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森を抜けると中々の広さがある空間と大きな建物がそこそこ建っていた。ある所は木材が加工され、材木が綺麗に山積みされている。またある所はその材木を使って様々な家具へと加工されていた。美遊に聞くとこのライネスの街は[商業区][工業区][居住区]の3つの区画に分かれているようで、ここはその工業区というわけだ。木の匂いが建物や材木に近付いてもいないのにほのかに香ってくる。
「工業区は商業区と比べて人は少ないですけど、ここで作った物や依頼された物を商業区で販売したり・・・後は修理なんかもやったりしていますね。こっち側は木がメインのエリアで・・・あっち側が金属類ですよ」
工業区を歩きながら美遊は工業区の人達に軽く挨拶をしながらガイドをしてくれている。森を抜けた方向から東側の方に指をさして金属メインの工業区の場所も伝える。
「へー。この世界も工業は盛んなのな」
「そうですね。と言っても・・・ゲームを製造してる所はありませんけどね・・・」
「ゲームが無い・・・だと」
残念そうに言う美遊と軽いショックを受ける周一。きっと美遊はゲームが好きだったのだろう。
その気持ち、この世界に来たばかりだが解るぞ。
「それは退屈な事で」
「まあ、基本生活するために忙しいんでそんな暇も中々無いんですけどね・・・」
はぁ~~~~~~~・・・。
2人して大きなため息を吐く。それを見ていた数人の工業区の人が何かあったのかと気になる視線を2人に送る。だが歩き続ける2人を見てすぐに作業に戻った。
「だからこっちでは違う趣味を、とりあえず可愛い物集めをする事にしてますけどね。何かしないとストレス溜まりますし」
女の子らしい趣味だ。きっとネコのトンガリ帽子もその一つなのだろう。俺は・・・こいつが居れば何とかなるかな。
周一はチラッと自分の銀の腕輪を見る。
「それで、服は商業区って所でいいのか?」
周一は話題を本来の目的へと変える。
「はい。服を売っている所は結構あるんですが、円道さんには来て欲しいお店があるのでそこまで案内しますね」
「きてほしい店?俺に着て欲しい服がある店って事か?まさか出会って間もな」
「違いますっ!!【来て】欲しいお店っ!そのままの意味ですっ!!まったく何なんですか。人生リセットしたらどうですか」
出会って間もないのに人生のリセットをお勧めされたんですけど。
俺そこまで美遊に酷い事・・・うん。して無いな。あれはスキンシップだ。つまり、
「冗談が上手いな。ははははは」
「冗談だったらよかったんですけどね。うふふふふ」
笑い会う2人の空間に明るいオーラと暗いオーラが出ているようだった。
美遊の先導の元でしばらく歩くと徐々に建物が密集している場所まで来る。そこに踏み入れれば場面が一気に入れ変わったと言えるほどに大勢の人々が行き交い、活気あふれる光景へと一変したと感じられた。
「街並みは中世時代ってとか。在り来りだな」
「在り来りって・・・」
活気あふれると言っても街の風景は完全に異世界ラノベの街あるあるだった。まあ金からしてだいたいは予想していた事だ。さて、気にする程の事では無いと思うが念のためだ。
「まあそれはいい。美遊」
「はい?」
「あのフラスコみたいた看板は[薬屋]でいいのか?」
周一は指を指して建物の1つ、フラスコの描かれた看板がドアの上に吊り下げられている所を指さす。
「まぁ間違っては・・・あっ、そういえば円道さんってこの世界の文字読めますか?」
「文字?あの看板に書かれてる小さい文字・・・[道具屋]って本当に道具屋かよ」
「と言う事は読めるんですね。という事はインテリングと同じ効果が・・・。円道さん、一応何ですがあれは何のお店ですか?」
「あれは・・・」
一応といった感じに美遊は周一に店の看板の文字や露店に出ている商品名の文字を次々と読ませた。
しばらくそれに付き合ったところで美遊は納得をした。
「そういや、言葉だけで文字は試してなかったもんな。でもこればっかりはな。原因はあの剣なんだろうけど、それについては俺自身知らない事が多いからな」
「そうなんですか?だって円道さんのあの青い剣は今、体の中にあるんですよね?」
「それも原理は知らん。ただそういう事が出来るって思えて、なんとなくやってる感じなんだよな」
「むぅ~。円道さんの能力のヒントになりそうなのはあの青い剣なんですけどねえ・・・」
「能力ねぇ・・・」
美遊は俺の能力についてまだ考察しているようだ。美遊の言っている能力、魔法に関しては確かにこの剣も関わってるだろうが一番の要因は俺の中に居るこの2人だろうな。
この2人と出会った事を不意に思い出すと継いでこの世界に来る前の事を思い出す。守れなかった世界を、人々を・・・親友を。
「円道さん?」
「・・・ん?どうした?」
「着きましたよ?」
「お、おう」
いつの間にか俯いていた顔を上げると、そこには男性用防具屋[ブレイブナイト]と書かれた看板の店が建っていた。
「ぶれいぶ、ないと?ってか防具屋じゃねーか。服屋は?」
「ここには服もちゃんとありますよ。もちろん戦闘向きのです。あ、女性用はお隣なんで入っちゃ駄目ですよ」
そう言いながら美遊は右隣りにある女性用防具屋[プリンセスナイト]と書かれた看板の店を指さす。
直訳なら勇敢な騎士と姫騎士ってか。安易なネーミングでなんともわかりやすい。
「では、早速入りましょう」
入り口の前に立った美遊が店のドアを開けるとチリンチリンとドアの内側の上の辺りに着いていたベルが鳴る。
「そのマント早く返してほしいですしっ!」
ドアを開けながらねちっこく言う美遊。
まだ気にしてたのかよ。
「はいはい。わーったよ」
周一は美遊を追うように店の中に入っていった。