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「それで、お前達は何処へ行くつもりだ?」
俺達の後を付いてきたギーベストが聞いてくる。
『ここだよ』
「ここは・・・下に行くつもりなのか?」
イリスが見せたのは写真の画像。それは朝、イリスが上空から撮影していたものだ。その画像には街の端に大きな横穴があった。こっそりクーラも覗いている。
「住み分けでもしてるのか」
「どうしてそんな事を聞く」
「比率的にな。ここはエルフの方が多いだろ」
「ああ。なるほどな。だがシューイチ。別に私達は住み分けをしている訳ではない。快適に過ごせる方で暮らしているというだけだ」
『どういう事?』
「得手不得手いうやつだ。土属性の魔法は2種に分かれている。土が関わるものと植物が関わるものだ。エルフは植物魔法が得意なのが多い。だから上で暮らすという風にな。だが中には土魔法が得意とするエルフもいる。そういった者が下で暮らす事もある。もちろんドワーフも同じだ」
「事もあるってことは」
「ああ。絶対じゃない。そこは当人の自由だ。私のように土魔法が得意でも上に住処を持っていたりする者は少なくない」
「なるほどな」
そして話しているうちに画像に映っていたあの横穴の前まで来た。
「ギーベストも来るのか?」
「揉め事が起こらないように出来る事なら付いて案内をしてやりたいが私は今日も上での仕事がある」
「そっか」
するとギーベストは手の平サイズの木の板を腰に着けていた袋から取り出す。その木の板には文字が書かれていた。文字の意味はどうやらギーベストの名前が書かれているだけの物らしい。
「シューイチ。これを持っていけ」
「これは?」
「許可証のようなものだ。私の名と顔は上でも下でも広く知られている。これを見せれば下の連中も悪い扱いはしないはずだ。もし揉め事になりそうだったらこれを見せて私を呼ぶように伝えればいい」
確かにそれはありがたい。つまり保証人になってくれるらしい。
「そうか。ならありがたく貰っとく」
『ありがとー、ギーベストさん』
俺達はお礼を言い、クーラは頭だけを軽く下げた。
「気にするな。ああそれと。もしイモンとマサルダに会ったら案内して貰うといい。根は良い奴らだ。私がそう頼んでいたと言えば案内を引き受けてくれるはずだ」
「わかった」
俺達はギーベストと別れ、横穴に入っていった。
ランプ代わりに備え付けられている黄色の魔石の洞窟。そして階段。時折強めの風が通り抜ける。きっと空気の循環。その通り道となっているのだろう。
そして階段を下り終え、広い場所へと抜ける。そこは地上とはまた違う幻想的な場所。フォレフォスの大樹の木が地上では多くあったようにここではその根っこ達が街のそこらにあった。そして何よりも、天井にある大きな穴。あれは複数撮っていた画像の中の一枚にあった地上の街の中央にあった大きな穴だ。あの穴から照らされる太陽の光が街全体を地上と変わりないぐらいにしっかりと明るくしている。
「なるほどねぇ」
『異世界ならではって感じだね』
そんな光景を眺める2人。
「あ、あの」
「ん?どうしたクーラ?」
「視線が・・・」
クーラの指摘に周りを見る。街中を歩いていた高身長のドワーフ達やギーベストの言っていた通り低身長のエルフ達もが俺達に視線を集め、ざわつき始めた。
「ああ・・・こりゃ。揉め事起こすなってのがそもそも無理な話だったな」
『だねぇ~』
きっとそれを考慮してギーベストは許可証を渡してくれたのだろう。
地上では俺達のことを少なからず知っている者もいるかもしれないがここでは知らない者が多くいてもおかしくは無い。
「また人間が来たのかっ!」
そんなざわつきの中で女性の声が目立って聞こえた。
その声の方に視線を向けると向けた方から人影が飛んでくるのが見えた。
「面倒が起こる前に潰す!!」
そう言いながら俺に向かって飛び掛ってきたのは頑丈そうな赤いガントレット身につけた女性だった。
「ま、待ってくだ」
「問答無用っ!」
クーラの止める声も無視し、俺の顔面目掛けて拳が・・・当たる前に停止した。
「・・・何故避けない、何故抵抗しない?」
俺が何も動きを見せなかった事に違和感を感じたのかそう聞いてくる。
「それがここのルールだろ」
「・・・・・・」
その答えに女性は黙る。
「ただ、これが当たったなら話は変わるけどな」
その止めた拳に指をさして続けてそう言うと。女性は「ぷっ」と口にして拳を降ろした。
「はははははははっ!いや悪かったな人間。どうやらお前は他の人間共とは違う様だ!」
そして大笑いをする女性。
「名を聞こう!」
「シュウイチ・エンドー」
「そうかっ!私はマサルダ」
あ、ギーベストの言ってたやつか。
「シューイチ、お前は何しに下へ来た?」
「観光」
(本当に観光なのっ!?)
「そうかっ。ならば私が直々に案内してやろう!・・・ついて来い!」
そう言って1人で行こうとするが、俺達がついてこなかったことに気付いたのか俺の手首を掴みに来た。
「ちょ!?いたたたたたあがだだだだだっ!?わかった!わかったからHANASE!!」
そして引っ張られる俺をクーラが戸惑いながらも後を追った。