Episode:31 策略
◇Rufeir
こんな会場にでるなんて、久しぶりだった。
立食式の会場は、たくさんの着飾った人々で賑わっている。
――この黒いつぶつぶののったパン、おいしい♪
ただ今日は幸いにも、あたしを知ってる人はほとんどどいない。いわばアヴァン国内の内輪だし、一方であたしはごくたまに財界関係に顔を出す程度だから、面識がない人ばかりだ。
殿下には今は、エレニア先輩とミル(!)がついてくれてる。いずれにせよ会場の内外はかなり厳しく警護されてるから、あとは誰かが殿下に張り付いていれば、ほぼ大丈夫だろう。
もっとも油断はできないから、残りのメンバーも遠巻きにするようにして気を配ってはいた。
――あ♪
シルファ先輩の後ろ姿をみつける。ナティエスたちが選んだ薄紫のドレスが、とてもよく似合っていた。
タシュア先輩が見たら、なんて言うだろうか?
あたしだけ綺麗な先輩を見て、申し訳ないような気がする。
「――シルファ先輩」
「あ、ルーフェイアか」
声をかけると、先輩が振り向いた。
――あれ?
よく見ると先輩、最初にナティエスたちが選んでいたのとは違うアクセサリーを付けている。
銀の鎖にさがる――これは水晶だろうか? 綺麗な結晶の形をしていて、滅多にお目にかかれないほどの透明度だった。
「先輩、そのペンダント……?」
「え? ああ……そういえば、折角ルーフェイアが用意してくれたのを、付けなかったな。すまない」
「あれはどうせ、ありあわせですから。
――これ、水晶ですよね?」
近づいてみても、傷ひとつ見当たらない。結晶の内部も完全な透明だ。
「こんなに透明度が高いの、珍しいですけど……どうしたんですか?」
掃いて捨てるほど――ほんと、困るだけ――あるうちのアクセサリーの中にも、これだけ透き通ったクリスタルはあまりないだろう。
「これか? タシュアが、くれたんだ」
「えぇっ!」
思わず声をあげる。
「そんなに、意外か?」
「え、あ、別にその、あっちゃいけないとかは……けど、でも……」
どう取り繕ったらいいのか分からない。
けどシルファ先輩、そんなあたしを見て笑っただけだった。
「信じられないだろうな」
「はい……」
あの毒舌によらず、意外にもタシュア先輩が優しいのは、あたしも知ってる。けど、まさかプレゼントをするとは思わなかった。
「誕生日に……もらったんだ」
そう言ってシルファ先輩が、水晶を握り締める。
――不思議な表情。
うっとりとしているのに、どこかに遠い昔の寂しさが混ざっている。
でも、この学院でこの表情をする人は多い。
孤児故に、何も持たずに育った。それがこの学院へ来て年数を重ねて、やっと信じられるものを手にして……そんな時にみんな、この表情を見せる。
シルファ先輩も他の生徒の多くと同じように、早くに両親をなくしたと聞いていた。だから多分、学院へ来る前はいろいろ苦労したんだろう。
そのまま幸せになって欲しいと、願わずにはいられない表情だった。