Episode:32
「素敵な、プレゼントですね」
「ああ」
そのまま2人で黙ってしまう。
シルファ先輩はとても口数が多いとは言えないし、あたしもミルやナティエスのようには喋れないのだから、当然といえば当然だ。
けど、こうしてるのは嫌いじゃなかった。
手にしているグラスの中身を飲みながら、なんとなく暖かい雰囲気に浸る。
「ルーフェイア、ここだったのか」
それを破ったのは、シーモアの声だった。
彼女が着ているのは、銀色のドレス。袖なしで、前合わせのちょっと見かけないデザイン――誰がこんなの作らせたんだろう?――で、身体にぴったりとはりついている。
髪も結い上げてるから、まるで別人みたいだ。
「なに?」
「いや、また殿下があんたお呼びだから、探しに来たのさ」
「また……?」
どう考えても多すぎないだろうか?
「ともかく、行ってくれないか? あたしらじゃ、てんでダメらしいからね、あの殿下は」
「あ、うん。
えっと先輩、ちょっと失礼します」
「気をつけるんだぞ」
シルファ先輩の声を背中に、シーモアに先導される格好で会場を横切る。
エレニア先輩といっしょにいた殿下が、あたしたちを見つけて近づいてきた。
「ルーフェイア、時間はあるのか?」
「あ、はい。殿下のお傍にいるのが、任務ですから」
時間も何も、このためにいるとしか言いようがない。
「そうだったな。ちょっと一緒に来てくれないか?
――他の者は少し、下がってもらいたいんだが」
「それは承諾しかねます」
エレニア先輩――ハイネックに、裾だけ広がったデザインのドレス、すごく似合ってる――が即座に反対した。
それもそうだろう。何かあった時に護衛があたしひとりでは、殿下をかばいきれないかもしれない。
でも殿下、そのくらいじゃびくともしなかった。
「それならお前たちへの依頼を、解消するだけだ。行くぞ」
こう言われたら、やりようがない。エレニア先輩が歯噛みをしているのが分かる。
ただその時、目があったミルがウインクした。そして彼女、小さく手を振る。
――そうか。
いったいどうしたわけか、ミルはこの会場の構造に詳しかった。おそらくこっそり、付いてきてくれるつもりなんだろう。
彼女がどうにかしてくれることを祈りながら、殿下と一緒に会場を歩く。
きらびやかな屋内。
南側の庭に面したこの大広間は、透き通ったガラスがふんだんに使われてた。日中はそれに日の光が反射して、とてもきれいだっていう。
ただ今はもう夕暮れを過ぎているから、代わりに無数の灯りの光が反射して、やっぱり複雑に煌いていた。