2-1 異世界にあるある? 数多な出会い
店のドアに臨時休業の札を出してきたカルドは全裸の周一を商品の埃除け用の布で包み担いで、美遊と共に店の奥の居住スペースの客間とリビングへ兼ねた部屋へと来ていた。アイリスは服を持って店の奥の方へ行き、隣の店プリンセスナイトへ通じる廊下を通り、そこの試着室で着替えをしに向かって行った。
「それであなた・・・これは一体どうゆう状況なのかしら?」
「リアン・・・それは俺が聞きたいぐらいだ。いくつか商品をダメにされたしな。理由次第じゃ弁償だぞ、ミユちゃん」
室内だというのに随分と厚着でモコモコした格好をしている女性、カルドの妻リアン。椅子に座っているリアンが先程入れた熱々のお茶のを少し飲み、ティーカップをテーブルに置くと状況説明を求めた。だがカルドは全容を知らないため、弁償代の明細が書かれた紙を見せながら話を美遊に振る。
「商品についてはごめんなさい。弁償します。・・・でも理由は私よりこの変態に聞いてくださいよっ!あんな事しなければ商品にまで被害が出なかったんですから」
「あんな事?」
美遊は商品については謝り、カルドに金貨を6枚、6000ベルを手渡した、そしてその原因は周一にあると言う美遊に現場を見てないリアンにはさっぱりわからないため詳細を聞く。
「この変態が裸のアイリスにいきなり抱きついたんですよっ!」
簀巻きになって床に転がっている周一を指さしながら言う。
「ああ。そう言う事ね」
「そうなんですっ!」
リアンは納得して美遊も当然の結果ですと言うようにリアンを見て頷く。
「成り行きは解らないけど、それはミユちゃんが悪いわね」
「そうですっ!だから悪いのは全部・・・ってええっっ!!?私っ!?何でっ!!?」
原因が美遊にあると言うリアンに驚きを隠せない美遊は理由を求めた。
「だって裸を見ちゃったんでしょ?年頃の男の子ならそういう行動してもおかしくは無いわよ。ましてそれがアイリスの裸なら餓死寸前の人がごちそうを目の前にしている状況と同じぐらいの事よ。ミユちゃんはそんな状態でも目の前にあるごちそう、我慢できるの?」
「それは・・・って何ですかその例えはっ!?」
一瞬説得されかける美遊だったが話を逸らされてる事に気付いた。
「だって私も体験した事だもの。ねぇあなた」
「ああっ!リアンの裸は最高たぜ!」
「ふっ、2人して何言ってるんですかっ!!?」
平然と言うリアンと笑うカルドに顔を真っ赤にして怒る美遊。
「まあ、冗談は置いておいて・・・そっちの。どう?彼、起きそう?」
リアンは話を本題へと戻すため、床に転がっている周一の方、正確にはその傍にいる四角いウィンドウ画面に映った銀髪の青空ドレスを着たゴスロリ・・・では無くミニスカナース服を着た銀髪少女に声をかけた。
『よっと、ほいっと、これもっ!ますたー死なな・・・ん?ますたー、起こした方がいーい?』
画面の中で少女と一緒に映って横になっている周一に似せた人形?に看病をしている素振りをしている銀髪の少女。少女の周りには青い液体の入った瓶や赤い羽根、ヨモギの様なの葉っぱに雫が付いている葉っぱ、[らすとえりくさー]と書かれた紙が張り付けられている謎の色をした瓶。様々なアイテムを全て周一の人形?の口に突っ込んでいた。
「ええ、そうね。そうしてくれると話が出来て助かるのだけれど」
リアンはその茶番劇を見なかった事にして冷静に受け答えた。
『はーい。だって、ますたー。話ししたいんだって』
銀髪少女は声をかけるが周一に反応が無い。
『あれれ~?おっかしぃ~ぞぉ~?』
「・・・起きないわね」
「おい・・・まさか」
カルドとリアンは反応の無い周一を見た後、ゆっくりとその原因である人物を見る。その見られた人物は2人から目を逸らしていた。
「えっ!?まだ起きてないのっ!?」
