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永遠の約束 永遠の旅 -とわのやくそく とわのたび-  作者: 風翔 響
第1部:エレメンタニア
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1-1 異世界は檻の中から

(ここは・・・何処だ・・・?)


 仰向けに寝ている体を動かそうとするが何かに固定されているのか体が動かない。せいぜい動かせるのは首を左右に向けれるぐらいだ。

 黒髪天然パーマの青年、円道周一えんどう しゅういちは朦朧とした意識の中で首と目だけを動かして辺りを見渡し、現状を把握しようとする。

 周りは分厚そうな石壁に鉄格子の小さな吹き抜け。入り口は扉の様な物がある鉄柵。その傍に立つ剣と鎧を身に付けた兵士の格好をした人が2人と上り階段の様な石段が辛うじて見えた。灯りは天井にランプの様な物が何個かぶら下がっているだけだが意外に結構明るい。もう一度、手足を動かしてみようとしたがどうやらこの感触からして鉄製のベットについてる手足の枷で動かせないみたいだ。 このぐらいの情報があれば現状を把握する事は十分だった。


(何でファンタジーっぽい牢屋に捕まってるんだ?俺は、さっきまで・・・)


 そこはファンタジー世界の良くある牢屋そのものだった。牢屋の入り口にいる兵士達がその証拠だ。そもそも今の時代にこんな恰好した警察や看守なんていないからだ。

 だが、現状を把握してもどうしてこんな場所にいるのかが理解出来なかった。

 だんだんと意識もはっきりしてきたので頭を胴の方に少しだけ向けて体の確認をする。

 服はボロボロで体の所々に血で染まった破れた布のような物が残っているだけといった感じだ。だが痛みは無い。それどころか服にこれだけの血が染みついているのに傷の痕跡が見える範囲では見当たらない。それに・・・いつも傍に居るはずのあいつも居ない。


(あいつが居ない事はまあ・・・この状況だ。おおよそ察しが付く。俺があいつを手放すはずが無いからな。無くすなんて事は絶対無い。・・・それにしても俺も大概ファンタジーだな。結構ボロボロだってのに乳首と下半身が見事に守られていやがる)


 現状の印象よりも見事に恥部だけがまるで何かに配慮されているかのように服の布が残っている事に周一は驚いていた。


(さてと。どうすっかな・・・)


 大体の状況を把握出来たところで、ここは漫画の主人公みたいに何か声を出して外に居る看守にでも気付いて貰うというのが定番と言うか普通なのだろう。だが、


(声出してアニメみたいなご都合展開になるとは思えないよな。だって俺、今こんなんだしな。少なくとも気付かれたら面倒な事になるのだけは予想できるよな・・・。とりあえず、現状維持だな)


 と、思考が過ぎったために兵士たちに聞こえないように静かに息を吐いて、先の事を考えるのを止めた。とりあえず天井を見つめていると入り口にいる兵士達が会話をし始めたのでそのままの状態で耳を傾ける。


「・・*********」

(は?)


 聞き覚えの無い発音に戸惑い、上手く聞き取れなかっただけだと思ったが、


「********************」


 会話は続いていたために思い込む事が出来なくなった。


(・・何語だ?多分どこの言葉でも無いよな?まぁ俺、日本語しか話せないからどの言語にしろ解らないんだけどなっ)


 心の中で何故かドヤ顔を決める周一。

 そして今解る情報にまた1つ、ここは日本語が通じないであろうという事。

 一応念のために解る言葉があるかも知れないと思い、それからも話しを聞き続けたが時々ニヤけた声で話しているぐらいしか解らなかった。

 しばらくすると階段から複数の上る足音と鎧のカシャカシャした音が聞こえてきた。入り口にいた兵士達は「***」「*******」とまた解らない言葉で喋っていた。


(ファンタジー牢屋に言葉が解らない、か。・・・アレだな。ありがちなアレだよな)


 周一は自分が今持っている情報とアニメやライトノベル小説の定番な内容に酷似している事でほぼ確信に至った。異世界語。自国の言語が全く通じない。もしくは言葉は通じるが文字が違う。もしかしたら言葉も文字も通じないかもしれない。ご都合展開があれば言語習得出来る何かあるだろうが、現実そう上手くは行かない事は周一自身が解っている事だ。


