Episode:59
「彼らが全員無事に戻るまでは、僕はここにいますから」
あ? 全員ってなんだいそれ?
どうも調子狂うね。
だけど今は、のんびりしてられる状況じゃない。エレニア先輩が、殿下に促す。
「殿下……お心遣いはありがたいのですが、ここはファレル卿の仰る通り、先にお戻りください。その方が安全です」
「だが……」
まだ渋るとか、いったいどうなってんだか。
だいいちこっちが「戻れ」って説得するなんて、奇妙としか言いようがないじゃないか。
「殿下、私たちは全員、訓練を受けています。それもかなり高度なのを。ですから、ご心配なさらずに」
「………」
やっぱルーフェイア、殿下になんだか言ったらしい。で、殿下の方もお気に入りの美少女に言われたから、考え改めたんだろう。
――単純。
けどここまで変わるとか、いったいなんて言ったんだろね? まぁあとで落ちついたら聞いてみるかな。
ともかくこんなとこに長居してたら、ロクなことにはならないはずだ。スラムにいた時もそうだったけど、ヤバいとこからはさっさとズラかるに限る。
「ともかく行きましょう。長居は禁物です」
エレニア先輩も同じことを言って、暗がりの中、建物から急いで離れる。
中じゃ、何か騒動が始まったっぽかった。なんか聞こえた銃声は、ミルだろう。
ただ、次は予想外だった。あたしらが見てる前で、建物が崩れ出す。
「ちょっと待ちなよっ!」
思わずそう突っ込んだけど、それで崩れるのが止まるワケがない。ただ、2人ばっかし、人影が飛び出してきたのはわかった。
舞い上がる土煙を透かして、誰だか必死に見極める。
「ナティエス、ミルっ!!」
いつも一緒にいるんだ、すぐにわかる。
ざっと辺りを確かめたけど、敵はいなそうだったから、そっちへと走った。
「大丈夫かい?!」
「うん。ルーフェイアの魔法でね、なんでもなかった……あれ? よく考えたらシーモアも殿下も、なんでまだここにいるの?」
いや、こっちもさっさと帰る予定だったんだけどね。
んであたしが説明しようとしたんだけどさ、殿下の方が早かった。
「お前たちを残して逃げるのは、卑怯だと思っただけだ」
「殿下……熱、ありません?」
ナティエス、ナイスなリアクション。殿下の額に手をあてて、熱計ってるよ。
「あなたたち、それどころじゃないでしょう……」
「え? あっ!!」
どうも殿下の妙なペースに巻き込まれて、大事なことを忘れてた。
――シルファ先輩と、ルーフェイア。
無事だとは思うけどさ……。
だからあたしは、聞いてなかった。殿下とミルの会話を。