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「円道周一さん・・・あなたは、運命を信じますか?」
あの日。あの出来事が起こる前に見た夢。幻想的な夢。彼女に言われた言葉。
可愛くて、とても優しそうで、だがどこか悲しそうな顔をしていた。まるで女神の様な純白のミニスカドレスを着た金髪の女性。
・・・なんて答えたっけか?
・・・そうだ・・・俺は。
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ガンッ!!
「**、***」
周一を拘束している台座を蹴る金属音が響き、痩せた兵士が声をかける。
「・・・あぁ゛?」
寝ていたところを起こされ、目を開けたらそこには鎧を着たおっさんが2人が俺の事を見つめていました。目と目が合・・・わせたくないので、すぐに顔を見せないように反対側に向け、すごく嫌な顔をしながらおっさん達にも聞こえるようにため息をした。
(ああ、そうだった。俺、捕まってた)
周一は寝る前の状況を思い出した。
(目を開けたらおっさんだもんなぁ~。せめてさっきの金髪美少女が「助けに来たよっ!」って展開だったら俺は歓喜余って涙をこぼしていただろうに・・・いや、知らない奴を助けに来ることは無いかぁ。ってか捕まってたし・・・無いかぁ~)
今までの事を思い出しながらあり得ないと解っている妄想をして、現実に戻る。
「***********」
「***、**********」
兵士達が何か話していたがやっぱり言葉が理解出来ない。
話し声が止むと兵士たちは周一の拘束を解いていく。
(何だ?釈放か?)
周一は拘束されていた台座から降りて立ちあがる。解放された気分に顔が少し緩み、体を軽く動かして解放感に浸っていた・・が、兵士達が周一の両手を掴み、すぐに後ろに組まされた後・・・
ガシャン。
「は?」
【周一は手錠を嵌められてしまった】
両手首に嵌められたものをジッと見て、時が止まったかのように思考停止に至った後、結論が出る。
(ああ・・・違うのね)
と、虚しく現実を受け入れた。
突然背中を押され、振り返ると兵士が顎を突き出す様に軽く振った。どうやら牢屋から出ろと伝えているようだ。
「わーったよ」
伝わるとは思って無いが了承の言葉を言ってから兵士に従い、牢屋の外に出る。
牢屋から出た後、どうなるかは解らないが何かしらのイベントは起こるはず。これは少なくとも進展ではある。牢屋にずっといても何も始まらないし動けない。ここからは俺の選択次第で良くも悪くもなるだろう。また牢屋に逆戻りという事だけは絶対に避けなければならない。だからここで暴れ逃げようなどは絶対にしてはいけない。
「*****」
牢屋を出た後、この場所の出口であろう階段側に居る兵士が階段の方を指さしながら俺に何か言ったが、わからん。日本語で喋ってくれないか?と言いたくなる。
まぁ解らなくてもこうゆうのは状況で察すればどうにかなる。ファンタジー的な展開ではここは「ついて来い」だな。
軽く頷き、兵士に理解の合図を送る。そして前の兵士がその合図を理解したのか頷き返し、出口であろう階段へ向かって歩き出す。それに付いていこうと俺も足を動かそうとするが、ふと金髪少女の事を思い出して足を止めて、少女が連れて行かれた階段の反対側に首だけを振り返させて見る。
(そういや。あいつは日本語喋ってたよな?・・・って何だあのドア?)
見た先には俺が閉じ込められていた牢屋とは明らかに違うごつい異様な鉄の扉があった。異様な部分、うす暗くて色は解らないが扉の中心に玉が嵌められており、そこを中心に鉄の扉を覆う程の模様が浮き出ていた。あの時の閉まる音を出せそうなのは周りを見た限りではあれくらいしか無いだろう。
(あれって・・・っとと。わーってるっての!)
気になって見ていると、また後ろにいたあのおっさん兵士に押されたので声には出さないがイラッとしたので睨みつけた後、仕方なく階段に向かって行く。
階段を登り終えると石造りで出来た城の様なかなり幅広い通路に出た。兵士を追うように歩き続けるとと今度は屋外、これまた中々の広さがある訓練場の様な場所に出る・・・ここ、広すぎるだろ。
そこには兵士達が訓練をしている姿、軽く空を見上げれば「ここは城内です」と言われなくてもすぐ解る光景だった。だが目的地はここでは無いらしくまた屋内の通路に入って行く。
(はぁ・・・本当に異世界なんだな。あれだ。ここはよくある剣と魔法の世界ってやつだ)
確信したのは他でも無い、兵士達の訓練場景だった。色のついた水晶の玉、それを装飾とした杖や剣を兵士達がそれぞれ持っていた。そして何かを呟き、突如出現させた魔法陣からの魔法を放ったりや剣に魔法を纏わせていたりとまさにファンタジーだった。
屋内に入ってからしばらく歩くとゲームの城にあるような左右とも開けられる大きな扉とその前に立つ2人の兵士が見えた。
「*****」
扉の前に来たところで前に歩いていた兵士が振り返り、掌を指を揃えて手前に軽く出して何か喋る。それを見て周一は立ち止まる。周一が居た世界でよく使われている仕草、[待て]という手を使った表現だった。
立ち止まった俺を見た兵士は軽く頷き、扉前の兵士達と会話をし始める。
(さっきもそうだったが、こうゆう動作の表現はこの異世界でも同じなのか?日本と同じなら助かるけどな)
おっさん兵士が顎で[出ろ]と表現した時の事、兵士の[ついて来い]と言う手の動きの事、牢屋から出た時にした頷きを兵士も相槌するかのように頷き返した事を思い出す。
周一の世界では国ごとで仕草の意味が異なる場合がある。例えば日本では良い表現でも、別の国では全く違ったり、反対の意味だったりする場合がある。日本と同じであれば言葉が交わせなくても何とかなるかもしれないと周一は思った。
兵士達の話が終わったのか、右扉の前にいた兵士が扉をノックの様に強く叩き、右扉を軽く開け、中に少しだけ入る。開いた扉からは少しざわついた様な声が聞こえた。
「***************」
と、ノックをした兵士は何言ってるか解らないが大きな声で喋っている。その声にざわついた声が静まり始める。
「**、****。*******」
「**」
静寂の中、奥から聞こえてきた相手の声に応答したかのように声を出し、周一をここまで連れてきた2人が周一を扉の前まで誘導して周一の後ろに立つと、扉前の兵士2人が両方の大きな扉を開けた。
「***」
奥からの声は周一に呼びかけているようだった。
立ち止まっている俺の背中が軽く押された。どっちの兵士が押したかは解らないが入れと言うことらしい。選択権は無いので従う事にする。
そして、入ったその場所は様々な格好をした老若男女達が部屋の壁付近にずらっと立っていた。そして俺の目先には偉そうな椅子に座っている王と王子らしき姿が佇んでいた。