8-13
「そろそろ決着を付けようか」
剣の鍔迫り合いや身体強化による速さの勝負を繰り返し、5分ほどが経過した頃。間合いを取ったマサルダが剣を体の横へ移動させ剣を両手で握り、今までで一番の魔力を体全体に纏わせ始める。
「シューイチ。お前も本気を出したらどうだ?」
「今もわりと本気なんだが・・・って言っても通じないかw」
俺はそう言ったが、見抜かれてでもいるのか。マサルダの目はそれを嘘だとはっきり伝えていた。
「わかった。[1st]フォーム」
周一はマサルダの目に負け、1stの姿になって剣を構える。
「これでいいか?」
「・・・やはり隠していたか。ならば手加減の必要は無し、全力で行くぞ!!」
「っ!」
マサルダは周一の視界を奪うために土魔法でドーム上の土壁を作った。
(何処から来るか解らないってやつか)
異世界あるある。バトル物定番の相手を視認出来ない状態にさせてからの奇襲攻撃。つまり。
(こっちだな)
周一は後ろ、背中側に体を向けて構える。すると破壊音と共に辺りが背後から明るくなる。
「はああああああああっ!!!」
マサルダは周一の後ろを完全に取った状態で襲い掛かってきた。マサルダは視界を奪ったにも関わらず真正面から突っ込んできたのだ。普通は相手の隙をつき易い背後、もしくは剣を持っていない左側からの奇襲が基本だ。その方が例え防がれたとしても、相手に力を入れさせるタイミングをずらすことができ、次の攻撃に繋げやすいからだ。だがマサルダはそうはしなかった。そして、周一もそれを解っていた。
「・・・だと思ったw」
周一は力を入れるタイミングをずらすことなく体を捻らせ、その勢いでマサルダの大剣に剣をぶつける。
「っ!?だがっ!!」
マサルダは大剣の刃を動かし始める。交えた周一の剣は流され、共に周一の体も流される。これは最初と同じ結果だ。だがマサルダも解ってやっている。既に次の一撃を入れられる体勢を取りながら、かつ周一の不意打ちを避けれるように動きをしっかりと見ている。
「もらっ!?」
マサルダはその目に映った物に焦りを感じた。
周一の手。受け流した右手の剣の他にもう1つ。左手にも先程とは形や長さが違うがそこには確かに青い剣が握られていた。
(剣がっ!?)
マサルダはそれに気付いたが体は蹴りにしか対応出来ない状態だったため、タイミングが遅れた。
「がぁはっ!!?!?」
その所為で防御が間に合わず思いっきり胴体への直撃をくらい、結界の端まで吹っ飛ぶ。その光景に兵士達は言葉が出なかった。
「ふぅ。身体強化って便利だな。踏み込みをそんなしなくても込め方次第でここまで出来るんだからな」
周一の両手には先程のロングソードより刀身が少し短くなった剣。ダガーが握られていた。
「さて、決着だ。結界解いて、マサルダを介抱してやってくれ」
周一は1stの姿から元の姿へと戻る。と言っても手袋と装飾などが無くなったぐらいで大した差は無い。姿を戻すと同時に青い剣も体へと戻った。
その声に結界装置の側にいた兵士が装置から魔石を取り出して結界を解除する。そしてマサルダが吹っ飛んでいった側のそばにいた兵士達が急いで安否を確認しに駆け寄る。
『・・・やったか?』
頭の上に一瞬で現れたイリスちゃんがそんな事を言う。
「いや、やっちゃマズイだろ」
『も~冗談だって。それにこれを誰かが言っとけばまず死んでないでしょ。お約束だよ、お・や・く・そ・く』
確かにその台詞はやってないと言う定番のフラグ。でもやるつもりも無いのにそれを言われたら不安でしかない。
「薬を持ってきてくれ!」
『「・・・・・・」』
ほら、言わんこっちゃない。
兵士が倉庫に常備していたのであろう薬を持ってきてマサルダに使用する。
「クソッ!ヒールがあればもっと早く治せるのに!」
『「・・・・・・」』
え、無いの?土魔法に回復系無いの?ゲームだと[アースヒール]とか言って無理矢理にでも回復魔法作りましたみたいなのがあるのに?
「す、すまん!マサルダ!!」
『あんなフラグ言っちゃてゴメン!』
周一とイリスもマサルダに駆け寄る。
『「クーラ!」』
「は、はいっ!?」
ただ呆然とその光景を見ていたクーラに声をかける。
「お前なら回復魔法が使えるだろ!」
『お願い!!』
「わ、わかりました!」
そう言われたクーラは慌ててマサルダのもとへと駆けていった。