Episode:33
きらびやかな屋内。
南側の庭に面したこの大広間は、透き通ったガラスがふんだんに使われてた。日中はそれに日の光が反射して、とてもきれいだっていう。
でも今はもう夕暮れを過ぎているから、代わりに無数の灯りの光が反射して、複雑に煌いていた。
「それを着てくれたんだな」
「え? あ、はい」
実はあたしが着てるドレス、自分の持ち物じゃない。いったいどういう風の吹き回しか、殿下が届けてくれた。
本当を言えば、それなりに戦闘に耐えるようになってる、自分のもののほうがいい。でも殿下の好意を無にするわけにもいかなくて、結局着ることにした。
ただ殿下の持ち物なだけあって、超一級品みたいだ。
形は裾が広がったオーソドックスなものだけど、トーンの違う薄翠の透ける布を幾つも重ねて、花びらみたいに仕立ててある。
しかもよく見ると、似たような色で細かい刺繍までされてるし、宝石も幾つもあしらわれてた。
――あしらいすぎてて、裾とか宝石、どこかに引っ掛けそう。
もし戦闘になったら、満足に動けないんじゃないだろうか? けど自分のじゃないから、切り落としたりできないし……。
「意外と似合うな。死んだ姉のものなんだが」
「――あ、えっと、ありがとうございます」
不意に殿下から声をかけられて、慌てて答える。
けどなくなったお姉さんのものを赤の他人に着せたりして、構わないんだろうか? 確かにクローゼットの奥で眠らせておくには、もったいないと思うけど。
ときどき周囲から声をかけられては、それに答える殿下の後ろについて、光と彫刻とに彩られた屋内を歩く。
やがて殿下は屋外へ出た。
この庭は広間から簡単に出られることもあって、いくつもテーブルが用意してある。
でもあたし自身は、気が気じゃなかった。
どう考えても屋外の方が、警備は甘い。学校でのこともあるし、こんなところに長時間いたら何が起こるか知れなかった。
それなのに殿下、テーブルの上からグラスを一つ取ると、奥の木立のほうへと歩いていく。
「殿下、お待ちください。危険過ぎます!」
「少しだけならいいだろう?」
警告しても取り合おうとしない。
「先日のこともあります。せめて屋内へ戻っていただけませんか?」
「――それなら、この質問にだけ答えてもらえないか?」
「質問、ですか? わかりました」
殿下が戻ってくれるなら、とりあえずなんでもいい。
「君は、どこの家のものだ? どう考えても庶民とは思えないからな。
――まぁ、アヴァン国内じゃなさそうだが」
「え……」
さすがに答えに詰まる。