「はぁ~~。異世界かぁ・・・」


 言葉が通じないという不安が過ぎったせいか、周一は気付かれたら面倒になると考えていた事も忘れ、兵士達にも聞こえるようなため息を吐いて無意識に声が出してしまう。


「いすぇかうぃ!?」


 その声に反応するかのように、変な発音の大きな声と共にガシャンと金属の音が響いた。

 周一は大きな声が聞こえた方、牢屋の入り口の方に顔を向ける。良くある展開なら兵士が「うるせーぞ!静かにしろ!」的な事で音を立てたのかと思っていたのだが、音をたてたのは入り口の兵士達でも階段から来た太った兵士や細い兵士、ローブを着た男でもなかった。


 そこには金色の髪が腰より下に伸びていて、胸は大き過ぎず小さすぎずといった程良い大きさ。胸の部分にネックタイプの白いキャミソールの紐を結んで出来た大きなリボン。水色のラッフルスカートに白と黒のボーダーニーソックス。歳は15から18といったところだろう。いかにも異世界の物語に出てきそうなヒロインの格好だ。

 そんなアニメにありがちな金髪の美少女が周一が居る牢屋の鉄柵を手で掴んでいたのだ。 

 しばらくの間、時間が止まったかのように俺と少女は見つめ合っていた。急な行動をした少女を兵士たちが金髪の少女の腕を掴み引き離そうとしているが少女は抵抗をして手を離そうとしない。


「あぅ・・・あにゃ・・た・は・・・」


 少女は抵抗しながら慣れていない日本語で周一に話しかけようとしていた。


(今・・・日本語で!?)


 驚きを隠せなかった。

 目が覚めてから兵士達の理解不能な言葉の会話しか聞いていなかったため、ここに日本語を話せる奴なんていないだろうと勝手に思い込んでいたからだ。


「*********」


 兵士たちの後ろにいたローブの男が掌を少女に向けて何かを呟きだした。

 鉄柵から少女を引きはがそうとしていた兵士達は少女の腕を掴んだ状態のまま少女から少し距離を取った。そして掌の前に黒紫の塊がもやもやとしたものを出したローブの男は、それを飛ばして少女の体に当てた。

 塊を当てられた少女は鉄柵を掴んでいた手が離れそのまま気を失う様に倒れ込んだ。

 倒れた少女を見ると、口からよだれを流して「すぅーすぅー」と呼吸の音が聞こえた。どうやら眠ってしまったようだ。

 少女の言葉を最後まで聞くことが出来なかったが、美少女がよだれを流して寝るなんて物語のヒロインだったら大事な何かを失ったんじゃないのかと思った。


「********」


 ローブの男が俺が居る牢屋を看守していた兵士に命令するかの様に喋り、何か文句を言うかのようにブツブツと言いながらその兵士は少女をお姫様抱っこで抱えて奥へ行き、しばらくしてバタンと大きな音がした。どうやらどこかの牢屋に入れられたようだ。

 そしてその場にいた兵士達とローブの男が俺を少し見てから何か話し始めた。その後、太った兵士と細い兵士、ローブの男の3人が階段を上って行った。

 起きている事に気付いたのに牢屋から出して貰える雰囲気で無かった事を察していた周一は天井に顔の向きを戻し、しばらく見つめながら思った。


(・・・異世界で訳ありな美少女の出会い、異世界物の良くある展開だ)


 よだれ出てたけど。


 周一はよだれが出ていた少女の顔を思い浮かべる。


(そんなベタなイベントが展開されるのは嬉しいよ)


 抱っこされて、よだれが垂れ落ちてたけど。


 周一は兵士にお姫様抱っこされて、よだれが垂らしながら連れて行かれたよだれ美少女の顔を思い浮かべる。心の言葉には出さなかったがどうしても、よだれの印象が強く残っていた。


(そういう話が好きで異世界系のラノベやアニメに嵌ってた訳だし)


 周一はよだ・・・


(ただっ!何でっ!!よりにもよってっ!!!)


(牢屋スタートなんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?)


 周一はよ・・・現状の悔しさを心の中で叫んだ。


(何も出来ないじゃん!?何も始まらなないじゃん!!俺の異世界物語ファンタジーストーリーっ!!!)


 とりあえず叫びたい事を心の中で済ませ、冷静になる。


(とりあえず・・・マジで何も出来ないし、寝るか)


 そしてゆっくりと目を閉じた。

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