プロローグ
「円道周一さん」
この世界に来てからそう呼ばれたのは初めてだ。
心地よい風に草木が揺れる音。月と星が夜空に光り、丘から少し下を見下ろすと灯りが灯った島々が浮いて、風によって桜の花弁が舞うまさに幻想的な光景。その丘に立つ黒のシャツとズボンと赤のジャケット、手に黒のグローブと右腕に銀色の腕輪を嵌めている黒髪天然パーマの青年、円道周一。 そして周一の前方にはもう一人、金色の髪が腰の辺りまで伸びている緑色のミニスカドレスを身に纏った少女が立っていた。月の光のおかげか、少女の姿がより一層綺麗に視えた。
どういう状況か流れを簡単に説明すると、この美少女に無理や・・・本人が言うには秘密の場所で話したい事があるから付き合って欲しいと言う事になって、この丘で俺の過去話をする事になって、そして今に至るわけなのだが・・・。
「ううん・・・シュウイチ。お願いがあるの」
周一の方に振り返り、名前を呼び直す金髪の少女。その瞳はとても真剣で、周一だけを見ていた。
「・・・はぁ。ここまで連れ出して、俺の話をさせて、んで結局2人きりで話したい内容ってのはさっきの話か?だったら答えは」
「違うよ」
周一はため息を吐いて頭を掻きながら答えようとすると、少女の首を横に軽く振った否定の答えが遮った。
「城でお願いした事は国を守ろうとする 英雄姫 としての私の建前。みんなが私を希望の象徴として慕ってくれてるからこそ、失望させるような事はしたくないから・・・」
少女は胸の前に両手をまるで祈るかのように指を絡ませて握って答えた。
「それに、2人きりで話してないでしょ?」
2人じゃないという言葉は周一にではなく、周一の右腕にある銀色の腕輪に向けられた言葉だった。少女のその言葉に周一の口元が緩んだ。
「・・・んで、お願いってのは?」
その顔を見た少女はクスッと笑い、今度は両手を体の後ろに組んでゆっくりと周一の方へ歩いて近づき、目の前で止まるとじっと覗くように周一の顔を見つめる。
そして、
「シュウイチ」
名前を呼び、少女が意を決したかの様な顔になる。
「私のための勇者になって」
その言葉に俺の・・・俺達の物語が始まる予感がした。