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ダンジョンを進んでいく周一達。5分も歩かない内に少し盛り上がった丘の様な場所に辿りつくと第5層を降りる階段・・・ではなく魔法陣があった。その魔法陣に入った瞬間、気付けば先程の第5層で見た光の柱の中にいた。光の柱から出ると、そこは使われなくなった祭壇の様な雰囲気のある場所。そして目の先には広大な森が広がっていた。後ろを見るとあの光の柱、どうやらこれが層ごとのスタート地点の目印の様な物だと解った。アイリスに聞いたところ、この光に入り直せば先程の第5層に戻れるという事らしい。これなら迷ったとしてもこれを目印にすれば帰る事が出来る。なんとも優しい事で。
そしてアイリス達に案内される様に第7層への魔法陣、そして第7層もまた森。気付けば第8層、またも森を抜け、そしてあっと言う間に第9層の魔法陣の目の前まで来ていた。
「なぁ・・・ちょっといいかお前ら」
「どうしたの?シュウイチさん?」
周一は真剣な表情で魔法陣の中へと入ろうとした全員を引き留める。
「やだねぇアイリス。俺の現状知ってるでしょ?」
「えっ?えっと・・・」
アイリスは美遊達の方を向くがカルド達は息の合っているかのように同時に首を振り、美遊は呆れたようにため息を吐いた。
「金だよっ!!お金っっ!!!マネエッッッ!!!!」
「え、えぇ~・・・私に言われても・・・」
モンスターを倒してお金ガッポリ作戦を決行しようにもモンスターが1匹も出てきやしねぇっ!どうなってんのこのダンジョンはっ!!
アイリスは助けを求める様に困った顔で美遊を見る。仕方なくと言った感じで美遊は答え始めた。
「円道さん。魔物を倒してもお金は出て来ないですよ」
「『なっっ!!?』」
驚愕の事実に2人は固まった。ついでにここではモンスターでは無く魔物と呼ぶ事も知った。
『何故?ホワァーーーイッッ!!?』
「魔物がお金、使います?」
「『・・・・・・』」
確かに。モン・・・魔物がお金を使うとは思えない。知能があったり人との交友でもあるならまだしも、そうでなければまず使う機会なんて無いし、魔物にとってはただの石ころと同等の物と思うだろう。
「お金を稼ぐには働くしかないですよ。ギルドで依頼を受けるとか、商売事に関わらないとまず手に入らないって、似た様な事はライネス王からお金を受け取る時に聞いてますよね」
確かに、働けばとかなんとか言っていたような気はする。だが魔物が金を落とさないなんてのも聞いて無いんだが。
「世知辛い世界だぜ・・・」
『ゲームを見習って欲しいよね、まったく』
落ち込む周一と頬を膨らませるイリス。
まったくだ。あの世界ならスライムですら金と薬草を持ってるぞ。
「現実からすればゲームの方がおかしいって」
「えっと、ご飯のお金だったら私が代わりに出すよ?」
現実を突き付ける美遊に、アイリスは優しく周一に声をかけた。
「ダメに決まってるでしょ。元はと言えば管理をしっかりしなかった本人の責任なんだから」
「えー・・・っと、そうだっけ?」
こんな男を甘やかすなと言った表情で注意する美遊にアイリスはカルド達に確認を取る様に振り向くと、焦りを感じる様な頷き方をした。
「お、おうっ。シューイチが頼むって言ってたからな」
「お、おとーさんがあのお金の範囲でシューイチさんの服を見繕ってて言ってたからっ」
あっ。そういや俺、全財産をおっちゃんに渡してたな・・・自業自得って奴か。
「・・・今から一部返品って出来る?」
流石に全返品したら全裸になるため出来ないが、この剣とかコート辺りでも返品出来れば多少はマシになるはずだろう。
『そっ、そうだよっ!私達の世界にはク―」
「うちの店は返品はやって無いぜ」
「新品しか扱わないからねっ!」
『・・・なっ!?』
クーリングオフ制度は即答で阻止された。俺達の世界ならそれは通らないだろうけど、ここは異世界。通るのが不自然と思った方が自然だろう。美遊と目が合ったイリスは涙目になりながらクーリングオフと書かれたプラカードをゆっくりと掲げ始める。だが美遊は黙って首を横に振った。
なんともブラックな・・・。
『ありえない・・・なんてダークネスなの・・・』
膝から崩れ落ち行くイリス。
おいおい。俺よりも真っ黒にしてるし・・・ってなんであの2人は誇らしげなの?
