8-12
「ぐっ・・・(馬鹿力過ぎるだろっ!?)」
周一はマサルダとの鍔迫り合いに足が地面にめり込むのを感じた。足が軋み腕が痺れる。一瞬で感覚を持っていかれそうになる。見た目がエルフでも中身はドワーフ。力強さは異世界設定通りだと痛感する。
「よもや、もう忘れた訳ではあるまいな?」
「っ!?」
マサルダがニヤリと笑い、大剣に付いたチェンソーの様な刃を動かし始める。それはつまり、交えていた周一の剣も巻き込まれるように動かされるという事。
(剣が、流される!!?)
マサルダがそれに合わせて剣ごと周一を自身の横へとずらして避ける。そしてマサルダの力を踏み止まる為に使っていた力の行き場の無くなった周一はその勢いのまま体勢を崩し、無防備な状態になってしまう。
「この程度かっ!」
既に剣を振り下ろす構えをしていたマサルダはそのまま周一へと振り下ろす。その姿にクーラは思わず目を背けてしまう。
「この程度だ」
「なっ!?ぐうっ!!?」
周一は体勢を崩した状態から剣を地面へと突き刺し、剣を体の支えとする棒の代わりにしてそのまま体をひねり回し、マサルダの胴体へと魔力を込めた蹴りを入れる。咄嗟に気付いたとはいえ、地面を引きずるように蹴り動かされたために振り下ろした剣は不発に終わり、挙句にダメージを負ってしまったマサルダは思わず腹部を押さえながら周一を睨み付ける。
「・・・ったく。いきなりそういったのは対応が面倒だから止めて欲しいんだが」
刺した剣を引き抜き、構えもせずにそう伝える。
「何を言うか。今のは知ってなければ出来ない動きだぞ。いや。例え知っていたとしても、レベル23のお前が対応出来る速度ではないぞ」
「ん?お前も他人のレベルが解るってか?」
「なんだ知らないのか?レベル100を超えた者はそのスキルを身につけることが出来るのだぞ。ちなみに私はレベル106だ」
つまりレベル差は83。ゲームなら通常攻撃の一撃で即死もありえるレベル差だろう。
「・・・ってことは。実力差があると解りきってて手加減なしかよ」
「言っただろう。全力を出さずに勝敗を決めるのは恥だと」
「迷惑な誇りだな」
「だがそれをかわした。つまりはこの程度なら問題ないと、言う訳だっ!」
話を切り上げると、マサルダはまたすぐに周一の前で剣を振り下ろす構えでいた。
先程もそうだったが、少し距離があるなら多少の移動時間があるはず。だが、マサルダはたった1歩踏み込んだだけで周一の目の前へと移動した。それだけの脚力、身体強化なのだろう。
だが、それはもう見た。
「ああ」
「なっ!?(私より早いだとっ!?)」
いつの間にか背後に回った周一に不意を付かれ、思わず大剣を盾に守りの体勢を取ってしまう。周一は気にせずそのまま剣を振り下ろすがその大剣はビクともしなかったために後退する。
「この程度ならな」
「・・・シューイチ。お前、剣だけでは無いな。その速さがお前の力か?」
「それを知るのも闘いの醍醐味だろ?」
「ふっ。面白い。ならばその力、暴いてみせよう!」
再び剣を交え、かわし。闘いを続けた。
「どうして。シューイチはレベルを上げられる能力があると聞いていたのに使わないのですか。どうしてレベル23であんな動きが・・・」
クーラは無意識に声に出してしまう。
周一の1stフォームについてはアイリスから聞いている。つまりそれになってしまえばレベルは周一の方が上。力で押し負ける事も無いはずだと考えたからだ。なのに何故相手の誇りに傷を付けるような闘いをしているのかと。
『ふふ~ん。そんなに知りたいなら教えてあげるよっ』
それを自慢げに説明するよと伝えたイリス。2人の邪魔をしないようにクーラにしか聞こえない声量で話している。
『ますたーは相手の動きを見ただけでほぼ完璧に真似できるんだよ』
「・・・動きを完璧に?」
『ほぼ完璧に。だよ。体のつくりが100%まったく同じ生物なんて存在しないのはさすがに理解出来るよね?』
「え、その・・・」
『はぁ~。同じだったらそもそも、顔も声も身長も体重も毛も思考も。果ては寿命すら全て同じって事になるんだよ。こう言えば解るでしょ』
「それは、そうですけど・・・つまり」
『つまりね。ますたーは相手の動きを見て、それを自分に最適化出来るの。でも完璧に真似できないのは体のつくりが違うから。例えば同じ大きさの岩に細身の人と豪腕の人が同じ拳の技を使って破壊をしようとしたらどうなると思う?』
そんなのは簡単だ。細身は壊すことが出来ないかヒビを入れるのが精一杯。魔力を込めれば変わるかも知れないが、それは豪腕も同様で普通に殴っても壊すことが出来るだろう。そして魔力を込めればそれ以上の結果も。とクーラはイメージした。
『そう。答えは豪腕の人のほうが強いと思える結果になる』
そのクーラのイメージに答えるかのようにイリスは続ける。
『力加減とか、手足の長さとか。そういった違いで結果が変わってしまう。だから相手の動きを完全完璧に真似する事はその人に100%完全完璧に同じ存在にしか出来ないんだよ』
「でも彼は。シューイチは見ただけでと」
『だから[ほぼ]だってば。体格差にもよるけど私達の世界では人間しかいなかったからそこまで差は無かったけどね。ドワーフのマサルダさん相手にはかなり違いがあったけどね』
「違い?そもそもシューイチは何を真似たと言うのですか?」
『はじめのい~っぽ。だよ』
「始めの、1歩?」
『そう。身体強化の魔力の込め方。見た感じマサルダさん一瞬に魔力を爆発させるように込めて踏み出す。それだけですごい脚力が生まれてあの速さになったってとこかな。でもドワーフでも、体を鍛えぬいた訳でもないますたーがそんなことしたら骨が粉々に砕けるのはまず間違いないからね。だから[最適化]。自分に最も合った方法で。つまりは[アレンジ]。自己流で相手の技を真似てるだけ。相手の技を見て、それに近い結果を出してるだけ。それがオリジナルを超える結果にもなりえることがある』
「それって!?」
先程のマサルダが防御せざる終えなくなった状況。つまり、マサルダの動きを凌駕した動きがマサルダの動きをアレンジしたものという事。
「そんなの、人に出来るわけが」
『出来るよ』
「え・・・」
『だって、そうじゃなきゃ。人に知恵も技術も言葉も。そして信頼も。現在まで紡いで行く事なんて絶対に出来はしない。ひとりひとり違うからこそ紡いで来れた。私を作ってくれた人はそう教えてくれた。そして、ますたーも私も。人と言う存在においてそれだけは信じてる』
「・・・・・・」
『クーラ。あなたはどうしたいの?なんでここに立ってるの?』
「私は・・・」
クーラは種族の違う2人の闘い。その男の背中に自分が何も出来ていなかったことを思い知らされ、拳を強く握り締めた。