Episode:23
ローム末期は、当時の中心地だったローム大陸が、大規模な魔獣雨――何百年かに一度、魔獣が空から大挙して振ってくる現象――でほぼ壊滅したのもあって、かなり資料が少ない。ただ周辺国では、こうして時々ロームから逃れてきた人たちの書き残した資料が、見つかることがある。
当然、ものすごく貴重な資料だ。
しかもこれを書いた人は、けっこう事情通だったみたいで、今まであまり知られていなかったことが詳しく書いてある。
「……てくれないか?」
「えっ?」
殿下には申し訳ないけど、資料に夢中でまったく聞いていなかった。
「そんなに面白かったのか」
「すみません……」
この殿下、最初の印象と違って、意外と気さくだ。こんな無礼なことをしても、怒ったりしない。
「別に構わん。
それより先日のこともあったから、できれば建国祭の間も、警護を頼みたい。出来るか?」
「警護の追加、ですか?」
確かにあんなことがあれば、そう思うのは無理もないだろう。
でも、あたしに言われても……。
「あの、ちょっと、お待ち下さい」
隅っこのほうで手持ち無沙汰にしてる、シルファ先輩のところへ行く。
「えっと、先輩、今の話……」
「ああ、聞いた。だがここでは答えられないな」
言いながら、先輩が立ち上がった。
「殿下、今のお話の件ですが、それをするには……」
「細かいことはいい。出来るのか、出来ないのか?」
殿下の言い方に、シルファ先輩がちょっとだけ「やれやれ」って顔をする。
「ですから殿下、ここで決められることではありません。私に決定権はありませんし、そもそも依頼がなければムリです。
お父上かどなたか、ともかく学院への依頼をまず出していただかないと」
「つまり、依頼を出せばいいのだな。分かった、父から学院に要請してもらう」
殿下はさらっと言ったけど、そんな簡単にいくんだろうか?
派遣を延長したら、またお金が動く。その分はあたりまえだけど、殿下じゃなくて国が払うわけで……。
ただ殿下が危険に晒されたのは事実だから、その理由で押せば、通るのかもしれない。
「今から父のところへ行ってくる。
――そうだ、その資料だが、ここにいる間は持っていてもいいぞ」
そう言って殿下は、さっそく部屋を出ていった。
◇あとがき◇
新作を読んでくださって、ありがとうございます。いつもどおり、“夜8時過ぎ”の更新です。
この話から少し路線が変わり、本来の?シリーズらしくなります。
感想・批評大歓迎です。一言でもお気軽にどうぞ。