「なぁアイリス。マジで魔物って金持ってない?」
「う、うん。でも皮とか角とか素材になる魔物もいるから、それをギルドで買い取って貰えばお金にはなるって言う点は間違ってはな」
そう答えるアイリスが言いきる前に近くの茂みからガサガサと音が聞こえた。
「『そこかぁああああああああああああああ!!!』」
その茂みに向かって猛ダッシュする周一。すると全身毛で覆われている犬の頭をした人型の魔物が驚いた様な鳴き声を出すとともに一目散にその場から逃げだした。
「チッ。コボルトかよ!」
『あんな雑魚、金にもならねぇっ!運が良かったなっ。ぺっっ!!』
2人はそう言ってアイリス達の元まで戻る。
「ま、魔物が逃げちゃった・・・」
テルフィアはそれに唖然とする。
弱い魔物は力量を測れないと言われているので人を見つけたら一目散に襲いかかるのが多い。だから魔物が人から逃げるなんて行動を起こしたのは周一達の目がとてつもなく怖かったのだろうとテルフィアは思った。
「魔物と戦闘にならないのは私的には楽でいいのだけれど・・・」
「そうですね。大方、私達より少し前にここを通ってる人がいるって事になりますからね」
リアンの心配するような物言いに美遊がまるで周一達に今まで魔物と出会わなかった理由を伝えるかのように補足する。
『それってどうゆ―ことなの!』
「私達より先にモンスターを倒してった人がいるって事。モンスターは倒すとしばらくは出て来なくなるから、こうゆう状況だったりする事があるの」
イリスの質問に美遊が答える。
「つまりシンボルエンカウントか。エリアチェンジが無いとすると、リスポーンまでどれくらいだ?」
「しんぼ?」
「りすぽ?」
「現実だって言ったでしょ。魔物が湧く時間を測ってる人なんていると思う?」
未知のワードに話を理解出来ないアイリス達。
まぁ、そんな暇人いるわけ無いわな。それにゲームみたいにマップで知らせてくれる機能があれば解るだろうが、そんな機能なんて現実に存在する訳・・・いるじゃん。俺の隣に。
『んー?』
周一はイリスをチラッと見たが当の本人は解っていない様子だった。
「まあ話はそれくらいでいいんじゃねーか?」
「ええ、とりあえず今は私達の先に他の人がいるって事。出来ればその人達に見つからずに目的の場所まで行ければいいのだけれど・・・」
「ちょっと厳しいよねー」
「厳しい?」
厳しい理由に検討が付かない周一は疑問をカルド一家に向けて言った。
「ええ、次の第9層は浮遊島のエリア。あるのは浮遊する平地の島々とそれをつなぐ道ぐらいなの。だから身を隠す場所が無いから人にも魔物にも見つかりやすいのよ」
「というか他の誰か、同じギルドメンバーでも見つかるとマズイのか?」
「当たり前でしょ。確かにメンバーなら問題は無いわ。ただここはライネスのダンジョンでここに来るのはライネスの人達が大半なのよ」
「もし見つかったら色々面倒ですからねー・・・アイリス様が」
「テルフィア!?他人事だと思って・・・もうっ」
「えへへ。ごめんなさいです」
あー、そう言えばアイリスは有名人だったな。ライネスの人間ならライネス王に報告がいくだろうし、例え他国の人だったとしても見つかればそりゃ声かけられたりして足止めをくらう訳か。確かに面倒だな。
「でも結局行かなきゃ目的地につかねーんだろ?見つかった時はそんときにでも考えればいいだろ」
『レッツゴーだよ!』
そう言いながら周一とイリスは一番に魔法陣の中に入り、第9層へと先に転移する。
「ちょっ!?シュウイチさん!!?」
「・・・彼、馬鹿なの?」
「最初に話した時はまともそうだったんですけどね」
「ま、確かにここで待っててもしょうがねーし。俺はシューイチの考えも間違っちゃいねーと思うぜ」
「だねー。じゃあ私もっ」
アイリスの引き留める声が届く前に転移してしまう周一。それに呆れるリアンと美遊。周一の行動に賛同するように次にテルフィア、カルドが続く様に魔法陣に入っていく。それに続きリアンと美遊も入って行った。
「はぁ~・・・もうなるようになるしか無い、かな・・・」
諦めたアイリスは面倒事になる覚悟を決めてから渋々魔法陣に入っていった。