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永遠の約束 永遠の旅 -とわのやくそく とわのたび-  作者: 風翔 響
第1部:エレメンタニア
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8-10

 大樹の側にある兵舎に場所を移した俺達はそのままマサルダに待合室のような場所へと案内された。マサルダは俺達にしばらくここで待つように言うと部屋を出た・・・のだが、客用の椅子に腰をかけた途端にマサルダがすぐに戻ってきた。


「ったく、イモンはいねーのか」


 頭を掻きながら戻ってきたマサルダはそう呟いた。見た目はやはり美人のエルフだがここではエルフではなくドワーフ。その仕草は俺達の持ってるイメージが確かにそこにあった。


「イモンってギーベストが言ってたもう1人か」

「なんだ。師からイモンの事も聞いてたのか。あいつ、陛下に呼ばれたらしくてそっちに行っちゃったんだよ」


 椅子に腰をかけながらそう言うマサルダ。


「まあ、あんたらの事は名前しか聞いてないけどな。ギーベストからアンタとイモンってのに会ったら案内を頼めとしか言われてないしな」

「そうなのか。だったら改めて。私はマサルダ。弟のイモンと共に下の管理を任されている」

「シュウイチ・エンドー。異世界人だ」

『私はイリスだよっ』


 再度互いに自己紹介をする。


「それでシューイチ。先程クーラ様から聞いたが。お前、本当に陛下を相手に武闘会に出るのか?」


 マサルダは正気を疑った表情をしている。


「ああ。それが仲良くなるのに手っ取り早いらしいからな」

「それはクーラ様のためか?」

「『は?』」


 何言ってんの?というような反応をするとクーラはビクッと体を反応させた。


「・・・違うのか?」


 それを見たマサルダが確認するかのように聞く。


「んじゃ逆に聞くけど俺がそのために武闘会に出て、勝ち負けに関係なく友好を築けたとしよう。それでマサルダはクーラのためにブリズを助けてやってくれって俺が頼んだら聞いてくれるのか?」

「・・・私はお断りだな」

「なんっ!?」


 何でと言いたそうだったが自分がそう言える立場じゃないと思ったのか途中で声が止まる。


「だろうな。というかそもそもクーラの用事なんて俺には関係のない事だ」

「っ!?」


 パァン!

 クーラは思わず俺の頬に平手をぶつける。


「何でそんな事を言うのですか!?元はといえば貴方を狙いに来たライネスの勇者が起こしたことなのです!貴方が持ち込んだ揉め事に私達が巻き込まれたのですよ!!」

「・・・そうだな。それで?」

「それ、で?貴方にとってその程度のことなのですかっ!?たくさんの民が死んで!居場所を失って!みんな苦しんでいるというのに!!」


 激昂し、怒りをそのまま俺にぶつけるクーラ。


『クーラって本当に何もかも人任せなんだね』

「・・・私が?人任せ?」

「イリス」

『はっ!ゴメンますたー』

「どういう・・・ことですか?」


 イリスの発言に我に返ったのか、それてもいないのか。視線はまだ怒りに満ちていた。

 これはもう説明しないと駄目っぽいな。出来れば自分で気付くまで、期限ギリギリまでは粘りたかったが。


「はぁ。お前さ。マサルダが何で断ったか、解るか?」

「そんなの・・・解るわけ」

「マサルダ、断った理由を教えてやってくれ」

「・・・お前は解って言っているのだな」

「ああ。当然だ。本当は自分で気付いて欲しかったんだが・・・こいつがな」

『あうぅ~~』


 頭に乗ってるイリスちゃんに人差し指を突きつける。イリスちゃんはそれに突かれているような動きを魅せる。


「わかった。クーラ様」

「・・・はい」

「理由は1つです」

「1つ?」

「シューイチが武闘会でどんな結果を残そうが陛下に立ち向かったという勇気はこの国の誰もが賞賛し、無謀だと馬鹿にするものです。ですが少なからずシューイチを無下に扱う者は減るでしょう。事によっては頼みを聞いてもいいと思う者も出ます。これがどういう意味かお解りでしょうか?」

「それは武闘会に出たことで、ティーテ様が認めたという友好の証が」

「違います」

「えっ」

「そんなものはありません。陛下に出来るとしても「仲良くしてあげてください」としか言えないでしょう」

「そんなっ!?だったら何で私まで武闘会に出なければいけないのですか!?」


 マサルダがやはりと言った表情を見せると、クーラも自分の失言に気付く。


「クーラ様がここにいる理由を聞いて何故シューイチだけなのかと思いましたが、陛下はやはりクーラ様にも出るように言っていましたか」


 クーラは何を思ってか俺の顔を恐れるように見てきた。


「・・・クーラ様」

「っ!」

「あなたがずっと抱えているその袋。上で売ってる有名な豆玉ですね。それはあなたが購入された物ですか?」

「これは・・・」

「シューイチが、ですよね」

「・・・・・・」


 その沈黙は誰もが肯定の意として捉えた。


「今のフォレフォスがアイリス様以外の人間に優しくすることなんで絶対にありえません。まして物を買わせることも。ですがそんな状態の中でそれを持っているという事は少なくとも店の主人はシューイチを認めた。もしくは信じられる何かを見たからではないでしょうか?」


 クーラは思い返す。だが、そんな素振りは何処にもない。


(普通に接して、普通に話して、そしたら周りにも人が集まっていって・・・えっ?どうして?)


