Episode:35
「ほう、こっちのお嬢ちゃんは、ものわかりがいいようだな」
別にそういうわけじゃない。できればさっさと倒して帰りたいとこだ。ただそんなことをしようものなら、殿下の安全が確保できなくなる。
なにがあっても、殿下を危険にさらすわけにはいかなかった。
考える。
敵の数は……けして少なくない。いま目の前にも数人いるし、物陰に隠れてさらに何人もが、こっちを取り囲んでるのが気配で分かる。
仕掛けられていたらしい爆弾といい、この人数の警護役が敵に回ってることといい、どうやら内通者がいたみたいだ。
「お前たち、なにをするつもりだ?」
いいタイミングで殿下がした質問の、答えに耳をそばだてる。
「上手く殿下にお会いできたので、ご招待しようかと思いまして。ご同行願えますか?」
微妙な言い回しだった。偶然遭遇したとも、最初から狙っていたとも、どちらとも取れる。
「断ったら、どうなる?」
「その場合はここで、お休みいただくことになりますね。
もっともあの爆発を首尾よく回避された殿下なら、そんな愚かなことは、なさらないと思いますが」
危険だ、と思う。この言い方から見るかぎり、この敵は殿下の生死を、さほど気にしてない。
首尾よく攫えればOK、ダメなら亡き者に、というところだろう。
応援も、期待できそうになかった。包囲網が厚くて、先輩たちがここまで突破できるとは思えない。それどころかあの爆発――どう考えても会場は大惨事――に、巻き込まれた可能性もある。
殿下の身の安全のためにはけっきょく、ここは従うしかなさそうだった。
でも、ひとりで行かせるわけには……。
「さ、ご同行願えますか?」
銃口は向けたまま、男たちが殿下を両脇から挟む。
「リーダー、この嬢ちゃんはどうします?」
「喋られたら困る。始末しておけ」
思ったとおりの展開だ。
ここからどう、上手く持っていくか、それを必死に考える。
「その子を、殺すのか?」
「殿下には関係ないことかと」
答える男に、殿下が意外なことを言った。
「彼女はユリアスから招かれている。下手に手を出せば、国際問題だぞ」
「……」
この脅しは、効いたみたいだった。どこの誰かは分からないけど、さすがに外国とはコトを構えたくないらしい。
「やむを得ん、お嬢ちゃんも一緒に来てもらおう」
男の言葉に黙って従う。殿下の機転で付いていけるのだから、文句なんてなかった。
でも、全く何にもせずに、連れて行かれる気はない。男たちに気づかれないように呪文を唱えて、放つ。
殿下を巻き込めないから誘拐犯相手には使えないけど、魔法の使い道はそれだけじゃない。