Episode:63
「ねぇ、これ……余ってる?」
「ん? ああ。知り合いの先輩に頼めば、何枚でも焼いてくれるよ」
「じゃぁ、ひとつ余計に……もらっても、いい?」
そう訊くと、シーモアがうなずいた。
「でも、どうするのさ?」
「えっと……タシュア先輩に、あげようと思って」
なんとなくだけどシルファ先輩、ドレスを着たなんて、言わない気がする。
――こんなに綺麗なのに。
透明な板――昔は球状だった――の中に浮かび上がる、ちょっと恥ずかしそうな先輩。いま見ても、薄紫のドレスはとっても似合ってる。
それを手にして立ち上がった。
「泣かされんなよ」
「だいじょうぶ、先輩……いい人だから」
突っ込むイマドにそう答えて、教室を出た。
少し離れた、先輩の教室のところまで行く。
――いるといいんだけど。
そっと入り口から覗きこむ。
けど、教室にあの銀髪の姿は見当たらなかった。授業はこれから始まるのに、さぼってどこかへ行ってしまったんだろうか?
「そんなところで、なにをしているのです?」
「――!」
突然後ろから声をかけられて、心臓が止まりそうになった。ほんとにこの先輩、全く気配がないから怖い。
「通行の邪魔ですよ。用事があるなら誰かに頼んで、廊下で待つべきでしょう」
「すみません……」
なんだかいきなり叱られる。
「それで、なんの用ですか?」
「え、あの……」
思わず萎縮して何も言えないでいたら、またもや後ろから声が飛んだ。
「えっとですねぇ、おみやげです〜♪」
嬌声の主は、もちろんミル。
――どっから湧いたんだろう?
しかもいきなりあたしの手から写影を奪って、タシュア先輩へと差し出す。
「おや、わざわざありがとうございます」
うそ……。
あっさりと受け取った先輩に、言葉が返せなかった。
きっと何か一言、言われると思ったのに。
「――素直に受け取るとは思っていなかった、とでも言いたげですね」
あたしの表情に気付いたらしくて、先輩がそんなことを言う。
「あ、いえ、そんなつもりじゃ……」
「後輩の好意を無駄にするほど、人間ができていないわけではありません。せっかくですからね、ありがたくいただきます」
あまりにも素直(?)な反応に、どう言っていいかわからない。それにどことなく言い訳めいて聞こえるの、気のせいだろうか?
ただ、迷惑がってるようにはみえないからほっとする。
「すみません、それだけで。本当はもう少し、着たんですけれど……先輩、写そうとすると、逃げちゃって」
「――シルファらしいですね。
さて、授業が始まりますから、あなたたちも教室へ戻りなさい」
「はい」
あの綺麗なシルファ先輩を、見せてあげられたのが嬉しくて、軽い足取りで教室へと戻った。