客間のドアから声が聞こえる。着替え終わった金髪少女アイリスと青髪ポニーテールのテルフィアが客間に入って来ていた。
「そうなのよ。誰かが商品と一緒にダメにしちゃったみたいなの」
「わっ、私が悪いんですかっ!?」
リアンの言葉に美遊が大声で異議を唱えると、「ええ」「そりゃな」「やったのミユさんでしょ」『すごい刺激的だったよ』「うん」と全員?が美遊の非を認めた。その反応に美遊はショックを受け、しゃがんで「私は悪くないもん」と繰り返しながら拗ねた。
「どうしよう・・・これじゃあ話が・・・」
「そうね・・・」
「せっかく服も見繕ったのに、死んじゃってたらどーするのおとーさんっ!」
「俺に聞くなよっ」
困っている4人に対し、銀髪少女は自分の衣装を魔法の様に一瞬で変化させ、先程の青空ドレスに着替えた。
『別に死んでないし。それに起こせないとも言ってないんですけどー』
「「「「「えっ?」」」」」
全員が同じ反応をする。拗ねていた美遊ですら銀髪少女の発言に驚いた。
『あっ、えっとその前に・・・うんっ。そこのモコモコさんと加害者さんはその熱いお茶の入ったカップを持っておくといいよ』
「は?」
「どういう事かしら?」
『いーからいーからっ。きっと役に立つよ』
銀髪少女の要望が理解出来ないがとりあえず言われた通りにリアンは立ち上がり、自分と美遊のお茶を用意する。
「はい、ミユちゃん」
「ありがとうございます」
美遊は立ち上がり、リアンから熱々のお茶が入ったカップを受け取ってお礼を言う。
「それで?」
「これをどうするのかしら?」
美遊とリアンは使い道が気になって仕方なかった。
『うんっ。準備オッケーだね。それじゃっ』
銀髪少女は簀巻きの周一の方を向き大きく息を吸った。
『まっ、ますたっー!?目の前に理想郷がっ!!?』
そのワザとらしい演技の声に簀巻きがビクッと反応する。
「何処だイリスっ!!アルカディアは何処にあるっ!!?」
そして簀巻きの状態で頭を動かしながら転がり、辺りを見渡す。その反応に4人は戸惑いを隠せない。
『ほらっ。起きたよ』
「え、ええ。ありが」
「イリスっ!!」
『なぁ~に、ますたー?』
リアンがお礼を言おうとしたが仰向けになった周一が銀髪少女、イリスの名を呼んで遮った。
「確かに美少女と呼べる存在がこの場に3人いるが、1人はおばぎゃあああああああああああ!!!?」
周一が何かを口走る前にリアンと美遊が同時に持っていたティーカップの中身を周一の顔面に垂らしていた。2人と周一は先程まで距離が約5歩程あったが気付けば周一の頭の傍まで来ていた。
「本当に役に立ったわ。まさかこんな使い道があるなんて」
「そうですね。変態を黙らせるには丁度いいですね」
まるでゴミムシを見るかの如く、熱さに悶える周一を軽蔑する目で睨む2人。
【※良い子は真似しないでね】と別のウィンドウ画面に映しておくイリス。誰に対しての配慮かは解らないが確かに真似してはいけない事だ。
「はっ!?2人とも何してるんですかっ!?」
茫然とその光景を見ていたアイリスはふと我に返り、急いで周一の傍に駆け寄って緑色の魔法陣を手から出して回復の魔法をかける。
「「こいつが悪い」」
「リアンさんまでっ!?」
美遊はともかく、リアンまでもが口が悪くなっている事にアイリスは驚き、カルドとテルフィナは呆れていた。
『へぇ~それってやっぱり魔法なんだね~』
「えっ?」
『ますたーが使ってたのも見てたけど、本当にここって異世界なんだね』
イリスは画面の中でうんうんと頷く。イリスの周りにまた別のウィンドウ画面を出して先程のアルトに対して使った魔法を周一付近からの視点で撮った映像を流していた。
「これってあの時の・・・」
「ったく。やっぱ起きてたんじゃねーか」
仰向けになってイリスを見ていた周一。先程悶えていた人間とは思えないほど優しい顔をしていた。
