Episode:64
◇Sylpha
授業が終わって、私は真っ先に図書館へと足を向けた。夕べは遅くなってからここへ着いたので、学年が違うタシュアとは、帰ってきてからまだ会っていない。
奥のテーブルに、見慣れた姿を見つける。
「――タシュア」
「お帰りなさい」
まるでちょっとどこかへ出掛けていただけのような言い方が、いかにもタシュアらしかった。
「これを、返そうと思って。――ありがとう、役に立った」
そう言って借りていたダガーを差し出す。使う機会はあまりなかったが、手元にあったお陰でとても安心だった。
――傍にタシュアがいるようで。
「そうですか、それはなによりでした。アヴァンではいろいろあったようですね」
「ああ」
どこからどう話していいか、わからないほどだ。
どう切り出そうか考えていると、タシュアが先に口を開いた。
「そう言えば、今回は珍しい格好をしたようですが」
「珍しい格好……?」
なんのことだろうか?
「パーティがあるとかで、ドレスを着たのでしょう?
スカートが苦手なあなたにしては、珍しいと思いますが?」
「……なっ、どっ、どうしてそれを?!」
突然言われてうろたえる。
「今朝、ルーフェイアとミルドレッドが、写影を持ってきてくれましたよ」
そう言ってタシュアが差し出した写影は、確かにあのアヴァンの屋敷でみんなで撮ったものだった。
薄紫のドレスを着た自分が、中央に浮かんでいる。
「だっ、ダメだっ! そんなの――!!」
慌てて手を伸ばす。こんな格好をしたものを、タシュアに持っていてもらいたくない。
「おっと」
だがタシュアのほうが一瞬早く、ひょいと写影を引っ込めた。
「あつつ……」
勢い余ってテーブルに顔から突っ込む。
「そんなに机が好きだとは、知りませんでしたよ」
「誰のせいだ!」
見ればタシュアの顔に、意地の悪い笑みが浮かんでいた。私の様子が、よほど面白かったらしい。
彼のいじめ癖は今に始まったことではないが、それにしてもどうしてこう、ひねくれているのだろう。
「それにしてもスカート嫌いのあなたがよく、ドレスを着る気になりましたね?」
「いや、それが実は……」
訊かれて、ナティエス以下後輩たちに、脱がされかかったことを話す。
正直あれがなければ、絶対に着なかった。
「おやおや、困った後輩たちですね」
口ではそう言っているが、話を聞いたタシュアは、完全におもしろがっていた。
目の前で同じことがあっても、ぜったいに止めてくれないだろう。それどころか、よけいに煽りそうだ。
「……何か言いたいのだろう?」
ついそんなことを口にする。