の日平田くんは学校に来なかった。

その次の日もその次の日も休んだ。

そして週が明けて先生から


「平田くんは家の都合で引っ越すことになった」


と伝えられた。クラス中もうよくわかっていなかったが、どうやら水曜日に引っ越すらしい。


俺と吉木くんは


あいつ変だったけどなんか可哀想だな


と思ったのともう半分は好奇心で放課後お別れを言いに行くことに決めた。クラスの友達にも話すと行けるやつは行くことになった。



だいたい10人いかないぐらいで平田くんの家に向かった。知ってるのは俺と吉木くんだけだったから先導していた。


平田くんの家が見えてきた。


家財とかを運んでいる様子はない。


俺がチャイムを鳴らすが誰も反応しない。


変だな、引っ越しは水曜って言ってたのに。


引き戸に手をかけるがカギがかかっている。



「ほんとにここかよ?」

「もう出てったんじゃねえの?」


他の連中がぼやき始めた。


「うーん、いねえのかな。裏まわってみっか?」


吉木くんが言いながら砂利道を進む。


家の裏もただの砂利道になっていた。裏の窓は雨戸が閉まっていた。


「あっ」


「どうした?」


「ソフト落ちてる」


ポ◯モンのソフトだった。


「こっちにもあんぞ!サル◯ッチュじゃん!」


家の裏には合計5本ゲームソフトが落ちていた。


「なぁこれもらってもいいかな笑」


馬鹿なことを言い出すやつもあらわれた。


「いや、これ平田のだろ?つか家の裏にソフトってな

んだよ笑」


「とりあえず使えるか確認してみんべー」

「だれかP◯Pもっとらんの?」

「D◯ならあるわ」


落ちてたソフトでD○で使えたのはポ○モンとパワ○ロだけだったので野球ゲームのほうを差し込んだ。


「これ濡れとんかな。つかんな。」

「いや、ついたついた」


1度目はダメでも何度かしたら動いたようだ。


「使えるやん!もらっとく?これデータもあるで」

「うわっ!!」


ゲーム機持ったやつが叫んだ。


俺たちは画面を覗きこむ。


そして叫び声の理由に気づく。


画面に映し出された異様な光景に

一気に血の気がひいた。




そこには選手として登録してあるものすべての名前が

「吉木あきら」になっていた。




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