『テヘッ。ゴメンねますたー。でもこーゆーのはタイミングが重要だと思うんだよっ!』
映像のウィンドウを消して、ドジッ子風に謝るイリス。
「タイミングって・・・いつから起きてたんだ?」
『ん?勿論、ますたーが私に触れた時だよ。ますたーだって知ってるでしょ?』
「あのなぁ・・・」
周一はその発言に呆れ、体の力が抜けて行くのを感じた。
『だからタイミングだってっ!だってあの場で私が出てたらますたーは注目の的だよ?』
「むっ・・・」
確かに。俺は遊び以外での目立つ行動は嫌いだ。確かにあの場でイリスが出ていたら注目される事は間違い無いだろう。
「だったら森を歩いてる時にでも出てくればいいだろ?」
『だってそんな所で出てもつまらないじゃん』
「おい」
『それに私を心配して声をかけてくれるますたー・・・最高過ぎて録音もしちゃった。エヘヘ~」
「しちゃった。じゃねーよ、ったく」
モジモジしながら喜ぶイリスに少し笑みを浮かべる周一。
だからあそこで出てきたのか。確かにイベント的には良いタイミングだな。・・・腹癒せにあとで録音データは消させよう。
「あ、あのー。そろそろいいかな?」
既に魔法をかけるのを止めていたアイリスは2人の会話に口を挿む。
『ん?いいよ?』
「ああ。悪いな、えっと・・・アイリスだっけ?」
「あっ、うん。自己紹介してなかったよね。それも含めて話をしたいんだけど・・・」
一歩、距離を置いている感じはするが話がしたいとアイリスが持ちかけてくる。
「そうだな。俺達も色々聞きたいし。あと服が欲しい」
「それなら用意してあるよっ!」
出番が来たとイキイキした声で声をかけてきた青髪ポニーテールの少女。カルドとリアンの娘、テルフィアが胸に抱えていた服を周一にさし出す。
「おっ、ありがとな。えっと・・・」
「私はテルフィア」
「ああ、ありがとな。テルフィア。」
周一はお礼を言うが、簀巻き状態のままなので服を受け取れなかったため、テルフィアは服を周一の体の上に乗せた。
「いえいえ、これもお仕事ですから。お金はきっちり貰ってありますからね」
そう言いながら先程、周一がパンイチになった時に床に落としておいたこの世界のお金が入った袋をテルフィアが摘まんでぶら下げるように見せびらかした。
「ああ・・・そう」
ちゃっかりしている少女にあっけを取られる周一。
「でもいいんですかアイリス様?」
「様は付けないでって言ってるのに・・・」
「姫様なんだから付けるのは当然っ!むしろ付けない人の方がおかしいと思うんですけど―」
ジト目で様を付けない親2人を見るテルフィア。
「ここなら別に問題無いだろ、本人もそう言ってるしよ」
「そうね。それよりもテルフィア。あの服って確か・・・」
2人はテルフィアの異議を軽く流す。そしてリアンは周一の頭に乗っている服を見つめ、疑問を口にする。
「そうなの。おかーさん。これってレベル20以上の服なんですよ、アイリス様?」
「「なっ!?」」
「レベル?」
ゲーム用語が出てきた事に疑問を覚える周一をよそに、その事に声を隠せなかったのは美遊とカルドだった。
「うん。いいんだよ。だって、シュウイチさんのレベルは23だから」
「「「「ええっ!?」」」」
そんなに衝撃的だった事なのか4人からじっと見つめられる周一。
『23ってびみょーすぎるよね、ますたー』
「だな。こう言うのは異世界主人公みたく[レベルカンストで世界最強]ってのをちょっと期待してたんだが」
「ううん。勇者の中ではすごい事なんだよ。まあ、その事も含めて話をしたいの」
「・・・そうだな、俺達からも頼む」
『その前にますたーは服着なよ』
「ああ。それも頼む」
「あはは・・・」
アイリスの苦笑いを後に周一はイリスと共に服を持ったカルドに担がれ、店の試着室に向かっていった。