Episode:47
◇Sylpha
学院からの報告に、驚くしかなかった。
「あれが陽動、なのか?」
「ロアの話では、そのようです」
送られてきた資料を、全員で細かく見ていく。
「確かに素人が立てたにしては、この作戦は緻密過ぎるな。ロデスティオが裏についているほうが、よほど納得できる」
「そうですね。ロデスティオの軍も、2段構えで展開するようですし……」
それにしても、誘拐も爆弾テロも陽動の一部とは、あまりに大きすぎる規模だ。
「ねぇねぇ、どーゆーことなの? ミルちゃんわかんなぁい!」
とつぜんの、真後ろからのつんざくような嬌声に、耳が痛くなった。
――本当に状況を理解していないのだろうか?
かといってこのまま放っていおいては、延々と騒ぎつづけるかもしれない。だが私の説明で、果たしてミルが理解できるかどうか……。
どうしたものかとエレニアの方を見ると、彼女は「わかった」という風でうなずいた。
「静かにね。いま説明してあげるわ。
殿下とルーフェイアを攫ったのが、過激派の『神々の怒り』なのは、もういいわね?」
「うん、それは知ってる〜♪」
「そこがロデスティオと裏で手を組んで、クーデターを企んでるらしいわ」
「あ、そなの」
ミル……。
他のメンバーも絶句する。
「ちょっとあなた、『そなの』って……」
やはり呆れたエレニアが嗜めようとしたが、ミルのほうが一枚上だった。
「あれ、エレニア先輩知らないの? この国これでね、こういうクーデターまがいってしょっちゅうなんだ〜。
けど、ロデスティオと組むのは、初めてかなぁ? 行くとこまで行っちゃったみたい」
けろりとした顔で言い放つ。
「そう……なのか?」
「うん♪
アヴァンってけっこー古い国でしょ? だからね、そのデントーとかをまもろ〜!ってのと、そんなんいいから発展だ〜!ってのとが、しょっちゅうぶつかってるし」
「それは、知らなかったな……」
伝統に彩られた美しい国だとばかり思っていたが、内情はかなり複雑なようだ。
「……大人の考えることなんて、どこ行ってもくだらないね。まぁいいけどさ」
どういう過去があるのだろう、シーモアは斜に構えた調子で酷評する。
もっとも学院の生徒は、小さい頃に大人から酷い目に遭わされているのが大半だろうが。
「それで先輩、これからどうするんです?」
「殿下が攫われたことはまだ伏せられてるけど、一部の報道関係に、この資料を見ると手が回ってるわ。
そこから話が漏れるのは、時間の問題ね」
そうなったら、アヴァンの国民も報道も、すべての目がそちらを向くだろう。
当然だがそれ以外のところは、関心が薄くなる。
「殿下が監禁されていると分かれば、捜索と救出をしないわけにいかない。警察と軍が動く」
だがこの国は、軍の規模が小さい。今でも国境線の警備だけで手一杯なのに、両方問題なくやれるとは、とても思えなかった。