 クーラはやっと気付く。あの時の困惑がこのことだったのだと。


「・・・シューイチ」

「ん?」

「どうして、あんなにも気軽にエルフの方と話せたのですか?どうして、信用を得られたのですか?」


 そう。誰もが行き着く疑問である。人間を嫌悪しているフォレフォスの民達相手に声をかけるなんて自身が傷付くだけの行為にしかならない。足蹴にされて気分を害するだけ。クーラはそう思っていた。だから少しでも嫌われないようにおとなしくして、ティーテ様の案に乗った後から徐々に堀を埋めていけばいいと。


「・・・クーラ。お前もしかして人間とエルフとドワーフ。別々の種族だとか思ってる?」

「えっ。だってそれは」

「んじゃお前は少し遠くの人間を見つけて指差してそいつの事を呼ぶ時、[あの人間]って言うのか?」

「え?その・・・」

「[あの人]とかって呼ぶよな。名前を知ってても知らなくても。んじゃ、ギーベストをそんな感じで呼ぶ時は?」

「あの人を・・・あっ」

「今無意識に言ったろ。あの[人]って。なんで[あのエルフ]って言わないんだ?」

「それは・・・」


 クーラは何故そう言ったのか自分でも解っていなさそうだ。


「少しでも時間を共にして、知ったからだろ」

「っ!?」

「店のおっちゃんは俺のこと知らないし俺もおっちゃんのことを知らない。ましてあの場限りかも知れない。でも少しでも時間を共にすればわかる事だってある。話せばよりな。種族とか関係なく生きているって点と、言葉が話せるって点は同じだ。見た目とか種族とか関係ないんだよ。生活にだって違いはあるかもしれないが共通点があるなら解り合うことが出来る。人ってのは個人をひとりひとりを指す言葉なんだよ。ひとりひとりの名前なんていつでもいくらでも呼び方を変えられる。良い意味でも悪い意味でもな。でも人って言う呼び方が変わる時は軽蔑を込めて見下している時しかない」


 そう・・・


「化物とか呼ばれたりな」


 クーラは俺の言葉に思い当たる。もちろん俺の過去のことについてだろう。


「化物?シューイチはそう呼ばれているのか?」


 マサルダは俺が何でそう呼ばれているかは知らない。だからこの言葉を良い意味なのか悪い意味なのかが解っていない。


「俺がいた世界でな」

「・・・という事は強いのか?」

「お前って、会った時からそんな感じはすると思ったがティーテと似てるな」

「当たり前だ。ここでは強さは地位になる。武人なら強い者と聞いたら試したくなる。きっと師も陛下もお前と戦いたいと思っていたはずだ。でなければ師が許可証を渡すわけがない。そういえば師とは戦ったのか?」

「いや。話したぐらいだな」

「それだけで師が認めるとは・・・ますます気になるな。なあシューイチ!今から組み手をしないか?」

「それ、俺になんのメリットがあるわけ?」

「私に勝ったら凄腕の加工師を紹介しよう」

『ますたーが負けたら?』

「私の腹が膨れるまで豆玉を奢る」

「・・・ま、いっか。装備探しの手間が省けていいし」

「決まりだな。では修練場に行こう。クーラ様も」

「え、私も?」


 立ち上がったマサルダは部屋の扉の前まで移動し、クーラの方へと振り返る。


「理由を知りたいというなら尚更、見て欲しい。それに・・・」

「それに、なんですか?」

「クーラ様がシューイチを信じておられない様でしたので、少しでもその糧となれば」

「っ!?・・・わかりました」


 クーラは了承し、マサルダの後をついて行くように部屋を出た。またそれについて行くように俺も椅子から立つ。


「それ、俺が居るときに言うか?」

『ますたー。ラノベ主人公はどんな小さなトラブルにも首を突っ込んでポイント稼ぎをしてるから結果ハーレムになるんだよ。美少女に信じて貰うにはそういう積み重ねが必要なんだよ』

「んじゃ、俺には無理だな」

『だね~。というかあんな都合よくトラブルなんて起こってたら世界なんて簡単に滅んじゃうよね~』

「だよな。というか何であんな都合よくトラブル起こるんだろうな?」

『そうしないと、[タスケテー]→[ダイジョウブ?]→[アリガトウステキナヒトー!ダイスキー]って流れに出来ないし話的にハーレム作れないからじゃない?』

「俺、もしそんな奴がリアルでいたら絶対信用できないわー。都合悪くなったら絶対裏切りそうだし」

『だね~』


と、そんな話をしながら修練場へと向かった。

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